【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第46回:チェストボイスとは“倍音声”である【解説編】

2024.12.18

チェストは倍音で鳴らすもの

 tOmozoです。「声区せいくシリーズ」は3つめの「チェストボイス」に突入していきます。“地声らしい地声”として分類される声区です。しかし“ただの地声”と一言で片づけてしまうといろいろな問題が起こりやすいのがこのチェスト(ボイス)です。今回は主に”地声の作り方“に対する認識を変えてもらうことを目的とした【解説編】になります(‘ω’)ノ。

【チェストボイスのイメージ】
【チェストボイスのイメージ】


強い地声=強い声門閉鎖は危険性アリ

 「声帯せいたい」を閉じる動作である「声門閉鎖せいもんへいさ声帯閉鎖せいたいへいさ声帯閉塞せいたいへいそく」は、ボイトレの基本として広く認識されていることでしょう。“力強い歌声は声門閉鎖が強い声である”ことは確かなんですが、“声門閉鎖を強くすれば力強い声になる”のか?……というと、そこにはかなり大きな落とし穴が隠れています。

声門閉鎖を強く!はトラブルのもと

 「声門閉鎖を強めよう」とする意識下でパワーアップを図ると、“直接声帯をいじる”ような形となり、「喉締のどじめ声/喉詰のどづめ声」や「張り上げ声」になるリスクが高まります。筆者はこれらを”悪い地声“と呼んでいます。

①喉締め声 ②張り上げ声 ③ウィスパーで軽めチェスト ④共鳴と鼻音で軽めチェスト

チェストボイスは倍音で鳴らす

 チェストボイスでキーワードになるのは「倍音ばいおんの響き」です。これは地声裏声ともにですが、力強い発声をしたければ、声門閉鎖を強くするのではなく、倍音ばいおん成分を強く出すようにします。これが特にチェストにおけるボイトレの正解になります。倍音生成を頑張ると、それに伴う各筋肉の働きが自然と”悪い地声“からの脱却を促してくれます。

声帯は“終点”である

 声門閉鎖は「声帯」で行われるものであり、“声の生誕地”となるために当然のことながら意識が向きやすいんですが、筆者から言わせれば声帯は“始点”ではなく“終点”です。

「喉ちんこ」で作る倍音

 ここで登場するのが「喉ちんこ(軟口蓋なんこうがい)」であり、筆者はここを“始点”として捉えています。

【発声作業の“始点”と“終点”】
【発声作業の“始点”と“終点”】

 これまでにも「倍音の響き」をたくさん作るための方法として「喉ちんこの引き合い」を紹介してきました。何を隠そう倍音は地声の成分です。パワフルに発声したければ、歌声に倍音の響きを多く含ませようとすることが“正しい地声/チェストボイスの作り方”となります。


チェストボイスの個性は倍音

倍音生成は「喉ちんこの引き合い」で

 「倍音ばいおんの響き」は地声の成分であり、倍音成分が1番目立つ声区がこの「チェストボイス」です。放っておいても他の声区に比べれば倍音成分は多くなりますが、倍音生成の方法を習得すると“悪い地声”にさせないための感覚を掴めるようになります。豊かな倍音生成を叶える方法として、筆者提唱の「喉ちんこの引き合い」を紹介してきました。

喉ちんこを引き合うパワーが強ければ倍音が多く生成される

声の”ツヤ“こそが倍音

 発声パワーを生成する器官を「声帯」から「喉ちんこ(軟口蓋なんこうがい)」に移すことで、声帯に負担をかけずに良質な声門閉鎖ができる形になります。直接的で過剰な声門閉鎖により固まりがちな声帯は、ゴムのように柔軟性と弾力性を兼ね備え、これによって”声のハリ“”声のツヤ“、そして「倍音」が生まれます。

関連記事:記事まとめー「喉ちんこの引き合い」 (筆者のサイトへのリンクです)

 「喉ちんこ」を“始点”として発声を組み立てると、“終点”となる「声帯」で無理のないパワフルな発声が叶います。


チェストボイスと声区融合

 特に未訓練な状態では裏声でのパワフルな発声が難しいケースが多いですが、この「喉ちんこの引き合い」はもちろん裏声も鍛えてくれます。以下の④は裏声で「喉ちんこの引き合い」をした結果です。裏声で倍音成分を強くするということは、「裏声を地声のように力強く発声するミックスボイス/ハードミックス」の材料の1つを作るということです。

裏声の各声区を比較

 ここでは裏声の各声区をそれぞれ作りやすい発音で比較しておくに留めます。

①ヘッドボイス『wo~』
②ファルセット『ha~』
③ソフトミックス『(ng)a~』
④ハードミックス『giー!』

【声区融合:各成分まとめ】
【声区融合:各成分まとめ】
①ヘッドボイス ②ファルセット ③ソフトミックス ④ハードミックス


チェストボイスの組立順序

 特に力強いチェストボイスの練習は、激しく運動する前に柔軟体操が必要になるのと一緒で、少エネルギーな材料から徐々に組み立てた方が良いです。(これに対して他の声区の練習においては、”悪い地声“にさせないための保湿剤・潤滑剤・浸透材のような成分を個性として含んでいるので、そこまで神経質になる必要はありません。)

 以下に並べたチェスト発声の組み立てメニューは、次回の【実践編】にて解説していきます(‘ω’)ノ。

基本のアイテムと組立順序

(1)「マストの共鳴」の用意
(2)「ウィスパー」で声帯を離し脱力
(3)「共鳴」と「エッジ」で呼気バランス調整
(4)「鼻音」or「吸気」を作って準備完了
(5)「喉ちんこの引き合い」で倍音生成
(6)「喉仏下げ」で音色・バランス調整

音域拡大と追加調整

(7)「腹圧」と「重心上げ NEW!」をしつつ高音域へ
(8)「鎖骨上のせり出し NEW!」でバランス維持


最後に『ここで一首』

 チェストボイス作りのキーポイントを五・七・五・七・七の短歌風にまとめます。

『声帯で 声門閉鎖を 強めずに 喉ちんこによる 倍音作り』(tOmozo心の“俳句”)

次回予告

 次回はチェストボイスの組立順序を追いながら実際にボイトレをしていきましょう(‘ω’)ノ。発声調整動作としては「重心上げ」「鎖骨上のせり出し」が(既出アイテムの組み合わせですが)NEWアイテムとなります。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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