
【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
目次
第4・5・6・7回の要点
tOmozoです。第4回、第5回、第6回、第7回と「歌い方」のテクニックを動画サンプルとともに紹介してきました。part1では「音の高さ/音高」、part2では「音の質感/声色」、part3では「音の大きさ/音量」、part4では「音の波/グルーヴ」に変化を加えることで生まれる歌の表情の違いを説明しました。それぞれの練習方法などはまた後日詳しく徹底解説しますので、わからないところがあってもご安心ください(‘ω’)ノ。
1.音高変化による「歌い方」一覧(第4回)
⑴「しゃくり」
⑵「つまみ※」
⑶「フォール」
⑷「ライズ※」
⑸「先打ち※」
⑹「ビブラート」
⑺「フェイク/こぶし」
2.音色変化による「歌い方」の種類(第5回)
⑴「ウィスパーボイス、チェストボイス/吐息量」
⑵「声色の明るい・暗い、細い・太い/喉頭位置」
⑶「ファルセット、ヘッドボイス、ミックスボイス/声区」
⑷「ネイザル、トゥワング/鼻音量」
⑸「ハスキーボイス、シルキーボイス ※/もともとの声色」
⑹「擬似ハスキー、がなり/ノイズ量」
⑺「エッジボイス」
⑻「裏返し/ヒーカップ」
⑼「ブレス音の活用(4つ)」
3.音量変化による「歌い方」の種類(第6回)
⑴「構成ごとの強弱」
⑵「フレーズごとの強弱」
⑶「音符ごとの強弱」
⑷「クレッシェンド、デクレッシェンド」
4.グルーヴによる「歌い方」の種類(第7回)
⑴「フレージング」
⑵「アーティキュレーション」
⑶「2個イチ※」
⑷「文節区切り」
⑸「リズムによるグルーヴ」
(※印は筆者が使っている呼称)
「歌い方」の種類をまとめて紹介!part5/5
今回でこのシリーズは最後です。part5の今日は「リズム変化」、「テンポ変化」、「テクニック応用表現」をまとめて紹介します(‘ω’)ノ。
5.リズム変化による「歌い方」の種類
⑴「シンコペーション」
「シンコペーション」とは「強拍(表拍)ではなくて弱拍(裏拍)にアクセントをおくリズムの取り方」のこと。「表拍にある音符を、裏拍の位置に移動したようなリズム」を指すことが多い。サンプル動画のパターン①のように一般的には「前倒し」することが多い(「食う」とも言う)が、パターン②のように「後ろ倒し」もあり得る。①と②が8分音符のシンコペーションなのに対して、パターン③は16分音符での「食う」リズム。躍動感、興奮感、焦燥感、切迫感などが生まれる。前回、『基本的にはリズム構造自体を変えて歌うことはない(※注1)』と説明したが、シンコペーションは歌い手にある程度自由に許されたリズム表現のひとつ。
(※注1)「リズム構造を変える」とは「8ビートを16ビートにしたり、シャッフルビートにする」などで、これはバンドメンバーに対して相談が必要になる範囲の高度なアレンジ。カラオケの場合は、リズム構造はもちろん変更できないので音源のビートに従って歌う必要があるが、シンコペーションに関してはだいたいどんな曲でも実行可能となる。
6.速度変化による「歌い方」の種類
⑴「タメ」と「走り」
ひとつ前で説明した「シンコペーション」は、ビートの上に明確にハメたほうがカッコいいリズム表現だが、「タメ」と「走り」に関してはグラデーションのようにぼやけたリズム変化のことも含めて指す。実際にはこれはリズムというよりは「音楽の速度/テンポ」を変化させていることになる。リズムを「カチッとハメない」ので「崩す歌い方」とも呼ばれる。サンプル動画のパターン①のように、カラオケの場合など、楽器隊が一定速度のテンポ=「インテンポ」のままで、歌い手だけがテンポ変化させることもできるし、パターン②のように、バンドメンバー全員でテンポ変化を合わせることもできる。
⑵「フェルマータ」
サンプル動画内の「(2)フェルマータ」のように、一部分だけ伸ばしてタメるような表現は「フェルマータ」という名前が付いている(誕生日の曲もそうですね)。
7.テクニック応用表現編!
⑴「モノや動きも表現」
「表現」と聞くと、まず「感情表現」を思い浮かべることが多いが、感情以外にも表現できるものがあることをお忘れなく。まず《揺れる光が~》は、ビブラートで実際に「揺れ」を作れば良いし、「光/hikari」は「hとk」の子音の息成分を鋭く搾りながら出すことで、光線がスッと差し込む様子を演出できる。《風と流れる~》は、ウィスパーボイスの吐息で「風」を実際に作れば良いし、「流れる」様子はなめらかな音程曲線を描けば良い。これらに必ずしも感情を含める必要はなく、一般的に「風景描写」と言う。(サンプル動画内では(1)「風景描写」にあたる)
⑵「歌詞なし声だけで感情表現」
歌詞がなくても、歌い方テクニックだけでいろいろな感情表現をすることもできる。Let’sチャレンジ!
サンプル動画内の(2)感情表現では、以下をご紹介。
「①喜、②怒、③哀、④楽」
「⑤楽しく笑う、⑥鼻で笑う、⑦呆れる」
「⑧悲しく泣く、⑨泣き笑いする」
……
はい、これで『「歌い方」をまとめて紹介!シリーズ』はひと段落となります(‘ω’)ノ。
「歌い方」のテクニックを練習するにあたって
歌唱テクニックはファッションや料理と同じ
これまで紹介して来た歌い方のテクニックは、「声、ピッチ、リズムの形や色を変化させる」ことで「歌の表情の違い」を作ります。なのでその「違いの差」があまりないと、聴き手には伝わりづらくなります。前髪を5mm切ったくらいだと、それに気付く人と気付かない人がいるのと一緒です。歌い方を今までと「違う」レベルまで変化させるためには、それ相応の「発声コントロール、音感、リズム感」が必要になります。まずはしっかりと色濃く違いを作れるようにトレーニングしましょう。
派手な味付けができるようになったら、地味な味付けもできるようになっているはずです。その辺はファッションと同じで、試してみて変だったら「やっぱりやめた」でOKなので、いろいろなアイテムをいろいろな濃さで使ってみてください。歌唱テクニックで自分の好みの濃さが出せるようになると楽しくなってきますよ。

「表現」の「表と裏」
「表現」とは「表に現れる」ところまで完成させてようやく、聴き手の耳に届けることができるものです。「表」があれば「裏」があります。
この場合の「裏」とは①「理論」と②「感覚」と③「感性/センス」であり、これらはまだ脳内、つまり「脳裏」に収まっている段階のものです。①「理論」は「このフレーズならこの歌い方が定番」などの知識。②「感覚」はリズムやピッチの微細なズレがわかるかどうか。③「感性/センス」は、音楽をどう感じたのか、それを受けてどういう歌い方にするのか、リズムやピッチのズレを味として表現する感覚があるかどうか。です。
そしてこれらを実際に歌唱テクニックの形にして「表」にアウトプットするのが④「技術/スキル」です。ここでは「発声コントロール」のことですね。「頭でわかること」と、それを「身体で実現できるかどうか」は別の問題になります。歌で表現をするためには、これらが表裏一体のセットで必要になります。

次回以降予定
ということで「感性/センス」を磨く方法なども後ほど記事にしますが、次回以降からは「技術/スキル」のうち「発声コントロール」のトレーニング、つまりボイトレに入っていこうと思います(‘ω’)ノ。次回はこれまでの流れをまとめる回とし、次々回からボイトレについて詳しく書いていきますのでお楽しみに。
本コラムの執筆者

tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
本コラムの記事一覧
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第1回 連載スタートにあたって
2024.02.7
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第2回「理論と感覚」の「考え方」
2024.02.14
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第3回【歌で大事なのは?】理論vs感覚~感覚が理論を越えるとき~
2024.02.21
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第4回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part1/5 -音高変化編-
2024.02.28
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第5回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part2/5 -音色変化編-
2024.03.6
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第6回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part3/5 -音量・グルーヴ変化編-
2024.03.13
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第7回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part4/5 -グルーヴ変化編-
2024.03.20
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第8回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part5/5 -リズムとテンポ変化、応用表現編-
2024.03.27
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第9回 これまでの連載内容まとめと補足記事紹介〜本連載の概要、歌における理論/感覚の考え方、歌い方の種類を紹介〜
2024.04.3
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第10回 歌声が詰まる原因6パターン【ボイトレ】
2024.04.10
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第11回:「喉詰め声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part1/6】
2024.04.17
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第12回:「喉上げ声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part2/6】
2024.04.24
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第13回:「息・鼻が詰まる感覚」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part3/6】
2024.05.1
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第14回:「鼻にかかった声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part4/6】
2024.05.8
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第15回:重要回「声が張り付く」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part5/6】
2024.05.15
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第16回:子音の発音は味方にも敵にもなる【歌声が詰まる原因 part6/6】
2024.05.22
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第17回:歌声が「抜ける」原因と力強く鍛えるボイトレ9選
2024.05.29
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第18回:声帯を閉じる筋力UP【“抜ける“歌声の改善法 part1/9】
2024.06.5
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第19回:声は下から支え、上から吊る【“抜ける”歌声の改善法 part2・3/9】
2024.06.12
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第20回:「鼻にかける」で粘り気のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part4/9】
2024.06.19
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第21回:「鼻にためる」で密度のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part5/9】
2024.06.26
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第22回:重要回「喉ちんこの引き合い」でツヤのある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part6/9】
2024.07.3
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第23回:-続-「喉ちんこの引き合い」を模型で説明【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅱ/9】
2024.07.10
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第24回:-続-「喉ちんこの引き合い」/倍音生成=「鼻を鳴らす」【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅲ/9】
2024.07.17
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第25回:子音の圧縮や表情筋の稼働で「声を集める」【“抜ける”歌声の改善法 part7/9】
2024.07.24
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第26回:声量アップに腹式呼吸!【“抜ける”歌声の改善法 part8&9 /9】
2024.07.31
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第27回:2つの声の響き「共鳴」と「倍音」をマスター!
2024.08.7
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第28回:「共鳴」とは?基本の作り方を解説!
2024.08.14
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第29回:「共鳴」をヘッドボイスで極める!共鳴量による感覚の違いを可視化
2024.08.21
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第30回:「共鳴」をチェストボイスに応用!最低限必要な『マストの共鳴』とは?
2024.08.28
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第31回:『マストの共鳴』でミックスボイスの下地が整う!「鼻に○○る」などとの関係も
2024.09.4
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第32回:ファルセットやウィスパーボイス作りにも「共鳴」の響きが必要!
2024.09.11
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第33回:声の「倍音」は作れる!声門閉鎖の上位互換「喉ちんこの引き合い」を解説
2024.09.18
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第34回:声門閉鎖だけでは「倍音」は作れない……「喉ちんこの引き合い」で倍音生成ができる証明!
2024.09.25
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第35回:息と声帯と倍音の関係を「ホームの白線の外側に立つ」で考える
2024.10.2
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第36回:“弱く閉じる? 強く開く?” 声門閉鎖の「位置と強度」で完全無欠なコントロールを!
2024.10.9
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第37回:呼気圧の「量と速度」で完全無欠な声帯コントロールを!
2024.10.16
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第38回:ミックスボイスへと繋がる!「共鳴」と「倍音」まとめ
2024.10.23
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第39回:料理に例える歌声の“成分”まとめ!声区の作り分けに向けて
2024.10.30
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第40回:○○ボイス〜「声区」発声の分類を一挙紹介!
2024.11.6
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第41回:ヘッドボイスとは“共鳴声”である【解説編】
2024.11.13
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第42回:ヘッドボイスの練習メニュー【実践編】
2024.11.20
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第43回:ファルセット・ウィスパーとは“息混ぜ声”である【解説編】
2024.11.27
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第44回:息混ぜ声①ウィスパーボイスの練習メニュー【実践編】
2024.12.4
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第45回:息混ぜ声②ファルセットの練習メニュー【実践編】
2024.12.11
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第46回:チェストボイスとは“倍音声”である【解説編】
2024.12.18
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第47回:チェストボイスの練習メニュー【実践編】
2024.12.25
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第48回:チェストボイスは「頬骨鳴らし」で音域拡大!【解説編】
2025.01.8
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第49回:「鎖骨上のせり出し」でチェストボイスを最短ルートで習得!【実践編】
2025.01.15
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第50回:諸悪の根源”悪い地声“の種類と対処法まとめ~ミックスボイスへ~
2025.01.22
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第51回:ミックスボイス習得 〜「鼻音のライン取り」にトライ!
2025.01.29
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第52回:鼻音を“敵”にしない!「軟口蓋の位置と張度問題」
2025.02.5
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第53回:鼻音で天然ミックスボイス!~軟口蓋からの筋連動のお話~
2025.02.12
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第54回:筋肉は“緊張”するもの~発声における脱力のアプローチいろいろ~
2025.02.19
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第55回:「声の裏返り」の段階的対処法~ソフトミックスの完成へ~
2025.02.26
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第56回:ミックスボイスとは?“巧い歌”より“美味い歌”~用語と意識を整理しよう!の回~
2025.03.5
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第57回:ミックスボイスとは?ハード?ソフト?…『発声マップ』でその全体像を解説!
2025.03.12
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第58回:『強いけど裏声にしかならない…』ハードミックスの完成へ!
2025.03.19
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第59回:「ネイザル」と「トゥワング」全部説明できます。~ハードミックスの完成へ①~
2025.03.26