
【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
目次
ソフトミックスをハードミックスに
tOmozoです。「声区シリーズ」は「声区融合」「ミックスボイス」の佳境に突入しました。今回はミックスボイスのうち「ハードミックス」について、『地声っぽく出したいのに強い裏声にしかならない……』というお悩みの解決方法を一挙紹介します(‘ω’)ノ。
対処法の一覧になりますので、今回は各項目を”ヒント“くらいに留めて、詳しくは次週以降で掘り下げたいと思います。
裏声→地声アイテム一覧
(1)鼻音でモワっと→ネチっと
ソフトミックスは柔らかく発声するのが前提ですので、ソフトの材料の1つである「鼻音」は“モワっと”マットな質感で用意します。それに対してハードミックスにしたければ、鼻音成分を“ネチっと”した弾力性や粘性のある歌声を作るために用意する発想が必要です。
このように鼻音は目的に応じて異なるニュアンスに変身できるマルチアイテムですが、ソフトでは「鼻音そのもの」が、ハードでは「鼻音生成の感覚」が必要になります。詳しくは次回以降に解説しますが、これらは次に紹介する「軟口蓋の引き合い」に段階的に繋がっています。

(2)倍音でキラキラさせる
歌声の“ツヤ”担当「倍音の響き」は地声らしさを持つ成分です。裏声音域でも豊かな倍音生成ができれば地声らしさがUPできます。倍音生成は「軟口蓋(喉ちんこ)の引き合い」によって可能です。
a. 軟口蓋が上がった状態から「鼻にかける/軟口蓋下げ」をする
b. 軟口蓋が下がった「鼻音」の状態から「軟口蓋上げ」をする
両方のアプローチで引き合いができます。軟口蓋を上げ下げする力を“喧嘩”させると、引き合うパワーの分だけ倍音が豊かに生成され、地声らしさが増します。「軟口蓋の引き合い」はこのように「鼻音」が直接関わる動作です。
(3)速い呼気で声帯をなびかせる
裏声の材料にもなる「吐息成分」は、地声の着火剤にもなります。声帯は呼気の流れによる「ベルヌーイ効果」によって作動しますので、呼気スピードを上げると声帯が吸い寄せられ、結果地声寄りにすることができます。声帯を離して息を多く流せば裏声寄りに、声帯を寄せて速く息を流せば地声寄りになります。つまり前者はウィスパーボイス・ファルセットの発声条件です。
表裏一体のアイテムなので「声帯の位置と張度」「呼気の量と速度」問題を理解し、迷わないようにしましょう。

(4)エッジボイスで乾かし焦がす
これまでほとんど触れていない「エッジボイス」ですが、裏声を地声らしくするのに一役買ってくれます。
特に“ヘッドボイスが上手な人あるある”なんですが、ヘッドの個性である「共鳴の響き」が多いと地声感が出しづらいのです。これは水分を飛ばし切れなかった“べちゃべちゃな野菜炒め”に似ています。地声感は料理でいうと良い意味での“焦げ味”です。エッジボイスがその余分な水分を飛ばして焦げを作ってくれるようなイメージです。
“ドライ”なエッジボイスの成立条件である「呼気の少なさ」は、“ウェット”なヘッドボイス、そしてウィスパー・ファルセットの「呼気の多さ」とは正反対の条件となります。
実際に空気を吸って出す「吸気発声」が効果的な練習アイテムになります。

呼気vs吸気
さて、ここで1つの矛盾が生じます。(3)では「呼気」を積極的に使うのに、(4)ではその反対の「吸気」の感覚が重要になる、という点です。これも“発声はバランスである”という常套句に現れる部分ですが、ハードミックスの場合は、“バランスを取る”というよりは“喧嘩させてエネルギーを生む”発想が重要です。
これらはハードミックスに必要な「口腔内の気圧を高める」という条件を成立させる材料となります。これも次回以降に掘り下げましょう。
(5)筋連動による声門閉鎖で補強する
力強いミックスボイスの必要条件である力強い「声門閉鎖」は、意図的に用意すると“悪い地声”を招きますので、他の発声動作から自然に用意されるように図ります。
上記(1)~(4)も結局はこれを狙ったものであり、「筋連動」の考え方による発声の組み立てアプローチです。他にも声門閉鎖を助けるアイテムは色々あります。
筋連動誘発アイテム
①「口輪筋」の稼働
②「頬骨鳴らし」
③「こめかみ上げ」
④「嚥下/飲み込むフリ」
⑤「鎖骨上のせり出し」
⑥「太く作る鼻音」

発声の基本であるはずの声門閉鎖は、程度を加減しながら一番最後に用意した方が安全です。これまで紹介してきた発声アイテムは“点”の側面が強く、これらの「筋連動誘発アイテム」はその点を“線で繋ぐ”役割を担ってくれます。これらは以前紹介した「発声のベクトル」そのもので、バランスを取るための動作でもあります。
次回予告
「鼻音そのもの」と「鼻音生成の感覚」は、洋楽でいうところの「ネイザル」(nasal)と「トゥワング」(twang)そのものです。次回はこれらについてまとめつつ、ハードミックスとソフトミックスを作り分けるための詳しい解説をします(‘ω’)ノ。各項目も続けて扱っていく予定です。
本コラムの執筆者

tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
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