【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
目次
共鳴と倍音はミックスボイスへ繋がる
tOmozoです。第27回から11回に渡って、声の2つの響き=「共鳴」と「倍音」シリーズをお届けしてきました。今回は共鳴と倍音についての“まとめ”をし、このシリーズを一度ひと区切りとさせていただきます。
これまでは共鳴と倍音それぞれについて解説してきましたが、今回はこの2つの関係性と、「声区」に及ぼす影響についても簡単に見ていきましょう(‘ω’)ノ。
「共鳴」と「倍音」まとめ
「共鳴」と「倍音」特徴比較表
『声が良く響いている』などと言いますが、「声の響き」には2つがあり、それが「共鳴」と「倍音」です。まずは特徴を表で比較します。
共鳴 | 倍音 | |
---|---|---|
モノマネ | オオカミの遠吠え | セミの鳴き声 |
声の役割 | 声の広がり | 声の芯 |
例えるなら | じんわり広がる霧 | 光る雷の光線 |
音の輪郭 | 球状 | 放射線状 |
音の質感 | ウェット | ツヤ感 |
音色の個性 | 深い 太い 暗い ふくよか | 明るい 鋭い 固い 煌びやか |
作り方の考え方 | 共鳴腔の①拡大と②充満 | 倍音の①生成と②表出 |
作り方① | 「喉仏下げ」など | 「喉ちんこの引き合い」 |
作り方② | 「鼻にためる」など | 調音(未執筆)など |
声区の成分 | 裏声の成分 | 地声の成分 |
練習しやすい声区 | ヘッドボイス | チェストボイス |
練習しづらい声区 | チェストボイス | ヘッド・ファルセット |
声区への効果 | 硬い地声に湿度を与える | 裏声でも力強く鳴らせる |
声区間への効果 | 声区融合の潤滑油に | 声区間の皺伸ばし・ハリ |
「共鳴」と「倍音」の関係性
共鳴も倍音も共存できるし、させるべき
共鳴と倍音は共生関係にあり、2つの響きが合わさって音色/声色を形成します。最終的には合体して出ていくために両者が混同されて説明されていることも多いようですが、2つの響きの成分自体は明確に作り分けが可能です。なのでこれまでは共鳴と倍音をそれぞれ別々に解説してきました。
今回はシリーズのまとめとしてこの2つの響きを合体させたパターンを練習しましょう。
共鳴と倍音の成分割合4パターン
①共鳴「少」倍音「少」
②共鳴「少」倍音「多」
③共鳴「多」倍音「少」
④共鳴「多」倍音「多」
共鳴作りと倍音作りは“取り合い”になりがち
共鳴と倍音の“成分”は最終的には混ざり合って出ていきますが、共鳴と倍音の“生成”は同時にやるのが難しい作業です。倍音を多く作ろうとすると共鳴生成が疎かに、共鳴を多く作ろうとすると倍音生成が疎かになりがちです。上記サンプルで言うと「④を目指した時に③か②に傾きやすくなる」ということです。
これに関しては解決策のコツが無いわけではないですが、結局は”それぞれの成分を単体でしっかりと作れるようになること″に回帰します。中途半端な材料を合わせても中途半端な料理が出来上がるだけです。過去の連載に戻って練習していただければと思います。
でも極論、共鳴と倍音のそれぞれの成分量は“お好み”なので、求めている声色になるように成分を足すことができればOKです。ですが、幅広い音色変化のためには、共鳴も倍音もたくさん作れるようにしておきましょう。
共鳴と倍音は「声区」へ
共鳴と倍音シリーズの中で、これまでも「声区」については簡単に触れてきました。「声区」とは、ウィスパーボイス、ファルセット、ヘッドボイス、チェストボイス、ミックスボイス、エッジボイスなどの発声分類のことで、共鳴と倍音の2つの響きはこれら分類の作り分けに色濃く影響します。
共鳴は「裏声」の成分
共鳴は裏声の成分で、裏声の1つである「ヘッドボイス」らしさを作ります。地声に共鳴成分を足していけば、ヘッドボイスっぽくなって裏声寄りに傾きます。つまり「共鳴」は地声を裏声のように柔らかく出すような「ミックスボイス」の材料の1つになるということです。“柔らかい声に寄せる”ので「ソフトミックス」と呼ばれたりもします。
倍音は「地声」の成分
倍音は地声の成分なので、倍音成分が一番目立つ声区は、地声である「チェストボイス」です。裏声に倍音成分を足していけば、チェストボイスっぽくなって地声寄りに傾きます。つまり「倍音」は裏声を地声のように力強く出すような「ミックスボイス」の材料の1つになるということです。“強い声に寄せる”ので「ハードミックス」と呼ばれたりもします。
その他、声区に関係する成分は?
共鳴はヘッドボイスに、倍音はチェストボイスに関係しますが、その他にも「吐息」成分は「ファルセット・ウィスパーボイス」に直接関係しますし、「鼻音」成分は各声区を融合する「ミックスボイス」の接着剤にもなります。連載の声区シリーズではこれらの“成分”を駆使しつつ、各声区とミックスボイスの習得を目指していく内容になります。
次回予告
ということでいよいよ声区シリーズに突入していきますが、一度上記のような発声を調整する“成分”を洗い出しておきたいので、次回は「発声成分と発声動作まとめ」をお送りしたいと思います(‘ω’)ノ。
本コラムの執筆者
tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
本コラムの記事一覧
-
第1回 連載スタートにあたって
2024.02.7
-
第2回「理論と感覚」の「考え方」
2024.02.14
-
第3回【歌で大事なのは?】理論vs感覚~感覚が理論を越えるとき~
2024.02.21
-
第4回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part1/5 -音高変化編-
2024.02.28
-
第5回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part2/5 -音色変化編-
2024.03.6
-
第6回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part3/5 -音量・グルーヴ変化編-
2024.03.13
-
第7回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part4/5 -グルーヴ変化編-
2024.03.20
-
第8回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part5/5 -リズムとテンポ変化、応用表現編-
2024.03.27
-
第9回 これまでの連載内容まとめと補足記事紹介〜本連載の概要、歌における理論/感覚の考え方、歌い方の種類を紹介〜
2024.04.3
-
第10回 歌声が詰まる原因6パターン【ボイトレ】
2024.04.10
-
第11回:「喉詰め声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part1/6】
2024.04.17
-
第12回:「喉上げ声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part2/6】
2024.04.24
-
第13回:「息・鼻が詰まる感覚」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part3/6】
2024.05.1
-
第14回:「鼻にかかった声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part4/6】
2024.05.8
-
第15回:重要回「声が張り付く」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part5/6】
2024.05.15
-
第16回:子音の発音は味方にも敵にもなる【歌声が詰まる原因 part6/6】
2024.05.22
-
第17回:歌声が「抜ける」原因と力強く鍛えるボイトレ9選
2024.05.29
-
第18回:声帯を閉じる筋力UP【“抜ける“歌声の改善法 part1/9】
2024.06.5
-
第19回:声は下から支え、上から吊る【“抜ける”歌声の改善法 part2・3/9】
2024.06.12
-
第20回:「鼻にかける」で粘り気のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part4/9】
2024.06.19
-
第21回:「鼻にためる」で密度のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part5/9】
2024.06.26
-
第22回:重要回「喉ちんこの引き合い」でツヤのある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part6/9】
2024.07.3
-
第23回:-続-「喉ちんこの引き合い」を模型で説明【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅱ/9】
2024.07.10
-
第24回:-続-「喉ちんこの引き合い」/倍音生成=「鼻を鳴らす」【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅲ/9】
2024.07.17
-
第25回:子音の圧縮や表情筋の稼働で「声を集める」【“抜ける”歌声の改善法 part7/9】
2024.07.24
-
第26回:声量アップに腹式呼吸!【“抜ける”歌声の改善法 part8&9 /9】
2024.07.31
-
第27回:2つの声の響き「共鳴」と「倍音」をマスター!
2024.08.7
-
第28回:「共鳴」とは?基本の作り方を解説!
2024.08.14
-
第29回:「共鳴」をヘッドボイスで極める!共鳴量による感覚の違いを可視化
2024.08.21
-
第30回:「共鳴」をチェストボイスに応用!最低限必要な『マストの共鳴』とは?
2024.08.28
-
第31回:『マストの共鳴』でミックスボイスの下地が整う!「鼻に○○る」などとの関係も
2024.09.4
-
第32回:ファルセットやウィスパーボイス作りにも「共鳴」の響きが必要!
2024.09.11
-
第33回:声の「倍音」は作れる!声門閉鎖の上位互換「喉ちんこの引き合い」を解説
2024.09.18
-
第34回:声門閉鎖だけでは「倍音」は作れない……「喉ちんこの引き合い」で倍音生成ができる証明!
2024.09.25
-
第35回:息と声帯と倍音の関係を「ホームの白線の外側に立つ」で考える
2024.10.2
-
第36回:“弱く閉じる? 強く開く?” 声門閉鎖の「位置と強度」で完全無欠なコントロールを!
2024.10.9
-
第37回:呼気圧の「量と速度」で完全無欠な声帯コントロールを!
2024.10.16
-
第38回:ミックスボイスへと繋がる!「共鳴」と「倍音」まとめ
2024.10.23
-
第39回:料理に例える歌声の“成分”まとめ!声区の作り分けに向けて
2024.10.30
-
第40回:○○ボイス〜「声区」発声の分類を一挙紹介!
2024.11.6
-
第41回:ヘッドボイスとは“共鳴声”である【解説編】
2024.11.13
-
第42回:ヘッドボイスの練習メニュー【実践編】
2024.11.20
-
第43回:ファルセット・ウィスパーとは“息混ぜ声”である【解説編】
2024.11.27