【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
tOmozoです。「声区シリーズ」、今回はチェストボイスの練習メニューを紹介する【実践編】となります(‘ω’)ノ。
今回紹介するエクササイズは「喉詰め声/喉締め声」や「張り上げ声」など、声量が出るがゆえに問題が生じるという発声バランスの方は必読の内容です。いったん現在の発声感覚をリセットして、フラットな状態で取り組んでみてください。もちろん現状の歌声にパワーが無くて声量アップしたい方もチャレンジしてくださいませ。最も丁寧で慎重にパワーアップを図る方法をご紹介します。
これまでの発声アイテムがほぼ勢揃いしますので、関連記事も合わせて紹介します。
基本のアイテムと組立順序
まずは低めで一番出しやすい音程/音高で開始します。低すぎず高すぎず、“少し改まって電話をするとき”の声の高さをオススメします。練習における音高や声区との関係については、また別の機会に解説します。それでは順を追って見ていきましょう(‘ω’)ノ。
(1)「マストの共鳴」の用意
一番こじんまりとしながらも重要となる発声アイテムが「マストの共鳴」です。「共鳴の響き」を最低限の量で用意します。どの音域でも”ツルツル“と滑らかに発声するための”声の素“となりますので、まずはあらゆるパワーを削ぎ落として整えます。
マストの共鳴≒あくび声
あくびしながら発声している状態が一番近いです。
a.呼気速度を遅くする
b.共鳴で気道/声道を広くする
c.声を放出する前にまずは溜める
……のを狙っています。
なるべく柔らかくて抵抗感が無い状態を作ります。“地声の音域で極力小さくヘッドボイスを作る”と思っていてOKです。
サンプル②のNG例のように、固い音色やハリのある音色にならないように気をつけてください。
関連記事:第31回:『マストの共鳴』でミックスボイスの下地が整う!「鼻に○○る」などとの関係も
(2)「ウィスパー」で声帯を離し脱力
ここでウィスパーボイスの感覚を利用して声帯の脱力を図ります。“声帯に呼気成分を挟めて、声帯が物理的に閉じないようにしてしまう”要領です。「喉詰め声」は声帯の過剰閉鎖が原因になる“悪い地声”ですので、これを防ぐための方法の1つになります。
この作業は後半の練習メニューに組み込まれる形でまた出てきますので、ここではそこそこにして次に進みましょう。
関連記事:第43回:ファルセット・ウィスパーとは“息混ぜ声”である【解説編】
(3)「共鳴」と「エッジ」で呼気バランス調整
(2)でウィスパーをすると、当然ながら声のベクトルは前方に傾きます。力強い発声しようとしたときにウィスパーの呼気量や呼気速度が強く残っていると、ここでも“悪い地声”になる可能性があります。「張り上げ声」は過剰な呼気圧が原因で発生するものですので、ここで呼気圧を抑えるアプローチを2つ紹介します。
①共鳴を作るときの呼気速度
(1)「マストの共鳴」でも触れたように、共鳴作りは呼気のスピードをゆっくりにすることがコツの1つになります。ウィスパー作りのときにもバランスを取る方法として必ずセットで必要になります。
関連記事:第32回:ファルセットやウィスパーボイス作りにも「共鳴」の響きが必要!
②エッジボイスの呼気量
エッジボイスは呼気量が少ないことが条件の1つになる発声です。サウンドの派手さとは裏腹に、呼気圧が低い分だけ声帯に負荷を与えません。地声に必要な呼気圧を整えるのには手っ取り早い方法です。
(4)「鼻音」or「吸気」を作って準備完了
ここからパワーアップに向かっていきます。次の「喉ちんこの引き合い」のための準備動作になります。「喉ちんこ(軟口蓋)」を上げるか・下げるかします。
①鼻音発声
喉ちんこを降ろして「鼻にかける」をします。完全な鼻音は「口を開けたん~」、鼻音寄りの発音は「んあ~」です。
関連記事:第20回:「鼻にかける」で粘り気のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part4/9】
②吸気発声
喉ちんこを上げる方法の1つとして紹介した「吸気発声」ですが、これができるとかなり強力に引き上げることができます。簡単なやり方は「息を吐いて、鼻にためてdaba、息を止めようとしたまま吸う動作」です。
関連記事:第14回:「鼻にかかった声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part4/6】
関連記事は発声トラブルの「鼻が詰まる」の対処法に「鼻音/喉ちんこ下げ」が、その反対の「鼻にかかる」の対処法に「吸気/喉ちんこ上げ」がそのまま使えることを紹介する内容です。
(5)「喉ちんこの引き合い」で倍音生成
(4)の2つの準備状態からぞれぞれのアプローチで「喉ちんこの引き合い」ができます。これが地声の成分である「倍音」を豊かに生成する作業となります。
この段階では「喉仏」は上げて“浅い”“平べったい”声でチャレンジした方が成功しやすいです。
①鼻音状態から喉ちんこ上げ
喉ちんこが下がっている「鼻音」の状態をキープしようとしたまま、喉ちんこを上げます。
②喉ちんこ上げ状態から下げる力を追加
①の逆の動作をしますが、ここで最終的に喉ちんこを下げてしまっては「倍音」でなくてただの「鼻音」になるので、上げた状態のまま!で“下げようとする力”を加えます。動作のコツは“上顎から鼻先に向かって押し込む”感覚です。
関連記事:記事まとめー「喉ちんこの引き合い」 (筆者のサイトへのリンクです)
(6)「喉仏下げ」で音色・バランス調整
(5)では「喉仏上げ」で練習することをオススメしましたが、“浅い”“平べったい”音色が気になる・気に入らない人は、ここで“声の深さ”の調整をしてもOkです。「喉仏下げ」、もしくは「共鳴生成」をすれば声は“深く”“太く”なります。
ただ、次に行う音域拡大の練習の際には、“深い”“太い”声が持つ重心の低さが弊害になる可能性が出てきますので、やはり軽めの声で練習した方が上手く行くケースが多いです。
関連記事:第12回:「喉上げ声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part2/6】
……
ここまでは出しやすい高さでの基礎練習の方法を紹介してきました。次は地声の音域を拡大させて、地声と裏声の境目=「換声点」まで持ち上げる練習に入っていきます。ですが、基礎練習編が予定より長くなってしまったため、以下の練習メニューは次回に持ち越したいと思います(‘ω’)ノ。
次回予告
音域拡大と追加調整
(7)「腹圧」と「重心上げ NEW!」をしつつ高音域へ
(8)「鎖骨上のせり出し NEW!」でバランス維持
本コラムの執筆者
tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
本コラムの記事一覧
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第1回 連載スタートにあたって
2024.02.7
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第2回「理論と感覚」の「考え方」
2024.02.14
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第3回【歌で大事なのは?】理論vs感覚~感覚が理論を越えるとき~
2024.02.21
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第4回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part1/5 -音高変化編-
2024.02.28
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第5回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part2/5 -音色変化編-
2024.03.6
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第6回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part3/5 -音量・グルーヴ変化編-
2024.03.13
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第7回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part4/5 -グルーヴ変化編-
2024.03.20
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第8回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part5/5 -リズムとテンポ変化、応用表現編-
2024.03.27
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第9回 これまでの連載内容まとめと補足記事紹介〜本連載の概要、歌における理論/感覚の考え方、歌い方の種類を紹介〜
2024.04.3
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第10回 歌声が詰まる原因6パターン【ボイトレ】
2024.04.10
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第11回:「喉詰め声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part1/6】
2024.04.17
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第12回:「喉上げ声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part2/6】
2024.04.24
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第13回:「息・鼻が詰まる感覚」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part3/6】
2024.05.1
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第14回:「鼻にかかった声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part4/6】
2024.05.8
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第15回:重要回「声が張り付く」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part5/6】
2024.05.15
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第16回:子音の発音は味方にも敵にもなる【歌声が詰まる原因 part6/6】
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第17回:歌声が「抜ける」原因と力強く鍛えるボイトレ9選
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第20回:「鼻にかける」で粘り気のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part4/9】
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第21回:「鼻にためる」で密度のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part5/9】
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第22回:重要回「喉ちんこの引き合い」でツヤのある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part6/9】
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第23回:-続-「喉ちんこの引き合い」を模型で説明【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅱ/9】
2024.07.10
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第24回:-続-「喉ちんこの引き合い」/倍音生成=「鼻を鳴らす」【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅲ/9】
2024.07.17
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第25回:子音の圧縮や表情筋の稼働で「声を集める」【“抜ける”歌声の改善法 part7/9】
2024.07.24
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第26回:声量アップに腹式呼吸!【“抜ける”歌声の改善法 part8&9 /9】
2024.07.31
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第27回:2つの声の響き「共鳴」と「倍音」をマスター!
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第28回:「共鳴」とは?基本の作り方を解説!
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第29回:「共鳴」をヘッドボイスで極める!共鳴量による感覚の違いを可視化
2024.08.21
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第30回:「共鳴」をチェストボイスに応用!最低限必要な『マストの共鳴』とは?
2024.08.28
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第31回:『マストの共鳴』でミックスボイスの下地が整う!「鼻に○○る」などとの関係も
2024.09.4
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第32回:ファルセットやウィスパーボイス作りにも「共鳴」の響きが必要!
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第33回:声の「倍音」は作れる!声門閉鎖の上位互換「喉ちんこの引き合い」を解説
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第34回:声門閉鎖だけでは「倍音」は作れない……「喉ちんこの引き合い」で倍音生成ができる証明!
2024.09.25
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2024.10.2
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第36回:“弱く閉じる? 強く開く?” 声門閉鎖の「位置と強度」で完全無欠なコントロールを!
2024.10.9
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第37回:呼気圧の「量と速度」で完全無欠な声帯コントロールを!
2024.10.16
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第38回:ミックスボイスへと繋がる!「共鳴」と「倍音」まとめ
2024.10.23
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第39回:料理に例える歌声の“成分”まとめ!声区の作り分けに向けて
2024.10.30
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第40回:○○ボイス〜「声区」発声の分類を一挙紹介!
2024.11.6
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第41回:ヘッドボイスとは“共鳴声”である【解説編】
2024.11.13
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第42回:ヘッドボイスの練習メニュー【実践編】
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2024.11.27
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第45回:息混ぜ声②ファルセットの練習メニュー【実践編】
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第46回:チェストボイスとは“倍音声”である【解説編】
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