【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第54回:筋肉は“緊張”するもの~発声における脱力のアプローチいろいろ~

 tOmozoです。「声区せいくシリーズ」は「声区融合せいくゆうごう」「ミックスボイス」にへ突入していて、これを叶えるための「鼻音びおん」と、その効果と仕組みを「筋連動きんれんどう」で解説してきました。今回は筋連動に関して「筋肉の作用についての基礎知識」と「発声における脱力の考え方」についての解説をします(‘ω’)ノ。


マッスル用語

 まず筋肉の正常な動作は「収縮しゅうしゅく」であり、縮むことで形状が変わります。これを言い換えると『緊張』です。緊張と聞くと悪いイメージが先行しますが、筋肉は緊張するものとして定義されています。これに対して『過緊張』した異常状態を「硬化」と呼び、これが避けなければならない“悪い地声”の原因となる状態です。
 筋肉は脱力すると「弛緩」し、収縮状態から元のサイズまで戻ります。いわゆる『リラックス』状態です。ストレッチをすると「伸展」しますが、これは外部の力によって元のサイズより引き延ばされることを指します。

【筋肉の作用に関する用語整理】
【筋肉の作用に関する用語整理】

 発声に必要な筋肉は、“ハリ”が必要な筋肉と、リラックスが必要な筋肉に分かれます。これを上記の4つの分類で少し詳しく見ていき、簡単に取り組める潤滑な発声のためのアイテムを紹介したいと思います。

【発声に関わる筋肉一覧】

1.過緊張=硬化

 筋肉はどれも「過緊張」はNGです。

2.緊張=収縮

 程よい「緊張」を作る必要がある筋肉については、以下のようになります。筆者は「要テンション筋群」とまとめて呼んでいます。

【要テンション筋群】

要テンション筋群

(1)軟口蓋なんこうがいを上げる筋肉(口蓋筋)
(2)軟口蓋を下げる筋肉(口蓋筋)
(3)喉頭こうとうを上げる筋肉(外喉頭筋)
(4)喉頭を下げる筋肉(外喉頭筋)
(5)声帯せいたいを開閉させる筋肉(内喉頭筋)
(6)声帯を引き延ばす筋肉(内喉頭筋)

 (1)~(5)は連載で良く登場させていますが、(6)に関してはこれまでに一度も触れていませんでした。これは音高を調整するための筋肉ですが、直接的な動作が難しく、他の筋肉動作や発声アイテムによって動かしていく側面が強いためです。
 現に狙った音程よりもピッチ/音高が低く出る場合、こめかみ上げると上方補正できますが、これは「軟口蓋の引き合い」によって(6)の筋肉が助けられる筋連動が起こっていると考えられます。今後の連載で「高音トレーニング」に触れることがあればその際に解説します。

3.弛緩=脱力

 上記の『2.緊張=収縮』が必要な「要テンション筋群」以外は、脱力状態にすべきと言えます。これらの筋肉が特に過緊張してしまうと、要テンション筋群の正常動作を妨げるためです。“悪い筋連動”を起こさないようにする必要があります。筆者は「要リラックス筋群」とまとめて呼んでいます。

【要リラックス筋群】

脱力の考え方①

 良く「脱力して」と言いますが、問題が起こっている箇所に対して意識を持つほど、より緊張してしまうという悪循環も良く見られます。「要テンション筋群」を正しく稼働させることができれば、「要リラックス筋群」は過緊張せずに済むケース(部位)も多いので、まずは要テンション筋群の正常動作に集中するのもオススメです。「あえて意識を置かない」という対処法です。

脱力の考え方②

 上記に対してしっかり向き合う対処法としては筋弛緩法きんしかんほうというものがあります。難しそうな名称ですが、簡単に説明すると「あえて該当部位に力を入れた後に力を抜く、という動作をすることで両方の感覚を独立させていく」というものです。

 突っ張っている筋肉部位が特定できるならば、その辺りに力“ギューっと”を入れてから“フッ”と脱力します。まずはこれを繰り返して両方の感覚を得てください。あとは歌の中でこれを意識してコントロールできるようになる必要があります。
 例えば「口角を思いっきり下げると首から肩の筋肉(肩甲舌骨筋けんこうぜっこつきん)が突っ張る」など、その部位がどういった動作で過緊張になるのか、についても機会があれば解説したいと思います。

脱力の考え方③

 もう1つは、「力を分散する」という考え方です。部位に関係なく、上半身全体に力を分散させる意識を持つことで局所的に過緊張になるのを防ぎます。各筋肉動作の独立が感覚的に掴めないうちは、これに頼るのもオススメです。これも筋連動の考え方になります。これを誘発するのに手っ取り早いのが次に紹介するストレッチの考え方です。

4.伸展・伸張

 筋肉自体に力を入れるということではなく、「各筋肉の可動域かどういきを広げる」「正しい筋連動を誘発する」というストレッチの意味合いで用います。これが歌唱中に可能になる簡単な動作を紹介します。

(1)唇を伸ばし気味に動かす
(2)顎を下方・前方に動かす
(3)こめかみ上げ、目力めぢからを作る
(4)首筋をまっすぐ伸ばす
(5)各関節を動かしながら歌う

完全な脱力状態は悪?

 特に「要リラックス筋群」については脱力が必要とされますが、完全な弛緩状態にすることは目指さない方が良いのではないか、と筆者は考えます。
 スポーツなどの外的な力によるストレッチ(誰かに伸ばしてもらう、自分の腕でもう片方を伸ばすなど)とは違い、発声の場合は各器官を伸ばすにしても周辺の筋肉の作動が必要になるケースがあります。なので要リラックス筋群についても「ストレッチ+軽い緊張」と捉える考え方も提示しています。この「要リラックス筋の軽い緊張」が要テンション筋群にとっても正しい筋連動を誘発してくれているのではないか、という見方です。
 特にパワーアップを図りたい人は、これらの作業を意図的に緊張させながら試してみてください。何事も程度問題ですので、実験をしてそのさじ加減を掴んでください。


次回予告

 次回は、『筋連動で見る「声の裏返り」対策あれこれ』をお届けしたいと思います(‘ω’)ノ。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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