【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
目次
息混ぜボイスの応用練習
tOmozoの連載は只今「声区シリーズ」です。前々回は「吐息=呼気」を主成分に持つ「ウィスパー(ボイス)」と「ファルセット」についての【解説編】、前回は地声である「ウィスパー」の【実践編】をお届けしました。
第43回:ファルセット・ウィスパーとは“息混ぜ声”である【解説編】
第44回:息混ぜ声①ウィスパーボイスの練習メニュー【実践編】
今回は裏声である「ファルセット」を作るための発声練習メニューと、これら”息混ぜボイス“2つの音楽表現と声区融合に関する応用練習メニューを紹介する【実践編】となります(‘ω’)ノ。
1.ファルセットの練習メニュー
裏声での息混ぜは難しい
吐息を多く含む発声は、日常生活では「ため息」か「ひそひそ話」くらいで、これを裏声でやる機会はまず無いでしょう。なので裏声音域での息混ぜ声=「ファルセット」は難しく感じる人が多い発声です。
(1)「息を混ぜる」はまず地声で練習
先述の理由から「声に息を混ぜる」という基本動作はまず地声で練習し、「ウィスパーボイス」を作れるようにします。この練習メニューについては前回解説しました。
(2)裏声ではヘッドボイスをベースに置く
実は「ファルセット」に取り組む”前にも後にも“一緒に必要になるのが「ヘッドボイス」です。次に進みます。
(3)ファルセット発声の課題あるある
ファルセットを作るときに問題になるのは以下3点ですが、これらの問題はヘッド(ボイス)の発声感覚をベースに置くことで改善できます。
①”息の漏らし過ぎ“で酸欠のようになる
息の無駄な漏れ過ぎで酸欠のようになる症状はヘッドで改善できます。
ファルセットの性格は”声を散らす“なのに対して、ヘッドは”声を溜める“性格を持っています。前回の連載で紹介した”漏らす息に対する抵抗力“の1つとして、バランスを取ってくれるアイテムになってくれます。
②”声が張り付く“感覚になって息が上手く混ざらない
息を多く漏らそうとすると、吐息に引っ張られるような形で気道/声道の内壁が狭くなり、”声が張り付く“症状も良く起こります。前回のウィスパーの解説でも触れ、その解決策として「息を温める・湿らせる」を紹介しました。ファルセットにおいても同じ対処法が有効ですが、ヘッドにはこの「息を温める・湿らせる」動作が自然と含まれています。
③裏声のはずなのに地声っぽくなる
ファルセットは裏声らしい発声ですが、逆に地声っぽく傾くケースがあります。これは声帯の襞が呼気によって吸い寄せられて振動を起こす作用=「ベルヌーイ効果」によるものです。この点において、「チェストよりはヘッドの方がベルヌーイ効果は弱い」と言えます。それからヘッドには裏声の成分である「共鳴の響き」が多く含まれています。
なので裏声らしい音色に仕上げたければ、ここでもヘッドボイスが役立ってくれます。(逆に「裏声を地声らしく発声するミックスボイス/ハードミックス」を作りたいなら、この地声っぽくなる症状を積極活用していくことになります。)
材料の「ゾーン分け」
全体を通して発声材料を「ゾーン分け」するのがコツになります。鼻腔でヘッドボイスを作り、口腔でファルセットを作ろうとしてみてください。今回は“吐息感”が重要になりますので、「共鳴の響き」でバランスを取りつつ吐息成分が目立つように整えます。
2.息混ぜボイスと音楽表現
ウィスパー・ファルセットは実際の歌唱ではどんな時に使えば良いでしょうか。
“押し引き”の“引き”に
“吐息感”を個性に持つこの2つの声区は、1曲を通してずっとその音色をキープして歌っても良いですが、楽曲が持つ強弱に合わせて使い分けるとより効果的で自然な抑揚になります。”押し“てアピールする時には力強いチェストやヘッドに、“引く”ことで聴き手の気持ちを誘うときにはウィスパーやファルセットにするのは鉄板の表現になります。
ここでは2音単位で「強弱/緊張緩和」を作ってみます。これが音楽の“押し引き”です。
3.息混ぜボイスと声区融合
(1)声区融合の練習
ここではウィスパーからファルセットへの声区融合を練習します。
フレーズはいつものシンプルな「スライド/ポルタメント」から始めます。慣れたら「音階/スケール」でもやってみてください。
これまでの息混ぜボイスのコツが消化できていれば、この2声区はかなり容易に繫げることができます。上手く行けば“今出しているのがウィスパーなのかファルセットなのか分からない”状態を実感することができます。
(2)喉詰め声・張り上げ声の中和剤として
「声門閉鎖が強すぎる/過剰閉鎖」状態を息混ぜボイスで中和できる、という話は以前から紹介していますが、この症状に該当する人はここでチャレンジしてみましょう。ただし、こういった「地声を裏声らしく発声するミックスボイス/ソフトミックス」の材料は他にもありますので、これだけで上手く行くことはほぼ無いです。“試しに”やってみてください。
「喉詰め声」「張り上げ声」になりやすい高音域を、息混ぜボイスにしようと試みます。
次回予告
声区シリーズはヘッドボイスから始まり、ウィスパーボイス・ファルセットの【解説編・実践編】まで完了しました。次回はチェストボイスについての【解説編】をお届けします(‘ω’)ノ。
本コラムの執筆者
tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
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