【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第30回:「共鳴」をチェストボイスに応用!最低限必要な『マストの共鳴』とは?

2024.08.28

共鳴とチェストボイス、最小限の共鳴

 tOmozoです。声の2つの響き=「共鳴きょうめい」と「倍音ばいおん」シリーズをお届けしています。共鳴の第3回目です。前回は裏声である「ヘッドボイス」で共鳴量を最大作る練習を解説しましたが、今回は地声である「チェストボイス」での共鳴作り、そして潤滑な発声動作のために最低限必要となる『マストの共鳴』について簡単に紹介します。

共鳴と倍音シリーズ

 まず「共鳴」と「倍音」についての基本的な知識については、以下の記事をご参照ください。
第27回:2つの声の響き「共鳴」と「倍音」をマスター!


チェストボイスで共鳴作り

「チェストボイス」は強めの地声

 まずチェストボイスについて以下の「声区表せいくひょう」をご確認ください。“息漏れの少ない強めの地声”と思っていてOKです。

声区表 簡易ver.

地声での共鳴作りも“拡げて埋める”

 チェストボイスでの発声でも、共鳴の作り方は変わりません。(1)共鳴腔きょうめいくうの拡大、(2)共鳴腔の充満、の2つで豊かな共鳴量を作ることができます。共鳴の基本的な作り方、そしてヘッドボイスで共鳴を最大量作るコツについては以下の記事をご参照ください。

第28回:「共鳴」とは?基本の作り方を解説!
第29回:「共鳴」をヘッドボイスで極める!共鳴量による感覚の違いを可視化

地声と共鳴は混ざりづらいこともある

 ただ、共鳴の成分は柔らかいのに対して、地声の成分は硬いため、2つが上手く混ざらないケースも良くあります。最初に地声の硬い成分を作ってしまうと、後から柔らかい共鳴の成分を作りづらくなったりと、発声を組み立てる順序も大きく影響を与えます。ここでは裏声の成分「共鳴」と地声の成分「声門閉鎖せいもんへいさ」の2つのコントロールを、組立順を変えて練習します。

(1)深い共鳴作り→声門閉鎖を強める

 まずは共鳴を作ってから声門閉鎖を強める順序での練習の方が共鳴をキープしやすいです。「あくびをする感覚」「鼻に溜めるtapaたぱdabaだば」「ヘッドボイスから共鳴を降ろしてくる」などで深い共鳴を作ったら、そこから徐々に声門閉鎖を強めていきます。

①OK:共鳴メイン⇒強い閉鎖+共鳴 ②NG:共鳴メイン⇒閉鎖は強いが共鳴が浅くなる

 声門閉鎖を強くすると、(1)共鳴腔の拡大、(2)共鳴腔の充満、どちらも不十分になりやすいので、この点を重要ポイントにして練習しましょう。

(2)声門閉鎖を強める→共鳴を増やす

 次は声門閉鎖を強めた“しっかりした地声”に共鳴を徐々に追加していく練習です。

①OK:強い閉鎖⇒深い共鳴+閉鎖 ②NG:強い閉鎖⇒共鳴は深いが閉鎖が弱くなる

 声門閉鎖を強くしたがゆえに各筋肉がガチッと固まってしまい、共鳴を増やそうとしてもあまり変化を出せないケースが多く見られます。これに関しては個人によって原因と対処法は様々ですので「今までの関連記事も復習しながら頑張ってください」とだけ申しておきます(笑)。

第12回:「喉上げ声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part2/6】
第21回:「鼻にためる」で密度のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part5/9】


共鳴はオプション?マスト?

共鳴量は個人の自由!

 音色おんしょく声色こわいろの視点で見れば共鳴の量はオプションです。”声を深くしたければその分多くの共鳴を作れば良い“のが『オプションの共鳴』の考え方です。

ただし最低限必要な共鳴量がある

 「共鳴量は自由だ」と言いましたが、実は共鳴は根本的な発声動作を完成させるためにも必要になる側面があり、例えば「鼻先に共鳴を置いておかないと高い声出ないよ?」というケースは実に多く見られます。

共鳴が無いと声がスルスルと出ない

 共鳴量の少ないドライでカジュアルなサウンドの音色を狙うにしても、共鳴を”ある程度“用意しておかなければなりません。最低限の共鳴を作る感覚が無いと、音色が乾いて硬くなり過ぎた結果、高音域へ上がる時に突っ張ったり……音程が下がったり……と根本的な発声トラブルに見舞われる可能性が出てきます。

最低限必要な“ある程度”の共鳴量とは?

 ここで必要になってくる共鳴量の“ある程度”とは、言ってみれば“少し”です。数値で表すなら最大量の10%ほどです。外から聴いていても「深い声ではないかな」という印象になるような少量です。ただ、この最低限必要になる少量の共鳴のクオリティ次第で、発声の善し悪しは大きく左右されることになります。本当に大きく変わりますよ。

 この絶対必要になる最小限の共鳴を、筆者は『マストの共鳴』と呼んでいます。


最低限必要な『マストの共鳴』

「声の密度」がキーポイント

 『マストの共鳴』の作り方は、前回に解説した共鳴量を少なく作る時とほぼ同じ要領です。少ない共鳴量を扱う場合、それを共鳴腔きょうめいくういっぱいに薄めて広げるのではなく、鼻先から順番に埋めていく感覚がコツになります。小さい共鳴腔に充満を図り、常に声の密度を高めておくことが重要です。

『マストの共鳴』は最小限の共鳴量

『マストの共鳴』は万能薬

 実は『マストの共鳴』には、今までに紹介した「喉ちんこの引き合い」「鼻に溜める」「鼻にかける」「鼻に当てる」などの発声動作の成分がまとめて含まれていて、万能薬のような役割を果たしてくれます。これら発声動作との関係と、詳しいエクササイズの解説は次回に持ち越したいと思います。


次回予告

 今回はチェストボイスでの共鳴の作り方、そして潤滑な発声動作のために最低限必要となる『マストの共鳴』について簡単に紹介しました。共鳴シリーズの第4回目、次回は『マストの共鳴』をしっかりと解説していきつつ、ミックスボイスについても触れていきたいと思います(‘ω’)ノ。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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