【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第35回:息と声帯と倍音の関係を「ホームの白線の外側に立つ」で考える

2024.10.2

声帯の正しい動かし方”について解説

 tOmozoです。声の2つの響き=「共鳴きょうめい」と「倍音ばいおん」シリーズをお届けしています。「倍音シリーズ」の3回目になる今回は、持ち越しにした「ベルヌーイ効果」も踏まえ、”声帯の正しい動かし方”について詳しく解説したいと思います。前回は「喉ちんこの引き合い」によって倍音生成が可能なことを、モンゴルの「ホーミー」という発声にて証明しました。豊かな倍音を作れる状態こそが良質な声門閉鎖を叶える条件になります。
 かなり複雑な話になってきますが、これこそが発声コントロールの鍵となりますのでご一読ください(‘ω’)ノ。

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倍音生成は「喉ちんこの引き合い」

 これまで解説してきたように、「倍音ばいおん」の生成ができるのは「喉ちんこの引き合い」をしているからであって、「声門閉鎖せいもんへいさ」を直接いじっているわけではありません。

過剰な声門閉鎖で倍音は潰れる

 「倍音生成ができている時は声門閉鎖は強い状態である」と言えます。でもその強さは、「喉ちんこの引き合い」をしたことによって”結果として強くなる“のであって、声門閉鎖を直接自ら強くしようとしているわけではありません。声帯を直接いじるような動作は、倍音を押し潰す形になりきらびやかな響きが抑えられ、「喉声のどごえ喉締のどじめ声)」にする危険性も生みます。

 声帯の代わりに頑張らせるのが「喉ちんこ(軟口蓋なんこうがい)」であり、どうやって発声パワーを作るのか?に対する解答が筆者提唱の「喉ちんこの引き合い」になります。この関係は“操り人形”の構造に似ていて、人形の関節を動かすのは上方に繋がっている紐を操作する人間の手です。もし人形の関節を直接手で持って動かせば滑らかな動きにはなりません。

 ここまでは繰り返し説明してきた部分ですが、今回は”意図的で過剰な声門閉鎖“を回避しつつ豊かな倍音生成をするにはどうすればいいのか?を「ベルヌーイ効果」の視点を加えて更に詳しく解説していきます。


声門閉鎖は喉ちんこ&息の流れで作る

 ”過剰な声門閉鎖“を回避しつつ豊かな倍音生成ができる条件は2つあります。1つは「喉ちんこの引き合い」で、この仕組みとやり方はこれまで解説してきた通りです。もう1つは息の流れによって生まれる「ベルヌーイ効果」で、これが声帯の根本的な動作を作っています。

「ベルヌーイ効果」とは吸い寄せる作用

 「ベルヌーイ効果」とは空気の流れによって物が吸い寄せられる作用です。駅のホームに列車が入って来た時に『白線の内側までお下がりください~』とアナウンスされるのは、列車に直接触れずとも列車が作り出す気流によって体が吸い寄せられるのを防ぐためです。

ベルヌーイ効果は“吸い寄せる作用”

 ……そうです、まさにこれと同じことが発声時に声帯で起こります。

声帯は息の流れで動き出す

 声帯周辺に息が流れると、声帯の両サイドのひだが吸い寄せられることで声帯が動き始めます。ポールに掲げた旗が風になびいて“バサバサッ”と音が鳴るのが近いでしょうか。

 声門閉鎖を強くしたところで、そこに呼気の流れが無ければ声帯は動作を開始してくれません。むしろ順序は逆で、“声帯を吸い寄せて閉鎖を開始させるのが息の流れ”なのです。これが正しい発声動作の原理です。

意図的な声門閉鎖<ベルヌーイ効果

 ということで声帯を吸い寄せるために息/呼気こきを積極的に活用していくわけですが……

呼気は声帯を開いてしまう?

 息を多用するとほとんどの人に必ず起こるのが、「声帯の開きすぎによる無駄な息漏れ」です。息を積極的に漏らすことによって声帯は開きます。すると、ただ呼気が多く流れるだけでヘロヘロな弱い発声になります。これでは豊かな倍音は作られません。

 『え、声帯を吸い寄せるために息を吐くんじゃないの??』と思ったあなた。発声動作はそんなに簡単な構造ではありませんよ。

あえて「白線の外側に立つ」

 駅のホームではベルヌーイ効果の影響を受けないように白線の内側まで下がります。発声動作においてはベルヌーイ効果を作る必要があるので、“あえて白線の外側に立つ”必要があるのです。声帯が呼気よるベルヌーイ効果の影響を受けるためには、声帯をある程度寄せた状態でキープする必要があります。これを逆にして言い換え、倍音についても触れると以下のようになります。

息だけ吐いている時:声帯が白線の内側にある=離れているからベルヌーイ効果の影響を受けることができない。息100%で声はゼロなので当然倍音成分もゼロ。

通常の声が出ている時:声帯が白線の外側にある=ある程度寄っているから呼気の影響を受けてベルヌーイ効果が発動している。これで倍音が生まれる下地は整うが、豊かな倍音生成ができるかどうかは「喉ちんこの引き合い」次第。

喉締め声になっている時:声帯が接触事故を起こしている状態。声帯を強く閉じ過ぎていて正常なベルヌーイ効果が失われている。たとえ「喉ちんこの引き合い」が上手くできていたとしても、これでは倍音成分を潰すことになる。

 この3つの発声をして声帯の動きをイメージしてみてください。……声帯はくっ付き過ぎてもダメ、離れすぎてもダメなんです。さて、ここでようやく役に立つ発声コントロールが「声門閉鎖」です。“白線を境目に付かず離れずちょうど良く立つ”この微妙なバランスが必要になります。これには声門閉鎖の「位置と強度」を理解する必要があります。

声門閉鎖には「位置と強度」問題がある。

 厳密に言うと“声帯が閉じている=強い声門閉鎖”ではありません。「弱~く閉じている」こともあれば「開き気味だけどしっかり固定されている」状況もあり得ますよね。実際に息を多く扱う「ウィスパーボイス」や「ファルセット」は、特にこれをコントロールできなければ安定させることができません。奥が深い世界です。


次回予告

 ということで次回は声門閉鎖の「位置と強度」問題について、引き続き「ベルヌーイ効果」に触れつつ「喉ちんこの引き合い」と倍音生成がこれにどう関わってくるのかを解説いたします(‘ω’)ノ。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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