【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第37回:呼気圧の「量と速度」で完全無欠な声帯コントロールを!

2024.10.16

声帯動作の完全なコントロールを目指して

 tOmozoです。前回は倍音シリーズの延長線で、声門閉鎖せいもんへいさの「位置と張度ちょうど(強度)」問題について解説しました。声帯のパワー=「声門閉鎖圧せいもんへいさあつ」は、ただ“強い“”弱い”だけでは正確なコントロールが効かないため、「声帯の位置」と「声帯の張り具合」を調整する必要があることと実際の発声パターンを紹介しました。
 これと同じように、吐く息のパワー=「呼気圧こきあつ」も、ただ“強い“”弱い”だけでは正確なコントロールが効きません。これが呼気こきの「量と速度」問題です。ということで、今回は「息の多さ」と「息の速さ」を調整する必要性と、実際の発声パターンを紹介したいと思います。

声門閉鎖圧と呼気圧の細分
声門閉鎖圧と呼気圧の細分

呼気の「量と速度」いろいろ

 「息の量」は“多く・少なく”、「息の速度」は“速く・遅く”に分けることができます。これらを組み合わせると、大きく以下の4パターンの発声が考えられます。

呼気の「量」と「速度」
(1)多く×速く
(2)多く×遅く
(3)少なく×速く
(4)少なく×遅く

 更にこの4パターンを、

声門閉鎖圧
 a. 弱め
 b. 強め

 に分けて、色々な発声を洗い出したいと思います。前回のように声門閉鎖圧を細分した「声帯の位置と張度」で考えると煩雑で難しくなるので、今回は声門閉鎖圧の方は簡略化し、“弱めか”“強めか”だけでザックリ分けていきます。

呼気圧は「量」と「速度」に分かれる

 洗い出してみると、“名前が付いているような発声”が並ぶことになりますよ。それでは見ていきましょう(‘ω’)ノ。

(1)呼気が”多くて速い“発声

a. ①ため息 ②声有りため息 b. ①ウィスパーボイス⇒②ファルセットの連結

a. ①ため息 ②声有りため息

 呼気が多くて速い条件で声門閉鎖圧が弱いと、「①息だけが抜ける」か、「②力無い発声」になります。

b. ①ウィスパーボイス、②ファルセット

 ”息漏らし声”“息混ぜ声”である「ウィスパーボイス」と「ファルセット」は、上記の『a. ため息』よりも声門閉鎖圧が強くなります。

(2)呼気が”多くて遅い“発声

a. あくび声 b. ①ヘッドボイス⇒②柔らかいチェストボイスの連結

a. あくび

 深いあくびをして息が止まった感じがしている時間は、呼気の流れが淀んでゆっくりになっています。気道/声道が広くなりやすくて声も充満しやすい状態なので、共鳴作りの際に有効活用できます。

b. ①ヘッドボイス、②柔らかいチェストボイス

 このゆっくりになる呼気のスピードを特に活用するのがヘッドボイスの発声です。ウィスパーボイスやファルセットは吐息成分の流れのために呼気速度は”速く“、ヘッドボイスは共鳴の響きを溜めるために呼気速度を”遅く“します。

 それから柔らかいチェストボイスも、呼気速度の感覚はヘッドボイスと同じになります。ゆっくり流して停滞・循環させます。

(3)呼気が”少なくて速い“発声

a. ①ドギーブレス ②ドギー⇒チェスト b. ①チェスト⇒②ミックスボイスの連結

a. ドギーブレス

 犬が夏バテで舌を出しながら「ハァハァ」する呼吸ですが、ボイトレでは腹式呼吸の訓練のために取り入れることができます。

b. ①チェストボイス、②ミックスボイス(ハード)

 今回のチェストボイスの音声サンプルは、『a. ドギーブレス』の呼気の動かし方をそのまま応用してみました。強い声門閉鎖圧を用意すれば、アクティブなブレス運動と噛み合って、エネルギッシュな発声にできます。

 裏声を力強く地声のように聴かせたいミックスボイスも、同じような感覚で呼気を扱うことになります。

 活発なベルヌーイ効果によって豊かな倍音生成が期待できるのもこのバランスです。ただ何度も言うように、倍音を作れるかどうかは「喉ちんこの引き合い」にかかっています。

(4)呼気が”少なくて遅い“発声

a. 小さいヒソヒソ声 b. ①エッジボイス、②吸気発声

a. 一番小さいヒソヒソ声

 呼気量も少なくて呼気速度も遅い、声門閉鎖圧も弱い発声は、一番少エネルギーな発声と言えます。

b. ①エッジボイス、②吸気発声

 呼気量も少なくて呼気速度も遅いが、声門閉鎖圧が強めなケースの発声は、「エッジボイス」に代表されます。自転車のチェーンがオイル不足で「カラカラ」と鳴っているような状況に良く似ています。

 吸気発声は実際に息を吸って出しますので、「少ない呼気」の究極体のようなものです。実際のボイトレでも呼気を減らしたい時に吸気発声の感覚を用いることがあります。

呼気の「量と速度」は声区に直結する

 このように、呼気の「量」と「速度」の組み合わせパターンを洗い出していくと、ウィスパーボイス、ファルセット、ヘッドボイス、チェストボイス、ミックスボイス、エッジボイスなどの“名前が付いているような発声”の全パターンが登場することになるんです。これらの名前分けは声区せいくという分類で、音域拡大や音色調整のために誰しもが通る道です。

呼気の「量と速度」は声区に直結する


呼気の「量と速度」いろいろカタログ

 今回は呼気の「量」と「速度」は2段階で分け、声門閉鎖圧は「位置」と「張度」に分けずに簡易的に分類しています。これらを細分すると以下のようになります。

呼気圧のパターン
 量 :「少」「中」「多」
 速度:「遅」「中」「速」

声門閉鎖圧のパターン
 位置:「開」「半」「閉」
 張度:「弱」「中」「強」

声門閉鎖圧と呼気圧と声区

 今回紹介した各発声を、以上の分類を使って詳細に解説した記事は、筆者運営のブログにて音声付きで公開していますので、極めたい方は以下の記事をご参照ください。

呼気圧の「量と速度」のパターンを各声区で解説【VMW版-補完】


次回予告

 ということで、次々回あたりからはボイトレ最終局面「声区シリーズ」に突入していきたいと思います(‘ω’)ノ。

 その前に、次回は「倍音と共鳴シリーズ」のまとめをお送りします。

 

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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