【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第49回:「鎖骨上のせり出し」でチェストボイスを最短ルートで習得!【実践編】

2025.01.15

運が良ければ上手く行く地声調整法

 tOmozoです。「声区シリーズ」、今回もチェストボイスでの換声点かんせいてんを想定した練習メニュー【実践編】となります(‘ω’)ノ。

 前々回から、”丁寧なチェストボイスの組み立て方“として(7)まで紹介してきました。

基本のアイテムと組立順序

(1)「マストの共鳴」の用意
(2)「ウィスパー」で声帯を離し脱力
(3)「共鳴」と「エッジ」で呼気バランス調整
(4)「鼻音」or「吸気」を作って準備完了
(5)「喉ちんこの引き合い」で倍音生成
(6)「喉仏下げ」で音色・バランス調整

音域拡大と追加調整

(7)「腹圧」と「重心上げ」をしつつ高音域へ

 上記に続いて今回は、アクティブな状態を維持したまま力強いチェストボイスを目指す方法で、「鎖骨さこつ上のせり出し」という作業です。筆者が”悪い地声“とも呼んでいる「喉詰のどづめ声」や「張り上げ声」を防ぎながらパワーアップを図ります。実はノンアクティブな発声から丁寧に組み立てるよりも、手っ取り早く上手くいく可能性を秘めていますので、この機会にトライしてみてください(‘ω’)ノ。


“悪い地声”は毒をもって毒を制す

(8)「鎖骨上のせり出し」とは?

 まず「鎖骨上さこつうえのせり出し」の発声感覚は以下のようなものです。

エクササイズ1

①「鎖骨上のせり出し」の基本発声で各母音

 広い声道確保を図りつつ、声門閉鎖圧せいもんへいさあつ呼気圧こきあつを強めにセットし、過剰閉鎖かじょうへいさを防ぐために若干のウィスパーの感覚も添える、ような形になります。テニス選手が打球時に発する「ん”-!」に似ていますかね。

【鎖骨上のせり出し】
【鎖骨上のせり出し】

エクササイズ2

 これを発声中はずっと同じバランスと緊張感で用意します。次は出しやすい高さで各母音を伸ばします。

①「鎖骨上のせり出し」をしつつキープ、を各母音で

 これは“悪い地声”に対して「毒をもって毒を制す」ようなアプローチと言えます。声門閉鎖圧や呼気圧など、一見問題を起こしそうな発声アイテムを積極的に用意します。これらの材料を、”隙間なく100%キッチリ箱に詰めて用意する“要領がコツになります。成分量の分配の感覚は大体以下のようなバランスです。

声門閉鎖圧:40%
呼気圧:30%
喉仏下げ:20%

ウィスパー成分:10%

発声バランスは2段弁当箱

 ”歌声を入れる箱に隙間があると発声トラブルのリスクが上がる“わけですが、なぜかと言えばその余白の分だけいずれかの発声アイテムが出しゃばり、全体のバランスを崩壊させかねないからです。お弁当箱や引っ越しの荷詰めと一緒です。
 その出しゃばったアイテムが、声門閉鎖圧や呼気圧などの”悪い地声“の原因になり得るものだとトラブルが起こるので、特にパワーアップ系の材料はキッチリ分量を決めて用意してしまうと暴れづらくらります。これを整えるのが「鎖骨上のせり出し」になります。

【発声材料のゾーン分け:2段弁当箱】

 以前にも「発声材料のゾーン分け」を紹介しましたが、イラストのように2段弁当をイメージし、下段で”悪い地声“になり得る材料をまとめて扱います。

 上段には裏声発声の材料や、音色おんしょく声色こわいろを調整するための材料が集まります。上段の材料もそれぞれが一定量無いと潤滑な発声にならないため必要になるものです。ですが、上段の箱の中身は配分量が変わっても音色が変わるだけという側面が強く、これ自体によって重大な発声トラブルが起こるということはあまりありません。

エクササイズ3

 「鎖骨上のせり出し」を用意したら、いきなり換声点付近の音高を狙ってみましょう。発声のりきみは特に”高く強く長く発声しなければならない“条件で無意識的に起こります。なのでここでは”高くて強いけどすぐ脱力できる“条件を用意して練習します。エクササイズ1のようにすぐエネルギーを解放してしまえば、ある程度抵抗なく高音にとりかかることができるはずです。

①高音当てたら脱力しつつフォール、を各母音で

重心は低くより高く、成分は地声より裏声から

 これでもまだ身体的抵抗や精神的抵抗を感じるようであれば、”悪い地声“成分をいじる「鎖骨上のせり出し」よりもまず、前回解説した「頬骨ほおぼね鳴らし&こめかみ上げ」による「発声の重心上げ」をしてあげてください。この作業が誘発できる「倍音ばいおんの響き」は”良い地声“の成分です。これは”お弁当箱の上段ごと持ち上げる“ようなです。
 それでもまだ上手く行かないようなら、「重心上げ」よりも先に「裏声成分の材料作り」を完了させてください。ヘッドボイスで「共鳴きょうめいの響き」が、ファルセットで「吐息成分」が用意できることは過去の連載で解説してきました。裏声成分は”悪い地声“の中和剤になってくれます。これは”お弁当箱の上段の中身を用意する“ような作業です。

 ここでやはり丁寧な組み立てが必要になってくるわけですが、上記のように「重心は低くより高く、成分は地声より裏声から」整えるのがボイトレと基本と言えましょう。

 そして最後に重要になるのが「鼻音びおん生成」です。これは”お弁当箱の上段と下段を繋ぐゴムバンド“のような作業です。ここにまだ大きな!カギが隠れていますので、詳しい解説の時までお待ちください。

エクササイズ4

 エクササイズ3が上手く行った前提で進めます。最後に「鎖骨上のせり出し」を意識しつつ今度は”歌う“練習をしていきます。練習フレーズは5つ用意しました。

①スライド ②2音 ③3音 ④5音 ⑤2音ロングトーン

 チェストボイスで音域を上げていくといろいろな問題が生じやすくなります。ではこれら”弁当箱下段の材料“のいずれかがバランス過多になった時に、それぞれどういった”悪い地声“になるのかをリストアップして今回は終わりたいと思います。詳しい対処法については次回お届けします(‘ω’)ノ。


次回予告

”悪い地声“の種類と対処法まとめ

(1)喉ちんこの引き合い不足=声の裏返り
(2)過剰な声門閉鎖圧=喉詰め声
(3)過剰な呼気圧=張り上げ声
(4)一方的な喉ちんこ上げ=鼻が詰まる感じ

 次回、第50回でお会いしましょう(‘ω’)ノ。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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