【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第47回:チェストボイスの練習メニュー【実践編】

 tOmozoです。「声区シリーズ」、今回はチェストボイスの練習メニューを紹介する【実践編】となります(‘ω’)ノ。
 今回紹介するエクササイズは「喉詰のどづめ声/喉締のどじめ声」や「張り上げ声」など、声量が出るがゆえに問題が生じるという発声バランスの方は必読の内容です。いったん現在の発声感覚をリセットして、フラットな状態で取り組んでみてください。もちろん現状の歌声にパワーが無くて声量アップしたい方もチャレンジしてくださいませ。最も丁寧で慎重にパワーアップを図る方法をご紹介します。

【チェストボイスのイメージ】
【チェストボイスのイメージ】

 これまでの発声アイテムがほぼ勢揃いしますので、関連記事も合わせて紹介します。


基本のアイテムと組立順序

 まずは低めで一番出しやすい音程おんてい音高おんこうで開始します。低すぎず高すぎず、“少し改まって電話をするとき”の声の高さをオススメします。練習における音高や声区との関係については、また別の機会に解説します。それでは順を追って見ていきましょう(‘ω’)ノ。

(1)「マストの共鳴」の用意

 一番こじんまりとしながらも重要となる発声アイテムが「マストの共鳴きょうめい」です。「共鳴の響き」を最低限の量で用意します。どの音域でも”ツルツル“と滑らかに発声するための”声の素“となりますので、まずはあらゆるパワーを削ぎ落として整えます。

①マストの共鳴で柔らかい地声 ②NG:固くてハリがある地声

マストの共鳴≒あくび声

 あくびしながら発声している状態が一番近いです。
 a.呼気こき速度を遅くする
 b.共鳴で気道きどう声道せいどうを広くする
 c.声を放出する前にまずは溜める
……のを狙っています。

 なるべく柔らかくて抵抗感が無い状態を作ります。“地声の音域で極力小さくヘッドボイスを作る”と思っていてOKです。
 サンプル②のNG例のように、固い音色やハリのある音色にならないように気をつけてください。

関連記事:第31回:『マストの共鳴』でミックスボイスの下地が整う!「鼻に○○る」などとの関係も

(2)「ウィスパー」で声帯を離し脱力

 ここでウィスパーボイスの感覚を利用して声帯せいたいの脱力を図ります。“声帯に呼気成分を挟めて、声帯が物理的に閉じないようにしてしまう”要領です。「喉詰め声」は声帯の過剰閉鎖かじょうへいさが原因になる“悪い地声”ですので、これを防ぐための方法の1つになります。

①ウィスパーボイスで脱力した地声

 この作業は後半の練習メニューに組み込まれる形でまた出てきますので、ここではそこそこにして次に進みましょう。

関連記事:第43回:ファルセット・ウィスパーとは“息混ぜ声”である【解説編】

(3)「共鳴」と「エッジ」で呼気バランス調整

 (2)でウィスパーをすると、当然ながら声のベクトルは前方に傾きます。力強い発声しようとしたときにウィスパーの呼気量や呼気速度が強く残っていると、ここでも“悪い地声”になる可能性があります。「張り上げ声」は過剰な呼気圧が原因で発生するものですので、ここで呼気圧を抑えるアプローチを2つ紹介します。

①ヘッドボイスの共鳴で地声に下降 ②エッジボイスとその持続 

①共鳴を作るときの呼気速度

 (1)「マストの共鳴」でも触れたように、共鳴作りは呼気のスピードをゆっくりにすることがコツの1つになります。ウィスパー作りのときにもバランスを取る方法として必ずセットで必要になります。

関連記事:第32回:ファルセットやウィスパーボイス作りにも「共鳴」の響きが必要!

②エッジボイスの呼気量

 エッジボイスは呼気量が少ないことが条件の1つになる発声です。サウンドの派手さとは裏腹に、呼気圧が低い分だけ声帯に負荷を与えません。地声に必要な呼気圧を整えるのには手っ取り早い方法です。

(4)「鼻音」or「吸気」を作って準備完了

 ここからパワーアップに向かっていきます。次の「喉ちんこの引き合い」のための準備動作になります。「喉ちんこ(軟口蓋なんこうがい)」を上げるか・下げるかします。

①口を開けた「ん~」と「んあ~」で鼻音 ②吸気発声の一連動作

①鼻音発声

 喉ちんこを降ろして「鼻にかける」をします。完全な鼻音びおんは「口を開けたん~」、鼻音寄りの発音は「んあ~」です。

関連記事:第20回:「鼻にかける」で粘り気のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part4/9】

②吸気発声

 喉ちんこを上げる方法の1つとして紹介した「吸気きゅうき発声」ですが、これができるとかなり強力に引き上げることができます。簡単なやり方は「息を吐いて、鼻にためてdaba、息を止めようとしたまま吸う動作」です。

関連記事:第14回:「鼻にかかった声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part4/6】

 関連記事は発声トラブルの「鼻が詰まる」の対処法に「鼻音/喉ちんこ下げ」が、その反対の「鼻にかかる」の対処法に「吸気/喉ちんこ上げ」がそのまま使えることを紹介する内容です。

(5)「喉ちんこの引き合い」で倍音生成

 (4)の2つの準備状態からぞれぞれのアプローチで「喉ちんこの引き合い」ができます。これが地声の成分である「倍音ばいおん」を豊かに生成する作業となります。
 この段階では「喉仏のどぼとけ」は上げて“浅い”“平べったい”声でチャレンジした方が成功しやすいです。

①鼻音状態から喉ちんこ上げ ②喉ちんこ上げ状態から下げる力を追加

①鼻音状態から喉ちんこ上げ

 喉ちんこが下がっている「鼻音」の状態をキープしようとしたまま、喉ちんこを上げます。

②喉ちんこ上げ状態から下げる力を追加

 ①の逆の動作をしますが、ここで最終的に喉ちんこを下げてしまっては「倍音」でなくてただの「鼻音」になるので、上げた状態のまま!で“下げようとする力”を加えます。動作のコツは“上顎から鼻先に向かって押し込む”感覚です。

関連記事:記事まとめー「喉ちんこの引き合い」 (筆者のサイトへのリンクです)

(6)「喉仏下げ」で音色・バランス調整

 (5)では「喉仏上げ」で練習することをオススメしましたが、“浅い”“平べったい”音色が気になる・気に入らない人は、ここで“声の深さ”の調整をしてもOkです。「喉仏下げ」、もしくは「共鳴生成」をすれば声は“深く”“太く”なります。

①太い音色に補正

 ただ、次に行う音域拡大の練習の際には、“深い”“太い”声が持つ重心の低さが弊害になる可能性が出てきますので、やはり軽めの声で練習した方が上手く行くケースが多いです。

関連記事:第12回:「喉上げ声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part2/6】

……

 ここまでは出しやすい高さでの基礎練習の方法を紹介してきました。次は地声の音域を拡大させて、地声と裏声の境目=「換声点かんせいてんまで持ち上げる練習に入っていきます。ですが、基礎練習編が予定より長くなってしまったため、以下の練習メニューは次回に持ち越したいと思います(‘ω’)ノ。


次回予告

音域拡大と追加調整

(7)「腹圧」と「重心上げ NEW!」をしつつ高音域へ
(8)「鎖骨上のせり出し NEW!」でバランス維持

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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