
【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
tOmozoです。連載「声区シリーズ」は「声区融合」「ミックスボイス」について回数を重ねてきまして、今回の「ハードミックス」のためのアイテム解説の完了とともにシリーズも終了となります。『強いけど裏声にしかならない……』というお悩みの解決方法を、まずは第58回にて一挙に紹介しました(‘ω’)ノ。
裏声→地声アイテム一覧
(1)鼻音でモワっと→ネチっと:第59回
(2)倍音でキラキラさせる:第59回
(3)速い呼気で声帯をなびかせる:第61回
(4)エッジボイスで乾かし焦がす:第60回
補足回:「抵抗圧」について:第62回
(5)筋連動による声門閉鎖で補強する:今回
今回のポイントはいつも言っている『意図的な声門閉鎖は後回しにする』ということです。まず声帯の構造についての少し専門的な話から始めます。
声帯は自分から閉じない
声帯周辺の筋肉である内喉頭筋は、大きく分けると4つの役割があります。
①声帯を開く=息を吐く
②声帯を閉じる=声を鳴らす
③声帯を伸ばす=音程を高くする
④声帯を縮める=音程を低くする

です。これらは「不随意筋/「自分の意思では動かせない筋肉」です。ですが、このうち「声帯を閉じる」筋肉の一部だけは「随意筋/自分の意思で動かせる筋肉」とされています(ボイトレ界隈では特にこの部分において色々な情報が錯綜していますが、筆者個人としても『意思で動かせている』感覚があります)。つまり、声帯を閉じ過ぎる「過剰閉鎖」が起こる原因はここにあります。
押しやすい“余計な閉鎖スイッチ″
声帯を閉じる機能だけが、自らの意思によって余計な動作を引き起こし得るシステムになっているのです。今回は各筋肉の詳細については触れません(少し知識のある人向けに言及しておくと、声帯閉鎖は「狭小」ではなく「内転」で作るべきということです)。ポイントは『声帯って自分から閉じなくても勝手に閉じるんやで』ということです。
声帯は勝手に閉じる
「不随意筋である」ことが答えになるんですが、声帯は自ら動かすのではなく、他の器官の動作によって間接的に動くものです。なので声帯周辺の筋肉である「内喉頭筋」の役割を知って直接いじろうとしても正しい動作にはなりません。『声帯の稼働スイッチ、声帯には無いのよ』という話に繋がります。
声帯は操り人形である
声帯は操り人形と一緒です。”声帯周辺の筋肉を直接動かそうとすることは、操り人形の本体を持って直接動かそうとする動作そのもの“です。動きは当然ぎこちなくなります。ではどこで動かすのか……?
声帯は軟口蓋で操作する

一番イメージしやすいのは、これまでも筆者が提唱してきた「軟口蓋(喉ちんこ)の引き合い」です。声帯の上方に位置しているので、操り人形のイメージと重なると思います。軟口蓋を上げるだけでもダメ、下げるだけでもダメ、両方の動作が必要です。この動作によって「声門閉鎖圧」は自然と強さを帯びます。これについては第59回の解説部分になります。
核となるのはこのアイテムですが、これだけでは発声の様々な細かい調整は効きません。そこで今回はこれまでも紹介してきた「声門閉鎖を作るアイテム/筋連動誘発アイテム」まとめをします(‘ω’)ノ。
筋連動誘発アイテム6選
簡単な解説と関連記事リンクとともに、6つ紹介していきます。これらは結局のところ”声門閉鎖の上位互換”として紹介している「軟口蓋の引き合い」や「抵抗圧(第62回)の用意」を促すアイテムになります。

(1)「口輪筋」の稼働
「口輪筋」とは唇の筋肉です。軟口蓋周辺の筋肉を経由して間接的に声帯へ伝播します。声帯から遠い筋肉ほど副作用が少なく済みます。第25回:子音の圧縮や表情筋の稼働で「声を集める」【“抜ける”歌声の改善法 part7/9】
(2)「頬骨鳴らし」
頬骨のあたりに力を入れて歌うと「軟口蓋のハリ」がそれとなく用意できます。「軟口蓋の引き合い」の感覚が掴めた後ならかなり直接的に作用してくれます。第48回:チェストボイスは「頬骨鳴らし」で音域拡大!【解説編】
(3)「こめかみ上げ」「鼻に当てる」
「軟口蓋の引き合い」のうち、「軟口蓋上げ」の動作を補強する動きです。イラストでは省略していますが、鼻音が苦手な人は「鼻に当てる」動作をオススメします。小鼻のあたりに向かって声を当てながら歌う動作です。これは「軟口蓋の引き合い」のうち、「軟口蓋下げ」の動作を補強するアイテムです。第33回:声の「倍音」は作れる!声門閉鎖の上位互換「喉ちんこの引き合い」を解説
(4)「嚥下/飲み込むフリ」
第60回のエッジボイスに関連して紹介した抵抗圧を作る万能アイテムです。これ以外にも抵抗圧を作るアイテムはたくさんありますので第62回をご確認ください。ですが閉鎖圧の上位互換として用意するならこれ一択でOKです。

(5)「鎖骨上のせり出し」
あえて「意図的な声門閉鎖」と「呼気圧(第61回)」と「喉仏下げ」をセットにするアイテムです。第49回:「鎖骨上のせり出し」でチェストボイスを最短ルートで習得!【実践編】

(6)「太く作る鼻音」
「鼻にかける声/鼻音」を「深い/太い/暗い」音色で鳴らそうとすると縦方向に大きな筋連動を用意できます。「喉仏下げ」のための筋肉と「軟口蓋下げ」のための筋肉は、良くも悪くも喧嘩しやすくハリ合いになるからです。

声区シリーズは終了!
いかがでしたでしょうか? 多くの人にとって「ハードミックス」が目下の課題になっていることから、これをゴールとして沢山の解説をしてきました。とはいえ多くの情報を自分の状況に合わせて適切に処方して感覚まで結びつけることは難しいことです。筆者はリモートレッスンにも対応していますので、自分用のレシピがピンポイントに知りたい方は教室のHPからアクセスください。
次回予告
次回は何を書きましょうか……。この1年間で初めて次回号の構想がない(まだまだ書くことがあって精査できていない)ため、次回は「お楽しみ」ということでお願いします(笑)。
本コラムの執筆者

tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
本コラムの記事一覧
-
第1回 連載スタートにあたって
2024.02.7
-
第2回「理論と感覚」の「考え方」
2024.02.14
-
第3回【歌で大事なのは?】理論vs感覚~感覚が理論を越えるとき~
2024.02.21
-
第4回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part1/5 -音高変化編-
2024.02.28
-
第5回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part2/5 -音色変化編-
2024.03.6
-
第6回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part3/5 -音量・グルーヴ変化編-
2024.03.13
-
第7回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part4/5 -グルーヴ変化編-
2024.03.20
-
第8回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part5/5 -リズムとテンポ変化、応用表現編-
2024.03.27
-
第9回 これまでの連載内容まとめと補足記事紹介〜本連載の概要、歌における理論/感覚の考え方、歌い方の種類を紹介〜
2024.04.3
-
第10回 歌声が詰まる原因6パターン【ボイトレ】
2024.04.10
-
第11回:「喉詰め声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part1/6】
2024.04.17
-
第12回:「喉上げ声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part2/6】
2024.04.24
-
第13回:「息・鼻が詰まる感覚」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part3/6】
2024.05.1
-
第14回:「鼻にかかった声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part4/6】
2024.05.8
-
第15回:重要回「声が張り付く」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part5/6】
2024.05.15
-
第16回:子音の発音は味方にも敵にもなる【歌声が詰まる原因 part6/6】
2024.05.22
-
第17回:歌声が「抜ける」原因と力強く鍛えるボイトレ9選
2024.05.29
-
第18回:声帯を閉じる筋力UP【“抜ける“歌声の改善法 part1/9】
2024.06.5
-
第19回:声は下から支え、上から吊る【“抜ける”歌声の改善法 part2・3/9】
2024.06.12
-
第20回:「鼻にかける」で粘り気のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part4/9】
2024.06.19
-
第21回:「鼻にためる」で密度のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part5/9】
2024.06.26
-
第22回:重要回「喉ちんこの引き合い」でツヤのある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part6/9】
2024.07.3
-
第23回:-続-「喉ちんこの引き合い」を模型で説明【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅱ/9】
2024.07.10
-
第24回:-続-「喉ちんこの引き合い」/倍音生成=「鼻を鳴らす」【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅲ/9】
2024.07.17
-
第25回:子音の圧縮や表情筋の稼働で「声を集める」【“抜ける”歌声の改善法 part7/9】
2024.07.24
-
第26回:声量アップに腹式呼吸!【“抜ける”歌声の改善法 part8&9 /9】
2024.07.31
-
第27回:2つの声の響き「共鳴」と「倍音」をマスター!
2024.08.7
-
第28回:「共鳴」とは?基本の作り方を解説!
2024.08.14
-
第29回:「共鳴」をヘッドボイスで極める!共鳴量による感覚の違いを可視化
2024.08.21
-
第30回:「共鳴」をチェストボイスに応用!最低限必要な『マストの共鳴』とは?
2024.08.28
-
第31回:『マストの共鳴』でミックスボイスの下地が整う!「鼻に○○る」などとの関係も
2024.09.4
-
第32回:ファルセットやウィスパーボイス作りにも「共鳴」の響きが必要!
2024.09.11
-
第33回:声の「倍音」は作れる!声門閉鎖の上位互換「喉ちんこの引き合い」を解説
2024.09.18
-
第34回:声門閉鎖だけでは「倍音」は作れない……「喉ちんこの引き合い」で倍音生成ができる証明!
2024.09.25
-
第35回:息と声帯と倍音の関係を「ホームの白線の外側に立つ」で考える
2024.10.2
-
第36回:“弱く閉じる? 強く開く?” 声門閉鎖の「位置と強度」で完全無欠なコントロールを!
2024.10.9
-
第37回:呼気圧の「量と速度」で完全無欠な声帯コントロールを!
2024.10.16
-
第38回:ミックスボイスへと繋がる!「共鳴」と「倍音」まとめ
2024.10.23
-
第39回:料理に例える歌声の“成分”まとめ!声区の作り分けに向けて
2024.10.30
-
第40回:○○ボイス〜「声区」発声の分類を一挙紹介!
2024.11.6
-
第41回:ヘッドボイスとは“共鳴声”である【解説編】
2024.11.13
-
第42回:ヘッドボイスの練習メニュー【実践編】
2024.11.20
-
第43回:ファルセット・ウィスパーとは“息混ぜ声”である【解説編】
2024.11.27
-
第44回:息混ぜ声①ウィスパーボイスの練習メニュー【実践編】
2024.12.4
-
第45回:息混ぜ声②ファルセットの練習メニュー【実践編】
2024.12.11
-
第46回:チェストボイスとは“倍音声”である【解説編】
2024.12.18
-
第47回:チェストボイスの練習メニュー【実践編】
2024.12.25
-
第48回:チェストボイスは「頬骨鳴らし」で音域拡大!【解説編】
2025.01.8
-
第49回:「鎖骨上のせり出し」でチェストボイスを最短ルートで習得!【実践編】
2025.01.15
-
第50回:諸悪の根源”悪い地声“の種類と対処法まとめ~ミックスボイスへ~
2025.01.22
-
第51回:ミックスボイス習得 〜「鼻音のライン取り」にトライ!
2025.01.29
-
第52回:鼻音を“敵”にしない!「軟口蓋の位置と張度問題」
2025.02.5
-
第53回:鼻音で天然ミックスボイス!~軟口蓋からの筋連動のお話~
2025.02.12
-
第54回:筋肉は“緊張”するもの~発声における脱力のアプローチいろいろ~
2025.02.19
-
第55回:「声の裏返り」の段階的対処法~ソフトミックスの完成へ~
2025.02.26
-
第56回:ミックスボイスとは?“巧い歌”より“美味い歌”~用語と意識を整理しよう!の回~
2025.03.5
-
第57回:ミックスボイスとは?ハード?ソフト?…『発声マップ』でその全体像を解説!
2025.03.12
-
第58回:『強いけど裏声にしかならない…』ハードミックスの完成へ!
2025.03.19
-
第59回:「ネイザル」と「トゥワング」全部説明できます。~ハードミックスの完成へ①~
2025.03.26
-
第60回:“料理の焦げ味”地声成分になる「エッジボイス」とは?~ハードミックスの完成へ②~
2025.04.18
-
第61回:強い声には呼気速度UP! ザラつき感が生むパワー ~ハードミックスの完成へ③~
2025.04.25
-
第62回:どんな発声にも必須な「抵抗圧」って知ってる? ~ハードミックスの完成へ④~
2025.05.2
-
第63回:声門閉鎖を間接的に強めるアイテム一覧 ~ハードミックスの完成へ⑤~
2025.05.9