【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第19回:声は下から支え、上から吊る【“抜ける”歌声の改善法 part2・3/9】

2024.06.12

~力強い歌声へ!~声を支える作業

 tOmozoです。今回はボイトレで良く耳にする「声の支え/声を支える」について理解し、そのコツを掴みましょう(‘ω’)ノ。一般的には“下から支える”作業の方が声高こわだかに言われますが、“上から吊り上げる”作業も紹介します。土台となるパワーと安定感をくれるこの作業は、力強い発声を叶える条件の1つです。第17回:歌声が「抜ける」原因と力強く鍛えるボイトレ9選のうち、2つ目と3つ目のメニューを詳しく解説する内容になります。

上下から声を挟む・包む

 まずイラストのように、発した声の輪郭が声帯から口腔こうくうの高さのラインに流れているイメージを持ってみてください。“下から支える”は「お腹に力を入れる」ことで、発声の土台を作る作業です。“上から吊り上げる”は「こめかみを上げる」ことで、発声を持ち上げるような作業です。
 この2つの作業を合わせて、筆者は良く”声をサンドイッチして“という風に表現します。

上下から声を挟む・包む1
上下から声を挟む・包む

誰にでも必要となる作業

 これは基本的にはどんな状況の人にも、どんな発声の時にも必要になると思っていてOKな作業です。それぞれ詳しく見ていきましょう。


1. 下から支える=腹圧を用意

 「お腹に入れる力」のことを腹圧ふくあつと言います。シンプルに言うと腹圧を上げることによって声量を上げることができます。腹圧のかけ方を詳しくみていきましょう。

Q1. いつ腹圧をかける?

A1. ブレスのタイミングから発声中はずっと

 ブレスを多めに取り込んで腹部・胸部が膨らんだら、張りが出て自然と腹圧がかかり始めます。それを利用し、発声中はずっと力を入れていてください。例えば“表現の強弱に合わせてかけたりかけなかったり”するのは基本的にはやめましょう。発声のバランスや安定感にムラができる可能性が高くなります。

Q2. どれくらい腹圧をかける?

A2. 実際に発声しながら調整する

 どれくらいの強さの腹圧が必要になるかは厳密に数値化できるものではないので、自分で判断していく必要があります。声量を上げたい人は当然強い腹圧を用意すべきだし、もともと声が大きい人や声量を出せるようになった人もそれを支えるための腹圧が結構必要になります。“優しい音色の発声にも腹圧は結構必要”と思っていた方が良いです。優しい音色を小さく発声するなら腹圧は弱くていいですが、実際の歌では優しい音色でもしっかりした声量で出せる必要があるからです。
 腹圧の強さを実験的に変え、発声への影響をチェックしながら練習しましょう。

 この腹圧の強さのコントロールですが、次のように力を入れる箇所を増減させることで細かい調整が可能になります。

Q3. どこに腹圧をかける?

A3. 4つの位置を意識してみましょう

 イラストのように腹圧をかける位置を「①へそ、②みぞおち、③むね、④くび」と分けます。声帯に近い方に腹圧をかけるほど、声帯を閉じる作業である声門閉鎖せいもんへいさに直接的な影響を与えます。この4か所を実験しながら発声への影響をチェックしてみてください。①は土台として必ず必要な部分ですので常に力を入れていてOKです。

お腹に力を入れる
お腹に力を入れる

 この作業は前回の、第18回:声帯を閉じる筋力UP【“抜ける“歌声の改善法 part1/9】に直接影響する部分になります。


2. 上から吊り上げる=こめかみを上げる

 次は“声を上から吊り上げる”作業である「こめかみを上げる」を見ていきましょう。

こめかみを上げる
こめかみを上げる

 先述の腹圧が抜けて”土台が崩れると発声も崩れて落ちてしまう“のはイメージしやすいと思います。この“上から吊る”作業は、例えば「土台が抜け落ちたとしても、上から吊り上げることで声が落ちるのを軽減してくれる」ような働きや、「発声の伸びを上方に作る」ような働きがあります。

上下から声を挟む・包む2
腹圧が抜けると?

動作は簡単

順番にやってみてください。

(1)目と眉毛を離して驚いたような表情を作る

(2)真上だけでなく、後方に引くようにもする

(3)基本的には発声中ずっとやっていてOK

(4)音域に合わせて高音ほど上げてみる

 この作業は副作用があまりないので、思い切って“メリメリ”上げて歌ってみてください(‘ω’)ノ。……結構即効性のあるアイテムですが効果のほどはどうでしょうか?……なぜ斜め後ろに引っ張るのかと言えば、だいたいの人が“声は前に出すもの”と思っていて、色々な動作の重心が自然と前方に傾きやすくなることから、その反対方向にバランスを取るためです。

上下から声を挟む・包む3
こめかみはなぜ斜め後ろに?

この作業が持つ色々な効果を簡単に一覧にして終わりとします。

「こめかみ上げ」がもたらす効果いろいろ

①腹圧だけに任せずに「エネルギー生成」を分担してくれる。
②高音が出やすくなったり、狙いやすくなる。
③”声のツヤ“である「倍音ばいおん」作りを手助けしてくれる。
④”声のハリ“や安定感を作る作業を手助けしてくれる。
⑤広がりのあるウェットな響きの「共鳴きょうめい」作りを手助けしてくれる。

なぜこれらの効果が期待できるかは、以下で一部を解説していますのでご覧ください(‘ω’)ノ。
第15回:重要回「声が張り付く」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part5/6】


次回予告

 次回、第20回は“声の粘り気”を作ることができる「鼻にかける」をお届けします(‘ω’)ノ。

声が抜ける発声改善トレーニング一覧
(1)声帯を閉じる筋力UP:第18回
(2)お腹に力を入れる:第19回(今回)
(3)こめかみを上げる:第19回(今回)
(4)鼻にかける:第20回に予定
(5)鼻にためる:第21回に予定
(6)喉ちんこの引き合い:第22回に予定
(7)子音の圧縮/表情筋の稼働=声を集める
(8)腹式呼吸(腹圧UP+呼気圧UP)=声量UP
(9)大胆に発声作業をする

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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