【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
目次
料理に例える歌声成分
tOmozoです。連載は声区シリーズに突入していきます( `ー´)ノ。今回は今までに登場した歌声の”成分“のうち、特に「声区」に関わるものについてまとめておきたいと思います。今回は以下の成分それぞれを”料理に例えて“紹介していきます。
(1)共鳴=オムライスの卵
(2)倍音=スパイス
(3)鼻音=片栗粉・繋ぎの卵・とろけたチーズ
(4)エッジボイス=焦がしチーズ
(5)呼気=水→味付けのため
(6)呼気=ガス→火力のため
歌声の各成分は、あなたの発声を完成させるため=1つの料理を完成させるための材料のようなものです。これらの成分を作ることができる「鼻に〇〇」などの発声動作(=レシピ)と、関係する「声区」についても簡単に触れつつまとめていきます。
歌声成分と声区と発声動作
(1)共鳴の響き=オムライスの卵
ウェットで広がりのある響きである「共鳴」の成分は、料理に例えると”オムライスの卵“です。卵がチキンライス全体を包み込むのは、歌声の成分全体を共鳴が内包するのに似ているし、チキンライスやケチャップの味付けが濃くても卵の甘味と厚さで全体の味のバランスが整う様子は、煌びやかな「倍音」成分が強めでもウェットな共鳴が多いと音色のバランスが取れることと似ています。
共鳴は「ヘッドボイス」らしさ
裏声の1つである「ヘッドボイス」を完成させる成分がこの「共鳴」です。
共鳴作りのレシピは?
響きを「鼻に溜める」感覚が一番効果があります。
(2)倍音の響き=スパイス
倍音を料理に例えるなら、スパイスに似ています。辛みが苦手な人にとっても、適度なスパイス量は美味しさを引き立てるための隠し味になるし、スパイシーな味付けが好きならばたくさん入れても良いものです。これを発声に置き換えましょう。一聴”共鳴が多くてウェットな歌声“にする場合でも、歌声を完成させるには倍音成分がある程度必要になるし、倍音の煌びやかなサウンドが好きな人は倍音成分が目立つように歌声を整えることもできます。
倍音は「チェストボイス」らしさ
地声である「チェストボイス」はもちろん、裏声を地声らしく補強する「ミックスボイス」にも重要になるのがこの「倍音」です。
倍音作りのレシピは?
筆者提唱の「喉ちんこの引き合い」で豊かな倍音生成を叶えることができます。
(3)鼻音=片栗粉・繋ぎの卵・とろけるチーズ
鼻音はマルチな効果を発揮します。①地声、②裏声、③その融合、と3WAYで成分を調整してくれます。
①ファルセット・ウィスパーでは”片栗粉“
吐息成分によって散りやすい「ファルセット(=裏声)」や「ウィスパーボイス(=地声)」では、”とろみ“を付けてまとめてくれる片栗粉のような役割を果たします。
②チェストボイスでは”繋ぎの卵“
硬くなりやすい「チェストボイス(=地声)」では、”繋ぎの卵“のような効果を持ちます。ハンバーグの生地に繋ぎの卵を混ぜなければ焼き上がりが割れやすくなりますが、これは発声では”硬くて悪い地声“の状態に似ています。鼻音を足すことで柔軟性と弾力性が生まれ、声も”割れ“づらくなります。
③声区融合には”とろけるチーズ“として
各声区間を繋げる「声区融合=ボイスミックス」の場面では”とろけるチーズ“のような役割を果たします。とろけたチーズが食材同士の間に入って隙間を埋める様子は、声区同士を柔らかく繋げることに似ています。
鼻音作りのレシピは?
鼻音の作り方は「鼻にかける」ことです。母音を発声している間「喉ちんこ(軟口蓋)」を降ろし気味にします。
(4)エッジボイス=焦がしチーズ
エッジボイスは例えるなら”バーナーでチーズに焦げ目を付ける“ような効果があります。焦げ目が付いたことによって見た目や味が変化することは、エッジボイスが音楽的な味付けになることに似ています。それから、表面を焦がしたことによってカリカリの層ができて内側の食材が閉じ込められることは、エッジボイスの感覚が過剰な呼気圧などの抑止力になることに似ています。
エッジボイスは「地声の補強」成分
実際には「力強いミックスボイスにしたいが、強いヘッドボイスにしかならない」時などに役立ちます。
エッジボイス作りのレシピは?
今までエッジボイスの作り方自体には直接詳しく触れていませんが、条件は筆者提唱の「喉ちんこの引き合い」と「呼気を減らすこと」になります。
(5)味付け調整としての呼気=水
何の料理でも味付けが濃くなったら水で薄めます。発声が詰まり気味になったりしたら呼気を混ぜることでサラッとした裏声寄りの発声にできます。この場合の呼気は“水”の役割に似ています。
呼気は「息漏らし声・息混ぜ声」の成分
歌声に呼気成分を増やすということは、「ファルセット」や「ウィスパーボイス」にするということです。両者とも”裏声チック”な発声と言えます。
呼気を混ぜるためのレシピは?
地声裏声に限らず「息混ぜ声」をコントロールするには「呼気を温める・湿らせる」のが重要です。
……
さて、(5)は呼気を「音色/声色の調整」のために使う発想であり、呼気は裏声らしさを作るためのアイテムになるという考え方です。でも、そもそもどんな発声をするにせよ、声帯を鳴らす基本動作=「ベルヌーイ効果」のためにも呼気は必要です。つまり呼気は地声らしさを作るためのアイテムにもなるということです。
(6)火力調整としての呼気=ガス
ガスの量で火力を上げることは「呼気圧」を上げて声量を上げることに似ているし、点火しないままガスが漏れる様子は無駄な息漏れが起こる様子に似ています。
この場合「声門閉鎖圧」は”ガスコンロの能力“に例えることができます。コンロが大きければ、ガス量とのセットでそれだけ強い火力を生み出すことができます。「ガス量×コンロの能力=火力」はつまり「呼気圧×声門閉鎖圧=声量」です。
この(6)が呼気が地声らしさを作るためのアイテムにもなるという側面です。
声区習得のために必要な詳細レシピ
”ガスとコンロ”では解決できない声区調整
各声区の作り分けは、上記の(1)~(6)の歌声の成分を駆使していくことになりますが、“運が良ければ”これだけで声区調整が完了します。でも、多くの人がこれだけでは『いくら練習してもどうしても思い通りの発声にならない……』ことが多いです。
最後の砦は「量・速度」と「位置・張度」
その原因のほとんどは、『呼気圧』の「量・速度」問題、『声門閉鎖圧』の「位置・張度」問題にあります。呼気の「多さ・速さ」、そして声帯の「閉じ具合・張り具合」は、各声区を習得する上でしばしば”最後の砦“になります。上記(6)のような『呼気圧』『声門閉鎖圧』の捉え方だけでは不十分です。
「量・速度」と「位置・張度」=”塩胡椒“と”砂糖醤油“
この呼気の「量・速度」と声帯の「位置・張度」の使い分けが必要になる理由については、”塩胡椒“と”砂糖醤油“に例えることができます。
これについて解説した記事は、筆者運営のブログにて公開していますので以下の記事をご参照ください。”ブレンド量を変える必要がある“のがヒントです。
呼気圧と声門閉鎖圧を「量・速度」「位置・張度」に分ける必要性【VMW版-補完】
次回予告
次回はいよいよ、「声区」の視点からいろいろな「〇〇ボイス」をまとめていきます(‘ω’)ノ。
本コラムの執筆者
tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
本コラムの記事一覧
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第1回 連載スタートにあたって
2024.02.7
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第2回「理論と感覚」の「考え方」
2024.02.14
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第3回【歌で大事なのは?】理論vs感覚~感覚が理論を越えるとき~
2024.02.21
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第4回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part1/5 -音高変化編-
2024.02.28
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第5回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part2/5 -音色変化編-
2024.03.6
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第6回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part3/5 -音量・グルーヴ変化編-
2024.03.13
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第7回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part4/5 -グルーヴ変化編-
2024.03.20
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第8回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part5/5 -リズムとテンポ変化、応用表現編-
2024.03.27
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第9回 これまでの連載内容まとめと補足記事紹介〜本連載の概要、歌における理論/感覚の考え方、歌い方の種類を紹介〜
2024.04.3
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第10回 歌声が詰まる原因6パターン【ボイトレ】
2024.04.10
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第11回:「喉詰め声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part1/6】
2024.04.17
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第12回:「喉上げ声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part2/6】
2024.04.24
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第13回:「息・鼻が詰まる感覚」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part3/6】
2024.05.1
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第14回:「鼻にかかった声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part4/6】
2024.05.8
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第15回:重要回「声が張り付く」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part5/6】
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第16回:子音の発音は味方にも敵にもなる【歌声が詰まる原因 part6/6】
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第17回:歌声が「抜ける」原因と力強く鍛えるボイトレ9選
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第18回:声帯を閉じる筋力UP【“抜ける“歌声の改善法 part1/9】
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第19回:声は下から支え、上から吊る【“抜ける”歌声の改善法 part2・3/9】
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第20回:「鼻にかける」で粘り気のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part4/9】
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第21回:「鼻にためる」で密度のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part5/9】
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第22回:重要回「喉ちんこの引き合い」でツヤのある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part6/9】
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第23回:-続-「喉ちんこの引き合い」を模型で説明【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅱ/9】
2024.07.10
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第24回:-続-「喉ちんこの引き合い」/倍音生成=「鼻を鳴らす」【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅲ/9】
2024.07.17
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第25回:子音の圧縮や表情筋の稼働で「声を集める」【“抜ける”歌声の改善法 part7/9】
2024.07.24
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第26回:声量アップに腹式呼吸!【“抜ける”歌声の改善法 part8&9 /9】
2024.07.31
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第27回:2つの声の響き「共鳴」と「倍音」をマスター!
2024.08.7
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第28回:「共鳴」とは?基本の作り方を解説!
2024.08.14
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第29回:「共鳴」をヘッドボイスで極める!共鳴量による感覚の違いを可視化
2024.08.21
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第30回:「共鳴」をチェストボイスに応用!最低限必要な『マストの共鳴』とは?
2024.08.28
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第31回:『マストの共鳴』でミックスボイスの下地が整う!「鼻に○○る」などとの関係も
2024.09.4
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第32回:ファルセットやウィスパーボイス作りにも「共鳴」の響きが必要!
2024.09.11
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第33回:声の「倍音」は作れる!声門閉鎖の上位互換「喉ちんこの引き合い」を解説
2024.09.18
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第34回:声門閉鎖だけでは「倍音」は作れない……「喉ちんこの引き合い」で倍音生成ができる証明!
2024.09.25
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第35回:息と声帯と倍音の関係を「ホームの白線の外側に立つ」で考える
2024.10.2
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第36回:“弱く閉じる? 強く開く?” 声門閉鎖の「位置と強度」で完全無欠なコントロールを!
2024.10.9
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第37回:呼気圧の「量と速度」で完全無欠な声帯コントロールを!
2024.10.16
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第38回:ミックスボイスへと繋がる!「共鳴」と「倍音」まとめ
2024.10.23
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第39回:料理に例える歌声の“成分”まとめ!声区の作り分けに向けて
2024.10.30
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第40回:○○ボイス〜「声区」発声の分類を一挙紹介!
2024.11.6
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第41回:ヘッドボイスとは“共鳴声”である【解説編】
2024.11.13
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第42回:ヘッドボイスの練習メニュー【実践編】
2024.11.20