【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第62回:どんな発声にも必須な「抵抗圧」って知ってる? ~ハードミックスの完成へ④~

「閉鎖圧」と「呼気圧」そして「抵抗圧」

 tOmozoです。「声区シリーズ」は「声区融合せいくゆうごう」「ミックスボイス」の佳境に突入しました。ミックスボイスのうち「ハードミックス」について、『強いけど裏声にしかならない……』というお悩みの解決方法を、まずは第58回にて一挙に紹介しました(‘ω’)ノ。

裏声→地声アイテム一覧

(1)鼻音でモワっと→ネチっと:第59回
(2)倍音でキラキラさせる:第59回
(3)速い呼気で声帯をなびかせる:第61回
(4)エッジボイスで乾かし焦がす:第60回
(5)筋連動による声門閉鎖で補強する


 今回は(3)速い呼気こき(4)エッジボイスの解説時に触れた抵抗圧ていこうあつについての詳細解説になります。これを一言で説明するならば、「呼気圧こきあつの反対のパワー/呼気に抵抗するパワー」になります。呼気圧と反対のベクトルを向きますし、実際に吸う感覚でも用意できるため吸気圧きゅうきあつと思っていても問題ないです。

【発声の基本原理】
【発声の基本原理】

 特に発声の安定性が優れている人は漏れなく抵抗圧上手です。抵抗圧を作る動作はたくさんありますが、これまでの連載で登場済みですので、まずは役割から見ていきましょう(‘ω’)ノ。


抵抗圧とは?

抵抗圧の役割

 抵抗圧は実に様々な役割を持っています。今回はハードミックスのための材料として紹介しましたが、そもそもどんな発声であっても安定のために必要になるものです。

(1)吐息の速度と量を調整する力

 ウィスパーボイスやファルセットは、漏らした“吐息感といきかん”が個性となる発声ですが、吐息成分がダダ漏れにならないようにするためには抵抗圧が必要です。

(2)声を口腔内で圧縮する力

 ハードミックスをはじめ、力強い発声のためには“声をためる”ような発想で声を圧縮しつつ構築する必要があります。抵抗圧が抜けると“声が散る”ことになり、パワーが蓄積されません。

(3)過剰な呼気圧を相殺する力

 “悪い地声”の1つである「張り上げ声」の原因となるのは過剰な呼気圧ですが、呼気圧の反対のパワーが抵抗圧ですから、無駄な呼気圧を打ち消す効果もあります。でも抵抗圧によって力強さまでもが消えることはありません。“軽いのに強い”発声が叶います。この延長で呼気圧を落とすことができればエッジボイスを作ることもできます。

(4)発声のベクトルのバランスを取る力

【発声動作が持つベクトルまとめ】
【発声動作が持つベクトルまとめ】

 発声を直感的に捉えることができる「発声のベクトル」は、呼気圧によっても前方に向きやすいため、反対方向にバランスを取るアイテムの1つが抵抗圧になります。(声区シリーズが終わったら詳細解説します)

まとめ:声や息を“絞る”のが抵抗圧

 様々と言っても、いずれも「息を不必要に通さない、声を正しい量と形で、適正な成分量で出すための作業」という言い方でまとめることができます。”フィルターにかけて濾過する“、“ホイップクリームを絞る”ようなイメージです。

 どこで絞るかと言えば、感覚的には首から上の色々な場所で感じることができますが、物理的には「声帯せいたい」で絞ることにもなります。つまり間接的な声門閉鎖せいもんへいさとも言えます。

つまり:声門閉鎖の上位互換

 これまでも「軟口蓋なんこうがい(喉ちんこ)の引き合い」を発声エネルギーの根本にするべきことをお伝えしてきましたが、抵抗圧もまたしかりです。抵抗圧を上げれば声門閉鎖圧も自然に上がります。意図的な声門閉鎖よりもまずは「軟口蓋の引き合い」と「抵抗圧」を用意してください。そうすればほとんどのケースで閉鎖圧を意識する必要がなくなり、自然で力強い声門閉鎖を用意できるようになります。

 では抵抗圧を作るためには実際に何をすればいいのか、「抵抗圧を作る発声アイテム」を一挙に見ていきましょう( ੭˙꒳ ˙)੭。

抵抗圧アイテム一覧

 抵抗圧を用意できる発声アイテムを、上から強い順に並べます。

「呼気の温め・湿らせ」呼気速度が遅くなる
「あくびのフリ」呼気速度が停滞する
「鼻にためる」呼気・声・共鳴を留める
「声を漏らさない」中程の抵抗感を作れる
「鼻づまりのフリ」強めの抵抗感を作れる
「息の我慢」自然な閉鎖の誘発
「軟口蓋上げ」呼気の流れが止まる
「嚥下のフリ」強くも自然な閉鎖に
「息を減らす/エッジ」声帯での“空焚き”
「吸気発声/吸うエッジ」反対のベクトルに

【抵抗圧いろいろマップ】
【抵抗圧いろいろマップ】

 呼気そのものを直接調整するもの、呼吸器以外のパワーで呼気を調整するもの、と2パターンあります。専門性が高い動作もありますが、ほとんどは直感的にイメージできるものばかりです。記事引用は割愛しますが、全てこれまでの連載で触れていますので過去回をご参照ください。

抵抗圧アイテムの使い分け

 結構たくさんありますが、これらの発声アイテムは、先述の「役割」全てをほぼシームレスに担っています。“こういうケースにはこれ”というオススメが無いわけではないですが、最終的にはその人によって、その時の発声バランスによって、程度やニュアンスを見ながら感覚的に使い分けるものです。

 これを提唱している筆者は、この塩梅に対する理論と感覚が結びついているので使い分けの指示が可能ですが、その感覚を言語化するとなると膨大な情報量になるし、文字だけでは伝わらないほど細かいので、この連載では割愛したいと思います。

 あ、いえ、これまでの連載で書いてきたこと、それが“こういうケースにはこれ”の対処法の紹介になっていますね(笑)。抵抗圧という書き方をしていないだけで、上記のアイテムは全てケーススタディとともに対処法として登場済みです。この1年間、推定15万字とイラストと音声で解説してきましたので、文字通り膨大な情報量でボイトレに必要な感覚を言語化・視覚化してきました。

 『15万字も読んでられねーよ!』と言う読者の方は、今日まとめたものをそれぞれ試しながら、どれが感覚的にハマるのかを1つずつ試してみてください。調子悪かったりなんか上手く行かないなら、それがどんな状態であっても上記のどれかがハマるはずです。“ボイトレは実験”です。(筆者はリモートレッスンにも対応していますので、自分用のレシピがピンポイントに知りたい方は教室のHPからアクセスください。)


まとめとうんちく

閉鎖圧の代わりに抵抗圧と引き合い

 意図的な声門閉鎖の前に、まずは抵抗圧を置くこと、そして「軟口蓋の引き合い」をすること、これが筆者が提唱するボイトレ全体における2大ポイントです。

抵抗圧はなぜ重要に?

 「抵抗圧」は発声の基本原理に含まれる欠かせない部分です。息のパワーである「呼気圧」と声帯を閉じるパワーの「(声門)閉鎖圧」は有名ですが、この抵抗圧はあまり知られていない存在です。そのワケは、最もシンプルに発声の仕組みを説明すると「声帯を閉じ気味で息を流せば声が出る=閉鎖圧×呼気圧」となり、ここには抵抗圧が含まれないためです。

 これによって多くの人が『発声には閉鎖と息が重要だ』と思い過ぎているがゆえに、多くの人にとって重要になっているのが抵抗圧である、という皮肉な実態があります。


次回予告 

 次回はハードミックスの対処法、最終回となります。(5)筋連動による声門閉鎖で補強する、を詳細解説します。今回の抵抗圧も直接関わってきます(‘ω’)ノ。

 

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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