【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第39回:料理に例える歌声の“成分”まとめ!声区の作り分けに向けて

料理に例える歌声成分

 tOmozoです。連載は声区シリーズに突入していきます( `ー´)ノ。今回は今までに登場した歌声の”成分“のうち、特に「声区せいく」に関わるものについてまとめておきたいと思います。今回は以下の成分それぞれを”料理に例えて“紹介していきます。

(1)共鳴=オムライスの卵
(2)倍音=スパイス
(3)鼻音=片栗粉・繋ぎの卵・とろけたチーズ
(4)エッジボイス=焦がしチーズ

(5)呼気=水→味付けのため
(6)呼気=ガス→火力のため

【料理に例える歌声“成分”まとめ】

 歌声の各成分は、あなたの発声を完成させるため=1つの料理を完成させるための材料のようなものです。これらの成分を作ることができる「鼻に〇〇」などの発声動作(=レシピ)と、関係する「声区」についても簡単に触れつつまとめていきます。


歌声成分と声区と発声動作

(1)共鳴の響き=オムライスの卵

 ウェットで広がりのある響きである「共鳴きょうめい」の成分は、料理に例えると”オムライスの卵“です。卵がチキンライス全体を包み込むのは、歌声の成分全体を共鳴が内包するのに似ているし、チキンライスやケチャップの味付けが濃くても卵の甘味と厚さで全体の味のバランスが整う様子は、きらびびやかな「倍音ばいおん」成分が強めでもウェットな共鳴が多いと音色のバランスが取れることと似ています。

【共鳴の響き=オムライスの卵】

共鳴は「ヘッドボイス」らしさ

 裏声の1つである「ヘッドボイス」を完成させる成分がこの「共鳴」です。

共鳴作りのレシピは?

 響きを「鼻に溜める」感覚が一番効果があります。

(2)倍音の響き=スパイス

 倍音を料理に例えるなら、スパイスに似ています。辛みが苦手な人にとっても、適度なスパイス量は美味しさを引き立てるための隠し味になるし、スパイシーな味付けが好きならばたくさん入れても良いものです。これを発声に置き換えましょう。一聴”共鳴が多くてウェットな歌声“にする場合でも、歌声を完成させるには倍音成分がある程度必要になるし、倍音の煌びやかなサウンドが好きな人は倍音成分が目立つように歌声を整えることもできます。

【倍音の響き=スパイス】

倍音は「チェストボイス」らしさ

 地声である「チェストボイス」はもちろん、裏声を地声らしく補強する「ミックスボイス」にも重要になるのがこの「倍音」です。

倍音作りのレシピは?

 筆者提唱の「喉ちんこの引き合い」で豊かな倍音生成を叶えることができます。

(3)鼻音=片栗粉・繋ぎの卵・とろけるチーズ

 鼻音はマルチな効果を発揮します。①地声、②裏声、③その融合、と3WAYで成分を調整してくれます。

【鼻音=片栗粉・繋ぎの卵・とろけるチーズ】

①ファルセット・ウィスパーでは”片栗粉“

 吐息成分によって散りやすい「ファルセット(=裏声)」や「ウィスパーボイス(=地声)」では、”とろみ“を付けてまとめてくれる片栗粉のような役割を果たします。

②チェストボイスでは”繋ぎの卵“

 硬くなりやすい「チェストボイス(=地声)」では、”繋ぎの卵“のような効果を持ちます。ハンバーグの生地に繋ぎの卵を混ぜなければ焼き上がりが割れやすくなりますが、これは発声では”硬くて悪い地声“の状態に似ています。鼻音を足すことで柔軟性と弾力性が生まれ、声も”割れ“づらくなります。

③声区融合には”とろけるチーズ“として

 各声区間せいくかんを繋げる「声区融合せいくゆうごう=ボイスミックス」の場面では”とろけるチーズ“のような役割を果たします。とろけたチーズが食材同士の間に入って隙間を埋める様子は、声区同士を柔らかく繋げることに似ています。

鼻音作りのレシピは?

 鼻音の作り方は「鼻にかける」ことです。母音を発声している間「喉ちんこ(軟口蓋のなんこうがい)」を降ろし気味にします。

(4)エッジボイス=焦がしチーズ

 エッジボイスは例えるなら”バーナーでチーズに焦げ目を付ける“ような効果があります。焦げ目が付いたことによって見た目や味が変化することは、エッジボイスが音楽的な味付けになることに似ています。それから、表面を焦がしたことによってカリカリの層ができて内側の食材が閉じ込められることは、エッジボイスの感覚が過剰な呼気圧などの抑止力になることに似ています。

【エッジボイス=焦がしチーズ】

エッジボイスは「地声の補強」成分

 実際には「力強いミックスボイスにしたいが、強いヘッドボイスにしかならない」時などに役立ちます。

エッジボイス作りのレシピは?

 今までエッジボイスの作り方自体には直接詳しく触れていませんが、条件は筆者提唱の「喉ちんこの引き合い」と「呼気を減らすこと」になります。

(5)味付け調整としての呼気=水

 何の料理でも味付けが濃くなったら水で薄めます。発声が詰まり気味になったりしたら呼気を混ぜることでサラッとした裏声寄りの発声にできます。この場合の呼気は“水”の役割に似ています。

【味付け調整としての呼気=水】

呼気は「息漏らし声・息混ぜ声」の成分

 歌声に呼気成分を増やすということは、「ファルセット」や「ウィスパーボイス」にするということです。両者とも”裏声チック”な発声と言えます。

呼気を混ぜるためのレシピは?

 地声裏声に限らず「息混ぜ声」をコントロールするには「呼気を温める・湿らせる」のが重要です。

……

 さて、(5)は呼気を「音色おんしょく声色こわいろの調整」のために使う発想であり、呼気は裏声らしさを作るためのアイテムになるという考え方です。でも、そもそもどんな発声をするにせよ、声帯を鳴らす基本動作=「ベルヌーイ効果」のためにも呼気は必要です。つまり呼気は地声らしさを作るためのアイテムにもなるということです。

(6)火力調整としての呼気=ガス

 ガスの量で火力を上げることは「呼気圧こきあつ」を上げて声量を上げることに似ているし、点火しないままガスが漏れる様子は無駄な息漏れが起こる様子に似ています。
 この場合「声門閉鎖圧せいもんへいさあつ」は”ガスコンロの能力“に例えることができます。コンロが大きければ、ガス量とのセットでそれだけ強い火力を生み出すことができます。「ガス量×コンロの能力=火力」はつまり「呼気圧×声門閉鎖圧=声量」です。

【火力調整としての呼気=ガス】

 この(6)が呼気が地声らしさを作るためのアイテムにもなるという側面です。


声区習得のために必要な詳細レシピ

”ガスとコンロ”では解決できない声区調整

 各声区の作り分けは、上記の(1)~(6)の歌声の成分を駆使していくことになりますが、“運が良ければ”これだけで声区調整が完了します。でも、多くの人がこれだけでは『いくら練習してもどうしても思い通りの発声にならない……』ことが多いです。

最後の砦は「量・速度」と「位置・張度」

 その原因のほとんどは、『呼気圧』の「量・速度」問題、『声門閉鎖圧』の「位置・張度」問題にあります。呼気の「多さ・速さ」、そして声帯の「閉じ具合・張り具合」は、各声区を習得する上でしばしば”最後の砦“になります。上記(6)のような『呼気圧』『声門閉鎖圧』の捉え方だけでは不十分です。

「量・速度」と「位置・張度」=”塩胡椒“と”砂糖醤油“

 この呼気の「量・速度」と声帯の「位置・張度」の使い分けが必要になる理由については、”塩胡椒“と”砂糖醤油“に例えることができます。

【「量・速度」「位置・張度」=”塩胡椒“”砂糖醤油“】

 これについて解説した記事は、筆者運営のブログにて公開していますので以下の記事をご参照ください。”ブレンド量を変える必要がある“のがヒントです。

呼気圧と声門閉鎖圧を「量・速度」「位置・張度」に分ける必要性【VMW版-補完】


次回予告

 次回はいよいよ、「声区」の視点からいろいろな「〇〇ボイス」をまとめていきます(‘ω’)ノ。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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