
【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
目次
ミックスボイスについてあれこれ
tOmozoです。「声区シリーズ」は「声区融合」「ミックスボイス」の佳境に突入しています。前回は「表現」に立ち返ってもらうための話もし、ミックスボイスは「音色/声色」のレパートリーとしていろいろな発声バランスあってしかるべき、と解説しました。
今回はミックスボイスを4パターンで組み立てるアプローチと、キーアイテムが「鼻音」になる背景など、全体像を解説していきます(‘ω’)ノ。
ミックスバランスあれこれ
まずミックスボイスの作り方を4パターン紹介します。これはそのままミックスボイスの練習順序にもなります。
4つのミックスアプローチ
(1)換声点ミックス
声区融合を練習する時、「低音域は地声、高音域は裏声、でも換声点は両者が馴染んでいる状態」がイメージしやすいでしょう。このバランスは地声区と裏声区、それぞれが“それらしさ”を残している状態です。実際の歌唱でも多用されます。これが1つ目のミックスアプローチです。

(2)成分ミックス
上記もミックスボイスと言えますが、大事なのは2つ目以降のアプローチです。『全音域で地声裏声両成分が共存している』状態です。まずは“半々”が目安になりますが、次は地声裏声の割合を変えて考えてみましょう。
(3)ソフトミックス
前々回“裏声からは裏返らない”をキーワードにして紹介した「ソフトミックス」は、地声音域も裏声メインでコントロールするものでした。『全音域が裏声寄りである』という捉え方、これが3つ目のアプローチです。ソフトに関しては(1)(2)両方の考え方で組み立てができます。

(4)ハードミックス
そして4つ目のミックスアプローチ。ミックスボイスは「裏声を強くした発声」という説明のされ方をすることも多いですが、発声学的に見て“良く鍛えられた声”というのは、裏声音域であろうが地声の筋肉が作動している状態になります。この場合は『全音域が地声寄りである』と言うことができ、これが「ハードミックス」の捉え方となります。
ソフトとハード
良く聞くであろう「ソフトミックス」と「ハードミックス」は、ミックスボイスを2分する考え方です。「ソフト/ハード」はその名の通り”歌声の質感”を表す言葉で、これらを作り分けるには「成分」が重要になってきます。
「成分」で作り分ける
筆者はこれまでも「歌声成分/発声材料」などと言い、これを操ることで発声を完成させるアプローチで解説してきました。基本的にソフト・ハード両者に必要となる材料には違いは無く、程度が違う“だけ”です。
ソフトミックスは裏声成分である「吐息」「共鳴」「鼻音」がメインとなり、ハードミックスは地声成分である「倍音」「呼気」「吸気」「声門閉鎖」などがメインとなりますが、これら成分の割合を変えることで「音色/声色」を調整していく、というのが共通の考え方になります。お好みでブレンドの配合量を変えるだけです。
ただし、“だけ”と言ってもそう簡単にいかないのがボイトレです。実際にソフト・ハードそれぞれのスイッチの入れ方、身体的感覚にはそれ相応の違いがあります。前々回紹介したソフトミックスの方法に続き、次回第58回はこの辺を踏まえてハードミックスの詳しい解説をします。
ミックスは結局「鼻音」
どのミックスアプローチであっても、一番のキーアイテムになるのは結局「鼻音」になっていきます。最後に鼻音の必要性に関するウンチクで終わります( `ー´)ノ。
鼻音とミックスボイス
声区表では仲間外れにされる「鼻音」
以前『多くの人にとって鼻音が重要になる』と言いました。その理由の1つである”鼻音が心理的に避けられている”ことに加え、その要因は「声区表」にも隠れています。
「声区」とは「○○ボイス」などの発声の分類のことです。各声区は先述の各成分それぞれを個性に持っているため、各声区と各成分を対応させて捉えることができます。でも、良く見る一般的な声区表には、鼻音をメイン成分とする分類が組み込まれていないのです。

声区の代表、チェストボイス、ファルセット、ヘッドボイスだけを混ぜてもミックスボイスにはなりません。“材料に必須なのにレシピには載っていない”、これにより多くの人にとって鼻音が落とし穴になってしまっている、という現状があります。
鼻音を声区表に追加しちゃおう
「鼻音」と「ソフト/ハード」なども新たに声区表に組み込むならば以下のようになります。これまでの声区分類の概念とは異なるので『発声マップ』とでも名付けておきましょうか。

特に日本でのボイトレ界のこのような慣習を考慮すると、ソフトでもハードでも「鼻音」がかなり重要になります。一言で鼻音と言っても、「鼻音そのもの」と「鼻音生成の感覚」は違うものであり、これによりソフト/ハードの作り分けが可能になります。次回はこの感覚をフル活用していくことになります。
次回予告
ということで次回は、裏声音域でも地声らしく発声する「ハードミックス」の発声方法を紹介します(‘ω’)ノ。
本コラムの執筆者

tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
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