【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第25回:子音の圧縮や表情筋の稼働で「声を集める」【“抜ける”歌声の改善法 part7/9】

2024.07.24

力強い歌声へ! ~ 声を集める作業

 tOmozoです。今回扱うのは「声を集める」です。声が弱い、か細い、芯が無い、散った感じがする、などの”歌声が抜ける“症状の原因の1つに、”声が充分溜まる前に放出してしまっている“というものが見られます。今回は”声が足りないのなら声が溜まってから出せば良い“という発想で取り組むエクササイズを紹介します(‘ω’)ノ。
 第17回:歌声が「抜ける」原因と力強く鍛えるボイトレ9選のうち、7つ目のメニューを詳しく解説する内容になります。


チョロチョロな水流を強くするには?

 ホースから少ない水量がチョロチョロ出ているところを想像してください。ここでクイズです。

Q:少ない水量を”蛇口を回さずに“強い勢いにする方法は?

……2パターン考えられますよ(‘ω’)ノ……答えは⇓

A1:ホースの出口を指で塞いで、水が溜まったら指を離す
 と、一瞬だけ強い水流を作ることができます。

A2:ホースの先をある程度握って、出口を細く整える
 と、継続的に水流の勢いを強くすることができます。

 どちらも少ない水量を”集める“ような作業になりますが、ボイトレでも同じようなアプローチが可能です。2パターンそれぞれ見ていきましょう(‘ω’)ノ。


少ない歌声を”集める“方法2パターン

1. 子音「k」「t」「p」は圧縮してから破裂できる

 まず1つめの『A1:ホースの出口を指で塞いで、水が溜まったら指を離す』アプローチですが、子音しいんの「k」「t」「p」の発音で実行できます。音声サンプルのように、小さい「っ」を入れ、音を切りながら発音します。

①っかっか、ったった、っぱっぱ  ②か、っか、っっか、っっっかっ!

 そうすると、小さい『っ』のタイミングで声が一度遮断されて圧縮が起こります。『か、っか、っっか、っっっかっ!』のように、小さい『っ』を何個も並べるイメージを持ってみてください。遮断が長いほど次の音を破裂させるエネルギーが溜まるので、自然にパンチのある声を作ることができます。

「k」「t」「p」で声を集める

子音「g」「d」「b」は声門閉鎖がプラスされる

 子音「k」「t」「p」のそれぞれに濁点だくてん(○”)を付けた「g」「d」「b」は、“声の重さ”が自然にプラスされる発音です。前者は「無声音むせいおん」で後者は「有声音ゆうせいおん」と言います。“声が有る”と書くように、子音の発音のタイミングより先に声帯が鳴らされることで濁点が付いた発音になります。

①無声音:っか、った、っぱ ②有声音:っが、っだ、っば ③有声音をゆっくり発音

 「g」「d」「b」の発音は、以下のイラストのように『一瞬のハミング「ん」⇒声門閉鎖+「k」「t」「p」の発音』で作られます。

「g」「d」「b」で声を集める

 この練習では、ハミングを強く長くしてエネルギーを“溜めて集め”、その後の「g」「d」「b」の発音は、重たくも鋭く破裂させるように意識してください。ハミングも有声音の発音も声門閉鎖を伴いますので、自然と力強い発声練習になります。

有声音の直前のハミングを強く長く”溜める“

2. 唇をすぼめれば声が集まる

 次に『A2:ホースの先をある程度握って、出口を細く整える』パターンですが、唇を伸ばしてすぼめながら『u』で発声することで声を集める作業ができます。音声サンプルでは「唇を横に引いたu」から「唇を前にすぼめたu」を比較しています。

①唇を横に引いた『u』  ②唇を前にすぼめた『u』  ③グラデーションで

 唇をすぼめるとこのような音色になりますが、唇の内側に声を密集させて“あえてこもらせる”作業とも言えます。この作業の狙いと効果を簡単に説明していきます。

唇を伸ばすと共鳴が集まる

 一般的に、唇を縦に開き過ぎたり、横に引き過ぎると声は逃げやすくなります。唇を前にすぼめることで、特に“広がりのあるウェットな響き”である「共鳴きょうめい」を実感しやすくなります。唇を伸ばしたことによって、口腔内の容量が増えるのと、筋連動で「喉仏のどぼとけ」が下がりやすくなるためです。(共鳴を作るためのコツは他にもありますので、これだけの作業では効果に個人差が出ます)

表情筋を稼働させると声門閉鎖を助ける

 これは”唇をどんな形にするか”に関係なく、唇の周りの筋肉「口輪筋こうりんきん」を稼働させたことで発声に必要なエネルギー生成をできる、というところに意味があります。発声にかかわる筋肉は連動していますので、色々な筋肉を経過して最終的には「声門閉鎖せいもんへいさ」を助けることになります。声帯で“息が抜ける”症状になりやすい人にとってはこの側面でも効果が期待できます。(この意味では唇だけでなく他の表情筋も使うべきですが、一番動かしやすいのは口輪筋です)

 この2つの効果は、裏声の一種である「ヘッドボイス」の練習で実感しやすくなります。平均的に裏声の発声では、声門閉鎖が弱くて共鳴も散りやすい「ファルセット」になる人が多いです。ファルセットは1つの音色として積極的に使うものですが、意図しないファルセットは当然“悪”です。その反面ヘッドボイスはこの2点においてアクティブな動作が求められるので、良い練習になります。

ヘッドボイスは声を集めやすい

 自分で裏声になりやすい高さを見つけて、以下のような音色を狙って発声します。日本人にはただの『u/ウ』に聴こえると思いますが、唇を伸ばす子音しいんをくっつけて『wu/ゥウ』のつもりで発声すると、より共鳴作りに効果的です。サンプルの③のように地声からスタートすると地声での声門閉鎖のパワーを借りることができます。

①日本語の『u/ウ』 ②唇を更に伸ばして『wu/ゥウ』 ③地声から裏声にスライド

 ここでは割愛しますが、「共鳴」をしっかり作るためには他に「喉仏のどぼとけを下げる」「喉ちんこを上げる」「鼻にためる」などの作業が必要になります。これに関しては以下の関連記事をご参照ください。

第12回:「喉上げ声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part2/6】
第14回:「鼻にかかった声」の治し方を徹底解説!【歌声詰まる原因 part4/6】
第21回:「鼻にためる」で密度のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part5/9】


 いかがでしたか?“発声はバランス”ですので、こういった作業もやり過ぎると反作用が生まれる可能性があります。加減は見極めながらボイトレしてくださいね。

次回予告

 次回、第26回は(7)声量UPと、(8)意識の置き方をまとめてお届けし、このシリーズを終わりたいと思います(‘ω’)ノ。

声が抜ける発声改善トレーニング一覧
(1)声帯を閉じる筋力UP:第18回
(2)お腹に力を入れる:第19回
(3)こめかみを上げる:第19回
(4)鼻にかける:第20回
(5)鼻にためる:第21回
(6)喉ちんこの引き合い:第22回
 追加①⇒「喉ちんこの引き合い」を模型で説明:第23回
 追加②⇒倍音生成=「鼻を鳴らす」:第24回
(7)子音の圧縮/表情筋の稼働=声を集める:第25回(今回)
(8)腹式呼吸(腹圧UP+呼気圧UP)=声量UP
(9)大胆に発声作業をする

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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