【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第31回:『マストの共鳴』でミックスボイスの下地が整う!「鼻に○○る」などとの関係も

2024.09.4

『マストの共鳴』の補足とミックスボイスとの関係

 tOmozoです。声の2つの響き=「共鳴きょうめい」と「倍音ばいおん」シリーズをお届けしています。共鳴の4回目になります。前回は潤滑な発声動作のために最低限必要となる『マストの共鳴』について簡単に紹介しましたが、今回はこれについて「ミックスボイス」との関わりも踏まえて詳しく解説していきます(‘ω’)ノ。

共鳴のマストとオプション

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第27回:2つの声の響き「共鳴」と「倍音」をマスター!
第28回:「共鳴」とは?基本の作り方を解説!
第29回:「共鳴」をヘッドボイスで極める!共鳴量による感覚の違いを可視化


1.『マストの共鳴』が持つ効果

(1)色々な発声トラブルの特効薬に

 例えば『以前は高音を出せてたのに、最近出なくなった』という悩みを持つ人は多いと思います。発声で何かトラブルがあった時、その症状の原因と対処法は個人の状況によって多岐に渡りますが、まずはこの『マストの共鳴』を疑って試してみることをオススメします。

関連記事紹介:『マストの共鳴』について

第30回:「共鳴」をチェストボイスに応用!最低限必要な『マストの共鳴』とは?

 当然これだけでは何ともならないこともありますが、この発声作業は“いつでも誰にでも”必要なものなので、どんな対処法にもセットで必要になると思っていてOKなアイテムです。

(2)ミックスボイスの“溶かして混ぜる”に

 ミックスボイスとは簡単に言うと、地声と裏声を混ぜた発声です。

①滑らかに繋いで上行 ②ファルセット ③ヘッドボイス ④裏声寄りのミックス ⑤地声寄りのミックス

地声と裏声の境目である「換声点かんせいてん」付近は、一般的には歌いづらくなる音域です。a.換声点の境目が無くなるように綺麗に繋いだり、b.弱くなりがちな裏声に地声成分を足して補強したり、c.硬すぎる地声を柔らかくして裏声と混ぜやすくしたり、といった場面で必要とされている発声がミックスボイスです。

ミックスボイスの考え方

 共鳴の響きには地声の“硬くて悪い”成分を溶かして裏声寄りに傾かせる効果があります。それと次の章で紹介しますが、『マストの共鳴』には発声に必要な“ハリ”が最低限含まれているので、地声を“柔らかくて良い”状態で鳴らす準備が整います。このように『マストの共鳴』が出来ていると、ミックスボイスの下準備が整うような形になります。


2.『マストの共鳴』と色々な発声動作の関係

 この『マストの共鳴』と、今まで紹介して来た「鼻に〇〇る」などの発声動作との関係を補足します。僕のレッスンで実際に生徒さんの歌声を診断して、今の状況だったらコレが必要だな、とフィードバックする時の細かい使い分けになります。

(1)「喉ちんこの引き合い」はハリと密度の基礎

 まずは歌声の“ハリ”を作るための「喉ちんこの引き合い」です。この発声作業自体には共鳴の成分は含まれていませんが、「喉ちんこの引き合い」が上手くいってないと『マストの共鳴』も上手く作れません。“発声アイテムの中で最も核になる作業”なので、マストの共鳴より先にやるべきことと言えます。

マストの共鳴と喉ちんこの引き合い

 喉ちんこを下ろす作業と上げる作業を同時にして引っ張り合うと、喉ちんこ⇒声帯⇒歌声の順序で“ハリ”が作られます。このハリこそが声の密度そのものと言えるもので、共鳴の密度もこれに影響を受けることになります。

関連記事紹介:「喉ちんこの引き合い」について

第22回:重要回「喉ちんこの引き合い」でツヤのある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part6/9】
第23回:-続-「喉ちんこの引き合い」を模型で説明【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅱ/9】
第24回:-続-「喉ちんこの引き合い」/倍音生成=「鼻を鳴らす」【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅲ/9】

 ”声帯の代わりに喉ちんこを頑張らせる“発想でもあるこの作業は、「喉声のどごえ」にさせずに色々な発声コントロールを実現できるアイテムです。

ミックスボイスと「マストの共鳴」&「喉ちんこの引き合い」

 先述のミックスボイスと、『マストの共鳴』と「喉ちんこの引き合い」の関係を簡単に触れます。

ミックスボイスでの地声裏声成分の調整

 「喉ちんこの引き合い」はパワーアップの側面が強いので、裏声を地声寄りに補強したい時に役に立ちます。
 それに対して「マストの共鳴」はもちろん共鳴の要素が入ってくるので、地声を裏声寄りに調整したい時に役立ちます。

(2)「鼻にためる」とベクトルは後方に

 「鼻に溜める」は『マストの共鳴』よりも共鳴量が多く作られる傾向にあるアイテムです。

関連記事紹介:「鼻にためる」について

第21回:「鼻にためる」で密度のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part5/9】

 ただしこの「鼻に溜める」は、息や声が散ってしまうのを口腔こうくうに留めるのが目的のアイテムなので、発声のベクトルは後方に向かいます。
 それに対して「マストの共鳴」は鼻先から声を埋めていくのが目的なので、発声のベクトルは前方に向かいます。

「マストの共鳴」と「鼻に溜める」の違い

 発声は上下方向にも前後方向にもバランスを取る必要がありますので、この点において使い分けの必要が生じます。

各発声動作が持つベクトルまとめ

 先ほど触れた“声が進む方向”である「発声のベクトル」について、各発声動作がどの方向になるのかをまとめておきます。今回はイラストにて紹介し、またの機会に詳しく解説したいと思います。

各発声動作が持つベクトルまとめ

(3)「マストの共鳴」→「鼻にためる」→「喉仏を下げる」

 この3つを共鳴量の順で並べると「マストの共鳴」→「鼻に溜める」→「喉仏のどぼとけを下げる」の順で増える形になります。共鳴量による音色/声色については個人の自由ですので、好きなだけ共鳴を作ってください。

関連記事紹介:共鳴を最大量作ることについて

第29回:「共鳴」をヘッドボイスで極める!共鳴量による感覚の違いを可視化

 ただ「喉仏を下げる」と発声の重心密度も下がり気味になりますので、そうなったら「マストの共鳴 」の感覚を入れ直して、重心と密度を高く保つようにします。

 これに限らず、どの発声作業をする時も「マストの共鳴」はセットで必要になりますので、まずは「マストの共鳴」を作ってから他の作業を追加してみてください。


次回予告

 次回「共鳴」の最後、5回目は、共鳴と「ファルセット」&「ウィスパーボイス」についての関係について解説したいと思います(‘ω’)ノ。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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