【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第64回:歌手だけでなく声優志望の方も必見。声の音色“明るい”、“深い”、“太い”などの出し分け方法を一挙公開!

2025.05.16

いろいろな声色は作り出せる

 tOmozoです。前回まで長いこと「声区せいくシリーズ」を解説してきましたが、今日から新しく「音色おんしょくシリーズ」に突入したいと思います(‘ω’)ノ。ボイトレをやっていてこんな悩みや願望はありませんか?

・声優志望なのでいろいろな声を出し分けたい
・楽曲の系統に合わせた声色を出したい
・1曲の中で音色変化の振り幅を出したい
・自分の声が気に入らないので調整したい
・ミックスボイスをマスターしたい

 これらの願望はこのシリーズをご覧いただければ実現可能になることでしょう。ミックスボイスについても『さまざまな成分≒音色を混ぜ合わせる』ことで「声区せいく」や「声区融合」を完成させるアプローチで解説しました。今回のシリーズでその材料それぞれをさらに磨き上げることになりますので、当然ここにも有効な練習が含まれています。「ソフトミックス」や「ハードミックス」も質感や音色を表す言葉ですしね。


「音色」についての基本情報

用語整理

 「音色おんしょく」は「音質おんしつ」や「トーン」「サウンド」とも言いますが、特に人の声が持つものに関しては「声色こわいろ」と言ったりもします。

音色は形容詞で表わせる

 “明るい”音色、“深い”音色など、形容詞で言い表わすことができるのが音色です。ですが、何でもかんでも形容できるわけではありません。たとえば“カッコいい”音色や、“赤っぽい”音色など、主観が強い感情を含むものや色彩感覚なんかは、音を通した時に万人共通のイメージにはなりません。人によって“カッコいい”と思うものが違うからです。客観的に状況を表わしたものやイメージが共通しやすいものは音色のひとつとしてボイトレすることができます。

 今回は“〇〇い”などの形容詞とともに、声色を調整できるボイトレアプローチすべてを簡単に紹介し、次回以降詳細解説します(‘ω’)ノ。


音色調整アプローチ6つ

 まず音色調整の軸となる“明るい”と“深い”の調整をするアプローチを紹介します。

【軸になる“明るい”と“深い”】
【軸になる“明るい”と“深い”】

(1)基本の“明るい”は3つ

 声の明るさを作ることができる条件は3つあります。

①「喉頭こうとう喉仏のどぼとけ)」を上げる
②「
倍音ばいおん」成分を増やす
③「
鼻音びおん」成分を増やす

①深め ②倍音を意識 ③喉頭上げ ④鼻音 ⑤3つ合体&強調

 これらは別々のものに見えますが、動作としてはある程度連動しています。ので、不慣れなうちは『明るくなったけど少し違う』となることもありますが、しっかりトレーニングすれば明確に切り分けて調整できるものです。

(2)基本の“深い”はふたつ

 “明るい”に対しては“暗い”ですが、ネガティブなイメージを持たれやすいので“深い”を主軸に置いています。声の深さを作る条件はふたつです。

①「喉頭こうとう喉仏のどぼとけ)」を下げる
②「共鳴きょうめい」成分を増やす

 「喉頭下げ」をすると「共鳴腔きょうめいくう」が広がることで深い音色になります。そこに共鳴量を充満させれるかはまた別の話になりますので、必ずしも「喉頭下げ=共鳴生成」とはなりません。が、ほぼ同じと思っていても大丈夫です。

①明るめ ②喉頭下げで深く ③共鳴量で深く

 この“深い”と“暗い”のように、似ているイメージもたくさん出てきますよね。さすがにこれらは声だけで表現し切れないのでしょうか?……いいえ、限度はありますがまだ可能です。

まだまだある音色調整法

 たとえば「喉頭の上下位置」は“明るい”と“深い”を調整できる基本の条件ですが、これに他の条件を組み合わせたらどうなるか?、それが次の(3)アプローチです。


(3)音色の4系統分類

 細かい音色の基本調整が叶う表を作ってみました。成分としては3つの要素になりますが、表にすると以下のように音色が4つのブロックに分かれます。

【音色の4系統分類】
【音色の4系統分類】

表の見方

①縦軸:「喉頭こうとう位置」は「共鳴きょうめい量」とほぼ同義
②横軸:「吐息といき量」は「声門閉鎖せいもんへいさ」と反対要素
③横軸:「声門閉鎖」は「倍音ばいおん量」とほぼ同義

 このように横軸と縦軸で条件を組み合わせると、似たようなイメージでもニュアンスの違いを作ることができます。“暗い”と“深い”と”太い“をデモンストレーションしてみます。他のものは詳細解説時にやりましょう。

①暗いイメージ ②深いイメージ ③太いイメージ 

 これくらい細かく分類すると、前者ふたつは人によっては逆のイメージを持つこともあると思いますが、大事なのは物理的に音色の差を作ることができるということです。

 それから、自動的に対角線上に位置するのが正反対のイメージ=完全な対義語となります。例えば“深い”の反対は“明るい”ではなく“浅い”、という具合です。
 歌声成分それぞれの質感は、「共鳴」は”ウェット”、「倍音」は“キラッと”、「吐息」は“サラッと”、などですが、条件の組み合わせによりニュアンスが変わります。これに対して「鼻音びおん」は表のどこのバランスにでも加味できる成分になります。

(4)鼻音量は“マット”さ

 鼻音びおんは“ネトっと”した「鼻声はなごえ」として心理的に避けられがちですが、声区融合でもキーアイテムになるし、音色としても“マット”な質感としてポジティブに捉えることができます。(1)の通り“明るさ”の一要因にもなります。

①鼻音をプラス ②深さ+鼻音 ③明るさ+鼻音

(5)ノイズは?

 「エッジボイス」や「がなり」などのノイズもひとつの音色アイテムとして積極活用できます。デスボイスやシャウトなどで使うノイズについては、正直筆者はあまり明るくないので、これを機会に情報収集して詳細解説をしたいと思っています。

①エッジボイス ②がなり

(6)もとの声質:ハスキーとシルキー

 これまでは“作り出せる音色”を紹介してきましたが、そもそも、個人が持っている音色には“ハスキー”と“シルキー”の質感が見い出せます。“ザラっと”か“ツルっと”かです。これがベースになるために(1)~(5)までの音色がある程度の影響を受けることになります。
 そしてこの両者は、実は根本的な発声のしやすさにも違いが生じます。意外にも脱力しやすいのはハスキーボイスのほうです。これについてもシリーズで触れていきます。

①(疑似)ハスキー ②筆者の地の声は完全シルキー 


次回予告

 では次回から何回かに分けて詳細解説をしていきます。お楽しみに(‘ω’)ノ。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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