【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
目次
考え方を進めます
tOmozoです。連載第2回目のこの記事では、連載タイトルにもある「理論・感覚・考え方」のとある側面についてお話ししてみたいと思います。しばらくは「考え方」を進めていく予定です。たぶん長くなりますよ。そしていつになったらボイトレに入ることやら……(笑)。
歌の習得のムズかしさ
音楽の中でも歌ってのは一番「感覚」を掴むのが難しい分野です。なんでかって答えは簡単「発声しているときの身体の様子を目で確認することがほとんどできないから」です。例えばピアノは手で弾くから、そのフォームは外から見ることができますよね。歌の場合は特に目に見えない部分が多く、頭の中で各器官の動きを想像したり、出てくる歌声で判断して調整しないとなりません。
そして楽器の習得とは違い、歌は「音楽理論」を知らなくとも歌うことができてしまう代わりに、身体に関する理論「発声理論」を習得するのは一番難しいと言えます。ちゃんと理解しようとすればするほど医療用語のような難しい言葉ばっかり出てきますからね。_(:3 」∠)_
歌と理論、歌と感覚
歌というものは、実は理論を使わずに感覚だけで成し遂げることができる唯一の音楽分野です。ギターやピアノは触るだけで、音名やコードネームなどの音楽の構造部分に必ず触れることになります。その反面、歌の場合は楽譜は読めなくても良いし、自分が今出している音名が何なのか知らなくても歌えてしまいます。自分が納得のいく歌声さえ出せていれば何も気にならないで気持ち良く歌える場合が多いのです。
でも!……それをしても許されるのは、いわゆる「天才」だけです。何のテコ入れをしなくても音色も音程もリズムも表現も完璧ならば!感覚だけで歌ってもOKなのです。ということでほとんどの人が「どうすれば上手くなるのか?」という問いにぶつかるわけですけど、その「どうすれば?」に答えを探す思考そのものが「理論」の始まりとなります。
歌の場合は「発声で裏返る失敗をした ⇒ 共鳴を減らす/呼気で馴染ませる」とか「暖かい声色を出したい ⇒ 鼻音を足す/呼気を暖める」とか「ここの音程が取れない ⇒ この音程の度数は3度で、4度寄りにズレているから下方修正をする」など、「この感覚のとき ⇒ 理論ではこういう状態」、「この理論を使えば ⇒ この感覚になる」というふうに、理論と感覚をリンクさせる作業をしていきます。この作業の積み重ねが、失敗を減らして成功の確率を上げる「再現性」を鍛えてくれます。上手くなりたければ「どうすれば成功するのか/どういう条件なら失敗してしまうのか」を考え、その答えを理解して、感覚で実行する、この作業が必須です。言わずもがな理論と感覚、どちらも必要になります。そして、こうして理論武装をし、感覚を磨き上げて一流になった人は「秀才」と呼ばれることになります。
理論vs感覚?
では理論と感覚、どちらも必要だけど、どちらが大事なのでしょうか?まず、理論と感覚は相反するものとして扱う場面があります。例えば歌われた歌に対して「理論的に整理され緻密に作り込まれた歌」とか「直感に優れていて表情変化に富んだ歌」という判断をする時などです。この場合は「どちらが大事?」という話ではなくて「赤なのか青なのか?」、「太陽なのか月なのか?」みたいな、あくまで「性格がどちら寄りなのか?」の話です。これと以下の場面での話はまた別になります。以下の2つの例を比べてみましょう。
⑴ 理論が感覚を助けてくれる話
例えば「ド~ミ」は正式には「3度音程」と数えますが、今ここでは「3.0cm」と置き換えて考えましょう。「ド」に対して「ミ」をハモらせる練習の場面で、本人は正しい「ミ」を出しているつもりでも、実際には「2.7cm」と低くズレていた場合、正しいミの高さに矯正するには0.3cm上げる必要があります。この「本人のつもり」が「感覚」であり、「0.3cm」が「理論」です。
この場面ではどちらが「正解」を持っているのかは一目瞭然です。錯覚や錯視という現象がありますが、人の感覚とは本当にいい加減なもので、感覚が細かく成長するまではこのような勘違いは普通に起こり得ます。この場合「理論は感覚を正しく導いてくれるもの」と思ってください。
はい、理論は大事です、理論の勝ちー(笑)……でも!
⑵ 感覚が理論を飛び越えるとき
でも、待ってください。第1回で「僕は背面からも側面からも語る」と言いましたね?(笑)。こういう場面ではどうでしょうか?……例えば歌詞が「悲しいよ~辛いよ~」だった場合。この「悲しい苦しい感情」を実直に表現するならば、実は音程は低めに歌ったほうが「悲しく辛そうに」それらしく聴こえる場合があります(※1)。雰囲気が出ていてこれに感動できる人がいるならば、結果として正しい音程より低くても問題ない、むしろそのほうが良い感じじゃない?という考え方です。
「えー、音程ズレててもいいの?…」と感じると思いますが、「極論OK」です。例えばライブで歌唱中に、お客さんを煽るために歌詞の部分を「歌わずに叫ぶ」演出があるじゃないですか?……勘の良い人はこの話で分かりましたね?(ΦωΦ)フフフ……
(※1)「場合がある」と言うのには小難しい理由があるので小窓書きにしますが、これは聴き手が持っている、ある特性に関係します。それは聴き手が「文系脳」なのか「理系脳」なのか?です。これについても次回触れたいと思います。「感じ方は人それぞれ」になる理由のひとつになります。
今日はここまでにしましょう。次回、連載の第3回は以下のトピックに触れながら「感覚は理論を飛び越えた存在になる」ことについて詳しく説明していきます。
次回のトピック
・「低めの音程」を図解で3つ紹介。
・「文系脳/理系脳」?
・「音程ズラし」は「歌い方の工夫」
・「歌い方の工夫」こそ「表現」
・「発声センス」より「音楽センス」
・「感覚は理論を飛び越える」
第2回の要点・結論
・歌は感覚だけでも歌えないことはない。
・「天才」でなければ「秀才」を目指そう。
・天才以外には理論と感覚、どちらも必要。
・「理論と感覚のリンク」が再現性を上げる。
・「いい加減な感覚」は「理論」が矯正してくれる。
・「感覚が理論を飛び越える?」結論は次回。
次回予告
・第3回「感覚は理論を飛び越える」を予定。
本コラムの執筆者
tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
本コラムの記事一覧
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第1回 連載スタートにあたって
2024.02.7
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第2回「理論と感覚」の「考え方」
2024.02.14
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第3回【歌で大事なのは?】理論vs感覚~感覚が理論を越えるとき~
2024.02.21
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第4回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part1/5 -音高変化編-
2024.02.28
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第5回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part2/5 -音色変化編-
2024.03.6
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第6回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part3/5 -音量・グルーヴ変化編-
2024.03.13
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第7回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part4/5 -グルーヴ変化編-
2024.03.20
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第8回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part5/5 -リズムとテンポ変化、応用表現編-
2024.03.27
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第9回 これまでの連載内容まとめと補足記事紹介〜本連載の概要、歌における理論/感覚の考え方、歌い方の種類を紹介〜
2024.04.3
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第10回 歌声が詰まる原因6パターン【ボイトレ】
2024.04.10
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第11回:「喉詰め声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part1/6】
2024.04.17
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第12回:「喉上げ声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part2/6】
2024.04.24
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第13回:「息・鼻が詰まる感覚」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part3/6】
2024.05.1
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第14回:「鼻にかかった声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part4/6】
2024.05.8
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第15回:重要回「声が張り付く」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part5/6】
2024.05.15
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第16回:子音の発音は味方にも敵にもなる【歌声が詰まる原因 part6/6】
2024.05.22
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第17回:歌声が「抜ける」原因と力強く鍛えるボイトレ9選
2024.05.29
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第18回:声帯を閉じる筋力UP【“抜ける“歌声の改善法 part1/9】
2024.06.5
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第19回:声は下から支え、上から吊る【“抜ける”歌声の改善法 part2・3/9】
2024.06.12
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第20回:「鼻にかける」で粘り気のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part4/9】
2024.06.19
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第21回:「鼻にためる」で密度のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part5/9】
2024.06.26
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第22回:重要回「喉ちんこの引き合い」でツヤのある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part6/9】
2024.07.3
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第23回:-続-「喉ちんこの引き合い」を模型で説明【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅱ/9】
2024.07.10
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第24回:-続-「喉ちんこの引き合い」/倍音生成=「鼻を鳴らす」【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅲ/9】
2024.07.17
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第25回:子音の圧縮や表情筋の稼働で「声を集める」【“抜ける”歌声の改善法 part7/9】
2024.07.24
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第26回:声量アップに腹式呼吸!【“抜ける”歌声の改善法 part8&9 /9】
2024.07.31
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第27回:2つの声の響き「共鳴」と「倍音」をマスター!
2024.08.7
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第28回:「共鳴」とは?基本の作り方を解説!
2024.08.14
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第29回:「共鳴」をヘッドボイスで極める!共鳴量による感覚の違いを可視化
2024.08.21
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第30回:「共鳴」をチェストボイスに応用!最低限必要な『マストの共鳴』とは?
2024.08.28
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第31回:『マストの共鳴』でミックスボイスの下地が整う!「鼻に○○る」などとの関係も
2024.09.4
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第32回:ファルセットやウィスパーボイス作りにも「共鳴」の響きが必要!
2024.09.11
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第33回:声の「倍音」は作れる!声門閉鎖の上位互換「喉ちんこの引き合い」を解説
2024.09.18
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第34回:声門閉鎖だけでは「倍音」は作れない……「喉ちんこの引き合い」で倍音生成ができる証明!
2024.09.25
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第35回:息と声帯と倍音の関係を「ホームの白線の外側に立つ」で考える
2024.10.2
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第36回:“弱く閉じる? 強く開く?” 声門閉鎖の「位置と強度」で完全無欠なコントロールを!
2024.10.9
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第37回:呼気圧の「量と速度」で完全無欠な声帯コントロールを!
2024.10.16
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第38回:ミックスボイスへと繋がる!「共鳴」と「倍音」まとめ
2024.10.23
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第39回:料理に例える歌声の“成分”まとめ!声区の作り分けに向けて
2024.10.30
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第40回:○○ボイス〜「声区」発声の分類を一挙紹介!
2024.11.6
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第41回:ヘッドボイスとは“共鳴声”である【解説編】
2024.11.13
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第42回:ヘッドボイスの練習メニュー【実践編】
2024.11.20