【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
第44回:息混ぜ声①ウィスパーボイスの練習メニュー【実践編】
2024.12.4
目次
息混ぜ声を作る基礎練習
tOmozoです。「声区シリーズ」、前回は「吐息=呼気」を主成分に持つ「ウィスパーボイス」と「ファルセット」についての【解説編】をお届けしました。今回はこれら2つの”息混ぜ声“のうち、地声である「ウィスパー(ボイス)」を作るための発声練習メニューを紹介する【実践編】となります(‘ω’)ノ。
ファルセットの練習は、まずもって“裏声がある程度出せる”という条件が必須になります。なので最初は地声であるウィスパーボイスで“息を漏らす”基本動作を練習します。
1.ウィスパーボイスを作るための練習
(1)息だけ発声・息混ぜしてみる
①まずは息だけを吐いてみます。
②次はその吐息成分が消えないように声を“じんわり“混ぜてみます。
③最後は強めのチェストボイスに対して声量が落ちないように息を混ぜてみます。
(2)呼気量を増やす
息が混ざりにくく吐息感が出ない原因は、普段の発声バランスが“呼気量が少なくて声門閉鎖が強め”であったり、“呼気速度が遅い”ケースが多いです。まずは一定時間の中で“たくさん”漏らす練習です。「ドギーブレス」は呼気量・呼気速度ともに大胆に鍛え、活用することができます。
⇒関連記事:第26回:声量アップに腹式呼吸!【“抜ける”歌声の改善法 part8&9 /9】
(3)呼気速度の調整
呼気速度は“遅すぎる”と息混ぜ声らしさが作れず、“速すぎる”と発声バランスが崩れて問題が生じやすくなります。(2)の練習で呼気速度が上がり過ぎて「吐きつけ過ぎ」の症状が出たら、「息を温める・湿らせる」作業が即効性があります。これは息が体内を“ゆっくり”巡ることによって体温を吸収する作用を転用したものです。そのほか「あくび」の感覚が呼気速度を遅くしてくれます。
(4)気道が狭くて“張り付く”
息を積極的に漏らそうとすると気道/声道が狭くなり“声が張り付く”感覚になることもよく起こります。これに対する対処法も「息を温める・湿らせる」を試してみてください。”セルフで加湿器ミスト噴霧“のイメージも有効です。上手く行くと“じんわり”と息が混ざるようになります。そのほか「喉ちんこの引き合い」や「共鳴の響き」が効果があります。
(2)でたくさん息を漏らしたら、(3)(4)の作業で安定させます。上手く行けば“ヒュルっと”“サーっと”息混じりの声が出て行ってくれます。
⇒関連記事:第15回:重要回「声が張り付く」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part5/6】
(5)『daba』で「鼻にためる」
(4)で気道が広くなったところで、さらにウィスパーのまま声量を上げようとすると、また吐息成分が無駄に漏れやすい状況に陥りやすくもなります。“吐息感で声量を稼ぐ”という発想も必要なウィスパーボイスですので、呼気量は減らさないままで対処法を考えましょう。
ここまでに紹介した「息を温める・湿らせる」「あくび」「喉ちんこの引き合い」「共鳴の響き」などは全て、漏らす息を留めようとするある種の抵抗力です。“息は漏らすもの”ですが、ただ漏らすだけではコントロールが効きません。漏らす息を留めようとする抵抗力で一番粘着力が強いのが『daba(damban)』の発音による「鼻にためる」作業であり、先述の作業を全て内包しているアイテムになります。「鼻にためる」をしながら積極的にウィスパーしてみてください。上手く行けば息が多いなりにも安定し、ある程度声量にも変換されやすくなります。
⇒関連記事:第21回:「鼻にためる」で密度のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part5/9】
(6)“ザラつき感”と声量アップ
息を安定的にたくさん漏らすことができても、息混ぜ声の個性の1つである”ザラつき感“が出なかったり、まだ十分な声量が出せなかったりします。ここで必要になるのが声帯での摩擦力・抵抗力です。
声門閉鎖 を強めつつ呼気を漏らす=息を漏らすために声帯は閉じ切らずも閉じる力を強めるのがコツです。声門閉鎖圧と呼気圧をいわば“喧嘩させて摩擦を起こす”とこれらの問題をクリアできます。これを理解するのに必要なのが「声帯の“位置”と“強度”問題」です。
⇒関連記事:第36回:声門閉鎖の「位置と強度」で完全無欠なコントロールを!
(7)息混ぜ声には“抵抗”が必要
(2)が息を積極的に漏らす作業で、(3)~(6)はそれを留めようとする抵抗力でした。これをイラストにまとめます。このように各抵抗の材料を“フィルター”のようにして“呼気を濾過”しつつ、材料を「ゾーン分け」する感覚がポイントです。
2.吐息成分バランス練習
上記の練習メニューで上手く吐息を混ぜることが出来たら、「地声成分」と「吐息成分」の配分バランスを変える練習をします。
(1)5段階:息だけ 息多め 息声半々 声多め 声だけ
(2)11段階:0~100を10単位で数値化して練習
(3)グラデーションで練習
特に11段階の調整はかなり難しいですが、細かい感覚を身に付ければ当然繊細な表現の役に立ちますよ。
⇒関連記事:第11回:「喉詰め声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part1/6】
次回予告
次回はもう1つの裏声「ファルセット」の練習メニューと、息混ぜ声2つを応用する練習、息混ぜ声と声区融合への練習、についてをお届けする予定です(‘ω’)ノ。
本コラムの執筆者
tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
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