【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第65回:声の音色の“明るい”と“深い”の調整方法を解説!~合唱女子や声楽男子が陥るワナ~

2025.05.23

“深い”や“太い”だけが正義ではない

 tOmozoです。第64回で一挙紹介した「音色おんしょくシリーズ」は以下のトピックで詳細解説を進めていきます(‘ω’)ノ。

(1)“明るい”を作る3つの作業
(2)“深い”を作るふたつの作業
(3)音色の4系統分類表
(4)鼻音量で“マット”を作る
(5)雑音量で“ノイジー”を作る
(6)もとの声質:ハスキーとシルキー
(7)ミックスボイス:ソフトとハード

 今回は(1)“明るい”と(2)“深い”についての詳細解説です。それとこれに関連して、“深い”や“太い”が正義だと思われているクラシック/声楽界や合唱界でこそ起こり得る、「発声の未完全さ」についても触れます。“深い”声で発声するためには、その反対にある“明るい”声の材料も必要になるという内容です。


音色調整の基本“明るい”と“深い”をマスター

【軸になる“明るい”と“深い”】
【軸になる“明るい”と“深い”】

(1)“明るい”を作る3つの作業

 “明るい”音色を作る材料は3つです。

①「喉頭こうとう」を上げる
②「倍音ばいおん」成分を増やす
③「鼻音びおん」成分を増やす

①深め ②倍音を意識 ③喉頭上げ ④鼻音 ⑤3つ合体&強調

喉頭こうとうを上げる

 喉頭を上げることで共鳴腔が狭くなり、声帯で鳴っている音声である「喉頭原音こうとうげんおん」がダイレクトに耳に届くようになります。“声が籠る”要素のうちひとつがなくなるので、その分ハッキリ聴こえてきます。喉仏の上げ方については未執筆ですが、(2)の「喉仏下げ」の逆行為になります。

 その反面、この喉仏が上がった音色は、過剰閉鎖かじょうへいさや過剰な呼気圧などとセットになると喉声のどごえ」として、悪い印象を持たれがちです。ですが“明るい”印象をはじめ、”可愛い“や“若々しい”は喉仏を上げないと作れません。喉仏を上げること自体は“悪”ではありません。筆者が“悪い地声”とも呼んでいるのは他の条件です。「喉声のどごえ」も細分すると「喉締のどじめ声」、「喉詰のどづめ声」、「喉上のどあげ声」、「張り上げ声」、「金切かなきり声」などいろいろな呼び方が出てきます。これについて整理したい方は以下をご参照ください。
関連記事:言語化ニキがまとめるよ。いろいろある「喉声」を正確に分類して区別しよう!○○ラリンクスって何?

②「倍音ばいおん」成分を増やす

 歌声の2大響きのひとつ「倍音ばいおん」は“歌声のツヤ”そのもので“キラッと”した質感です。セミの鳴き声のような鋭い響きで声区せいくとしては地声の成分になります。声門閉鎖が強い声とは必ずしも異なります。倍音生成のやり方は「軟口蓋なんこうがい(喉ちんこ)の引き合い」です。サンプル音声はモンゴルの「ホーミー」という倍音を強調した発声をマネたものです。“ヒュルヒュル”と高い音で聴こえてくるのが倍音です。

①喉頭上げでの倍音表出 ②喉頭下げでさらに倍音を強調した発声

 倍音自体の説明からやり方まで解説できている指導者は見かけないと思いますので必見です(出し惜しみしてるだけかも?)
関連記事:記事まとめー声の2大響き「倍音」について

③「鼻音びおん」成分を増やす

 「鼻音びおん」はこのケースにおいては、“ポワっと”した柔らかい質感の明るさを作る材料になるし、“ネチっと”した声の弾力の素にもなります。倍音生成でも必要になります。滑舌の悪さの要因のひとつが「鼻声はなごえ」ですので避けられやすい存在ですが、特に日本人にとってはかなり重要なアイテムになります。

 鼻音がボイトレにもたらす効果は維持しつつも、鼻にかかった音色は抑える、という調整も可能です。
関連記事:記事まとめー「鼻音」「軟口蓋の上げ下げ」について

 “明るい”音色の材料は以上の3つです(‘ω’)ノ。


(2)“深い”を作るふたつの作業

 “深い”音色を作る材料はふたつです。と言ってもこのふたつはほぼ同義です。

①「喉頭こうとう」を下げる
②「共鳴きょうめい」成分を増やす

 「喉頭こうとう喉仏のどぼとけ)」を下げることは(1)と反対の作業ですね。共鳴きょうめいは倍音と並んで歌声の2大響きのひとつであり、“歌声の水分”のようなもので“ウェット”な質感です。犬の遠吠えをマネすると生成しやすく声区せいくとしては裏声の成分になります。「喉頭下げ」をすると共鳴は響きやすくなり、深い音色になります。

①明るめ ②喉頭下げで深く ③共鳴量で深く

「喉頭下げ」≠共鳴生成

 「喉頭下げ」をすると「共鳴腔きょうめいくう」が広がり共鳴きょうめいが響くための準備が整います。でもそこに共鳴量を充満させられるかどうかはまた別の話になりますので、必ずしも「喉頭下げ=共鳴生成」とはなりません。実際に喉頭が下がった音色と、共鳴が充満した音色には違いがあり、身体感覚も変わります。これについては次回、(3)音色の4系統分類表を詳細解説するときにも触れます。

【音色の4系統分類】
【音色の4系統分類】

 喉頭が上がっていても共鳴を充満させて密度を上げる感覚は重要ですし、2大響きの「共鳴」と「倍音」は共存可能な関係となります。このあたりの説明もこの表を解説しながら触れたいと思います。
関連記事:記事まとめー声の2大響き「共鳴」について


“深い”や“太い”だけが正義ではない

 最後にクラシック/声楽界や合唱界でこそ起こり得る「発声の未完全さ」についてです。以下のトピックで筆者運営のブログで詳細解説します。主席の奏者が持っている発声条件とは何のか、おわかりいただけると思います。

深い「共鳴」には「倍音」と「鼻音」が必要

・伝統的によくある声掛けは『あくびして~』
・あくびは「喉頭下げ」と「共鳴生成」の誘発
・問題はあくび“しか”しない/させないこと
・女声は声が「散る」、男声は換声点で「詰まる」
・女声には「鼻音」と「倍音」が重要になる
・男声には「鼻音」と「吐息」が重要になる
・必要成分を無意識に持つ人が“優秀”になる
・喉頭位置はオプション、歌声成分は全部必要
・結果的には“深い”や“太い”声にすべき
・だがそれには“明るい”材料が必須になる

関連記事:“深い”声“太い”声を目指した合唱女子や声楽男子が陥るワナとは?~『あくびして~』の功罪~


次回予告

 次回は(3)音色の4系統分類表について、音声サンプルをたくさん用意してデモンストレーションしてみたいと思います(‘ω’)ノ。

 

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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