【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第21回:「鼻にためる」で密度のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part5/9】

2024.06.26

力強い歌声へ! ~ 声を充満させる作業

 tOmozoです。今回扱う「鼻にためる」は筆者が提唱している言葉なので、聞いたことが無いと思いますが、いわゆる共鳴きょうめいを作る作業と思ってもらってOkです。
 歌声を充満させて密度を高めてくれるこの作業は、力強い発声を叶える条件の1つです。第17回:歌声が「抜ける」原因と力強く鍛えるボイトレ9選のうち、5つ目のメニューを詳しく解説する内容になります。

鼻にためる
鼻にためる

声が散りやすい人&他にもメリット

 「鼻にためる」は、前回の「鼻にかける」同様、“声が散る”症状に効くアイテムですが、「鼻にかける」が内側に寄せて声を集めるのに対して、「鼻にためる」は外側に広がる響きを作りながらも声を集める作業です。

 これは他にも「焦げ付いた“喉声”にならないように、油をひいて“ツルっとした”声にするような作業」「発声の重心を高く保ち、ピッチ(音程)を取りやすくする作業」「裏声発声の間接的な練習」にもなり、発声の基本を多く含んだ作業になります。(詳しくはまたの機会に。)


鼻にためるトレーニングメニュー

 まずは目指すべき発声を提示します。

「鼻にためる」と“モチャモチャ”した感じに

 このように若干鼻水が詰まったような“モチャモチャ”した感じが「鼻にためる」の感覚です。

段階1:息や声を漏らさない

 それでは「鼻にためる」ためのコツを合わせて11個紹介します(‘ω’)ノ。まずは「息や声を漏らさない」のがコツで、その息や声を「鼻腔に閉じ込める」のが次の段階にあります。更に深い声を作りたい場合のオプションとして「喉仏のどぼとけを下げる」も紹介しましょう。

(1)「tapa」

 まずは無意識にでも「tapa」と発音してみてください。この時以下のように破裂した息が前方に放出されてはいけません。これは「口から息が漏れて“声が散っている”状況」と言えます。

口から息が漏れて“声が散っている”状況

(2)あえて漏らす感覚「sa~ha~」

 次に、「ためる」を実感するためにあえて悪い例を練習します。「もらす/もれる」や「流す/流れる」といった動作と感覚になります。力なく「sa~ha~」と息を混ぜながら声を漏らしてください。

「sa~ha~」と息混じりに力なく発音

(3)「ta, pa,」「taっpaっ」

 今度は息が漏れないように、切りながら「ta, pa,」「taっpaっ」と発音します。

切りながら「ta, pa,」「taっpaっ」と発音

 この時点で先ほどの「sa~ha~」より息が漏れづらいのが実感できると思いますが、ここでもあえて漏らす練習をしておきます。「ta~pa~」と息混じりに力なく発音してみてください。

「ta~pa~」と息混じりに力なく発音

 こうならないように、もう一度「ta, pa,」「taっpaっ」をどうぞ。破裂させた息は前方ではなく口腔内に戻す要領でやるのがコツです。

(4)口からも鼻からも漏らさない

 ①「口からも鼻からも漏らさない」のセリフでサンプルのような音色を作る練習と、②「口からも鼻からも漏らす」であえて漏らす練習と、2つ繰り返してやってみてください。

①「口からも鼻からも漏らさない」 ②「口からも鼻からも漏らす」

(5)ティッシュを飛ばさない練習

 唇の前にティッシュペーパーを1枚かざして、破裂した息でティッシュが動かないように「tapa」や「口からも鼻からも漏らさない」を発音する練習も有効です。

(6)ニンニクを食べて人と話す

 結構即効性のある意識のコツです。ニンニク料理を食べた後に誰かと至近距離で会話をするところを想像してみてください。口臭が気になって相手に息を吹きかけないように我慢しながら話すと思います。

……

段階2:鼻腔に持ち上げる

 (1)~(6)で「息を漏らさない」ことは上手になっていると思います。くれぐれも「声門閉鎖せいもんへいさ」を強くして息漏れを防ぐ動作はしないでください。あとは、これを「鼻腔に閉じ込める」や「鼻腔に持ち上げる」感覚をプラスしていきます。

(7)ブレスを鼻腔に閉じ込める

 ①鼻から吸ってそのまま鼻腔にセットしてもいいし、②口から鼻腔に吸い上げてセットする感覚も有効です。ブレスを鼻腔にセットしたまま発声してみてください。口からも鼻からも息漏れさせずに”柔らかくもピタッと張り付いたような“発声ができればOKです。

①OK:柔らかくピタッと ②NG:硬すぎる ③NG:口から息漏れ ④NG:鼻から息漏れ

(8)喉ちんこを上げる

 イラストのように「喉ちんこ(軟口蓋なんこうがい)」を上げると、実際に物理的に息や声を鼻腔に閉じ込めるような形になります。

喉ちんこ(軟口蓋)を上げる
喉ちんこを上げる

 息も止まりやすくなるので「漏らさない」意識に有効ではありますが、ここではあくまで”軽く“にしておきましょう。「喉ちんこを上げる」方法については以下の記事で詳しく解説しています。
第14回:「鼻にかかった声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part4/6】

(9)鼻腔を経由させて歌う

 発声中は鼻腔を経由させる意識が必要です。経由と言っても実際に”息を鼻から漏らす発声“である「鼻に通す」は今はやらないようにしてください。あくまで響きを鼻先に密集させながら発声する要領です。

(10)くしゃみの寸前、あくびの頂点

 くしゃみをする寸前は、発声の重心が一気に鼻腔に集まります。くしゃみを思い出してこれまでの発声練習を繰り返してみてください。それから、あくびが一番深くなったタイミングは、これに加えて喉仏のどぼとけが下がって音色/声色こわいろが深めになります。これが共鳴きょうめいです。今回の「鼻にためる」充満作業と「喉仏下げ」をしっかりするほど、その存在を実感しやすくなります。

……

段階3:喉仏を下げる(オプション)

 (1)~(9)まではいわば「軽い共鳴」を作る作業だったと言えます。「深い共鳴」を作りたければ、以下のような発声をすると簡単に実現しやすくなります。

(11)「daba」

 「tapa」に濁点を付けて重たくしたバージョン。この音色が作れたなら「喉仏のどぼとけが下がっている」ということになります。

深い共鳴=「空間拡大」+「充満作業」

 喉仏を下げれば空間が広がってそれだけ深い響きになります。大きい銭湯の方が声が響くのと一緒です。でも響くための「共鳴腔きょうめいくう」を拡大できたとしても、声をただ放出するだけでは”散ってしまって“響くことはありません。なので声を響かせるために声を集めて空間に充満させる、それが今回の「鼻にためる」です。そして響きを溜めるべき最初の空間が「鼻腔びくうであり、これはマストです。これをサボると発声のバランスを崩し、色々な支障が出てきます。さらに深い共鳴にしたければ「鼻にためる」をしつつ喉仏のどぼとけ」を下げればいいのですが、これはオプションです。明るい軽めの声で良ければ、状況や程度にも寄りますが「鼻にためる」だけで充分です。

「daba」で深い共鳴
「daba」で深い共鳴

 「喉仏を下げる」方法は以下の記事にて詳しく説明しています。空間が広がった分だけ、充満させなければならない響きの量も増えますので、そこも意識して深い共鳴にチャレンジしてみてください(‘ω’)ノ。
第12回:「喉上げ声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part2/6】


次回予告

 次回、第22回は“声のハリ”や“声のツヤ”を作ることができる「喉ちんこの引き合い」をお届けします。重要回です(‘ω’)ノ。

声が抜ける発声改善トレーニング一覧
(1)声帯を閉じる筋力UP:第18回
(2)お腹に力を入れる:第19回
(3)こめかみを上げる:第19回
(4)鼻にかける:第20回
(5)鼻にためる:第21回(今回)
(6)喉ちんこの引き合い:第22回に予定
(7)子音の圧縮/表情筋の稼働=声を集める
(8)腹式呼吸(腹圧UP+呼気圧UP)=声量UP
(9)大胆に発声作業をする

 

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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