【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第59回:「ネイザル」と「トゥワング」全部説明できます。~ハードミックスの完成へ①~

「鼻にかけるけど鼻音じゃない」を解説

 tOmozoです。「声区シリーズ」は「声区融合せいくゆうごう」「ミックスボイス」の佳境に突入しました。前回はミックスボイスのうち「ハードミックス」について、『強いけど裏声にしかならない……』というお悩みの解決方法を一挙紹介しました(‘ω’)ノ。

裏声→地声アイテム一覧

(1)鼻音でモワっと→ネチっと
(2)倍音でキラキラさせる
(3)速い呼気で声帯をなびかせる
(4)エッジボイスで乾かし焦がす
(5)筋連動による声門閉鎖で補強する


 今回は(1)鼻音(2)倍音についての詳細解説ですが、これが洋楽のボイトレ界で言われる「ネイザル(nasal)」と「トゥワング(twang)」、そしてミックスボイスとどう関係していくのかを解説していきます。特に後者については「鼻にかかった“ような”音」という説明くらいしか見かけることがないと思いますが、“言語化ニキ”と呼ばれている(笑)筆者が完全解説しますのでご一読ください。

キーアイテムは鼻音

 ソフトミックスでもハードミックスでも「鼻音びおん」が重要なカギになりますが、両者を作り分けるには異なるニュアンスが必要です。ソフトでは「鼻音そのもの」が、ハードでは「鼻音生成の感覚」が必要です。結論を言うと前者が「ネイザル」で後者が「トゥワング」となります。

【ネイザルとトゥワング】
【ネイザルとトゥワング】


「鼻音そのもの」と「鼻音生成の感覚」

ネイザルは鼻音そのもの=軟口蓋下げ

 上の図のように、「鼻音びおん」は“軟口蓋なんこうがい(喉ちんこ)を降ろし気味にする”ことで作られますが、このとき重要なのは軟口蓋の位置です。実際に「鼻にかける」と呼ばれる発声動作になります。これにより音色はマットに柔らかく仕上がります。

①共鳴のヘッドボイス ②吐息のファルセット ③鼻音のネイザル+でソフトミックス

 「軟口蓋を降ろす」という単体作業だけならば、ハリが抜けて力が入りづらくなる傾向があるため、これを利用してソフトミックスの完成と“悪い地声”の対処をすることができます。特に脱力が必要な状況の人には救世主になってくれますよ。これについては第55回をご参照ください。

 これをまとめると、鼻音そのもの=軟口蓋下げ=鼻にかける=ソフトミックスの材料=ネイザル、です。

トゥワングは鼻音生成の感覚=軟口蓋の引き合い

 これに対し「鼻音生成の感覚」とは、あくまで”軟口蓋を降ろそうとする”動作であり、重要なのは軟口蓋の張度/ハリです。このハリがクリアで煌びやかな音色、つまりは地声成分である倍音ばいおんを生み、ハードミックスの材料となってくれます。

①ソフトミックス ②引き合いでハードへ ③タメて更にハードに ④共鳴+でヘッド寄りに

 このように裏声でも“ネチっ”とした弾力を作ることができます。どうすればこのハリが作れるか?……それはこれまでに最も重要な発声アイテムとして度々提唱してきた「軟口蓋の引き合い」です。

喉ちんこを引き合うパワーが強ければ倍音が多く生成される

 詳しいやり方や他の発声に関する部分については下記リンクにまとめましたのでご参照ください。

記事まとめー「軟口蓋(喉ちんこ)の引き合い」

鼻にかけようとするけど鼻音にはしない

 引き合いの動作は以下のように2つのアプローチで取り組めますが、ここにも「鼻にかける」動作が組み込まれることになります。

軟口蓋の引き合い=鼻にかける+軟口蓋上げ

a. 軟口蓋を上げつつ下げようとする
=「軟口蓋上げ」+「鼻にかける」

b. 軟口蓋を下げつつ上げようとする
=「鼻にかける」+「軟口蓋上げ」

 どちらからでも引っ張り合いができますので、やりやすい方、求めている発声に寄りやすい方を試してください。とはいえ歌唱中の動作にもなりますので、ほぼ両方同時にやる意識が必要になります。

a.つまりヘッド寄り⇒ハードへ b.つまりネイザル⇒ハードへ

「鼻音」⇒「倍音」

 このように「鼻音生成」の延長線上に「倍音生成」がある形になります。“鼻にかけようとするけど鼻音にはしない”、これが鼻にかかった”ような“と言われるゆえんです。結果として聴こえてくるサウンドは鼻音より倍音の比重が多くなり、鼻音の印象からは遠ざかります。

 これをまとめると、鼻音生成の感覚=鼻にかける+軟口蓋上げ=軟口蓋の引き合い=軟口蓋のハリ=倍音生成=ハードミックスの材料=トゥワング、です。特にトゥワングに関しては、=ハードミックスであると捉えていても全然OKです。


「軟口蓋の引き合い」<「鼻音生成の感覚」

 「軟口蓋の引き合い」と「鼻音生成の感覚」はいわば同じものですが、鼻にかけるパワーに注視したのが後者です。なぜ「軟口蓋上げ」じゃなく「軟口蓋下げ」の方をわざわざ言及するのか?……

鼻音は仲間外れにされがち

 一連の「声区シリーズ」で取り上げてきましたが、多くの人にとって鼻音は重要な存在となります。その理由は以下です。

・鼻音が心理的に避けられやすい
・鼻音成分は一般的な声区せいく表には組み込まれない
・日本語は鼻にかけづらい(NEW!)

 なので「軟口蓋の引き合い」をするにしても「鼻音生成の感覚」の方を大事にした方が上手くいく人が多いのです。日本語が持つ特性による理由については筆者運営のブログで補足しますので日本語は歌いづらい!外国語はボイトレ向きをご参照ください。

 じゃあ外国語発音はどうなんだ?というと、実は鼻音に限らずボイトレに有利な発音が自然とたくさん含まれています。(英語・韓国語・中国語の発音を少し勉強しましたが、日本語の不利さに愕然としたほどです

 さて、ここで出てくるのが洋楽界の「ネイザル」と「トゥワング」です。


「ネイザル」と「トゥワング」

 新しい用語に見えますが、何を隠そう「ネイザル」は「鼻音そのもの」で、「トゥワング」は「鼻音生成の感覚」と一致します(‘ω’)ノ。同じものとはいえ、やはり言語の差だけそこには違いが生じます。ここでも鼻音の重要性が浮き彫りになる話をひとつ。

トゥワングは鼻音パワー強め

 それは、発声が優れている人が多い洋楽界のシンガーの方が平均的に鼻音寄りになっていたり、トゥワングと呼ばれる発声が「軟口蓋の引き合い」にしても「下げ」のパワーが強い傾向が見られるということです。これも結局は言語が持つ特徴に起因していると思われます。ですので洋楽シンガーの発声をマネすることには大きな意味があるのです。

 最後にイラストでまとめます。

【ネイザル・トゥワング~動作用語まとめ~】
【ネイザル・トゥワング~動作用語まとめ~】

 いかがでしたでしょうか?2025年現在、業界的にまだまだ浸透していないメソッドになりますので、この記事を見つけた読者さんはラッキーだと、自信を持って言えますよ(。-`ω-)。


次回予告

 次回は引き続きハードミックスのための(3)呼気速度の速さ(4)エッジボイスについて詳細解説をいたします(‘ω’)ノ。2つとも呼気に関する項目です。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

本コラムの記事一覧

その他のコラム

最新情報

ヴォーカルや機材、ライブに関する最新情報をほぼ毎日更新!