【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第53回:鼻音で天然ミックスボイス!~軟口蓋からの筋連動のお話~

軟口蓋を中心とした筋連動

 tOmozoです。「声区シリーズ」は「声区融合せいくゆうごう」「ミックスボイス」にへ突入していて、これを叶えるために重要な「鼻音びおん」について扱っています。

鼻音=軟口蓋が降りた音

 鼻音とはいわゆる「鼻にかかった音/鼻声はなごえ」で軟口蓋なんこうがい(喉ちんこ)が降りた/降り気味の状態の音です。鼻音に関する基本情報と、ミックスボイスに対する効果については、第51回にて解説しましたのでご参照ください。

 軟口蓋を“降ろした”「鼻音」自体が必要なのではなく、軟口蓋を“降ろそうとする”「鼻音生成の動作」が重要であることについては第52回にて解説しています。

鼻音生成が発声のカギになる理由

 今回は「鼻音」を作るための「軟口蓋」がミックスボイスを始め、なぜ発声全体に影響を及ぼすのかを「筋連動」をキーワードにして解説します(‘ω’)ノ。


こんなに繋がっている発声の筋肉

 まず、発声に関わる筋肉の多さ!をご覧ください。

【こんなにある!喉頭周りの筋肉群】
【こんなにある!喉頭周りの筋肉群】

 特に「声帯せいたい」が入っている「喉頭軟骨こうとうなんこつ喉仏のどぼとけ)」回りの筋肉はかなり複雑に絡み合っていて、どこかが突っ張ったら繋がっている筋肉全部に影響に及ぶのはイメージできるかと思います。

 発声は最終的には感覚で処置するものです。重要な筋肉の位置・動作イメージ・役割は覚える必要がありますが、各筋肉の名称まで覚えなくても問題はありません。

 発声に重要な筋肉だけを抜粋・追加すると以下のようになります。

【発声に重要な筋肉群】
【発声に重要な筋肉群】

軟口蓋なんこうがいを上げる筋肉(口蓋筋)
・軟口蓋を下げる筋肉(口蓋筋)
喉頭こうとうを上げる筋肉(外喉頭筋)
・喉頭を下げる筋肉(外喉頭筋)
声帯せいたいを開閉させる筋肉(内喉頭筋)
・声帯を引き延ばす筋肉(内喉頭筋)

 そうすると「軟口蓋を下げる筋肉」が中心にあるのが分かります。今まで紹介した発声アイテムで言い換えれば「鼻にかける筋肉」です。声帯の動作はこれら筋肉の筋連動の影響をダイレクトに受けます。

軟口蓋下げの筋肉が中心になる理由

 声帯を正しく稼働させるために特に重要な筋肉は、口蓋筋のうち「軟口蓋を下げる筋肉」だと言うことができますが、その理由は以下のようなものです。

(1)声帯が入った喉頭と直接繋がっている
(2)「軟口蓋下げ」「喉頭上げ」の2つの役割を担っている
(3)心理的に鼻音が避けられやすく要素として抜け落ちやすい

 「軟口蓋を下げる筋肉」は裏返せば「喉頭を上げる筋肉」です。筋肉は正常に作動すると「収縮」=縮みます。この筋肉は縮めば軟口蓋を下げ、喉頭を上げながら中央に寄ろうとします。「鼻音を作る/鼻にかける」と喉仏が上がりやすくなるのはこのためです。発声に関わる筋肉のうち、一番の可動域となっていて、唯一2つの役割を持っているのがこの筋肉です。

 「喉頭を下げる筋肉」も喉頭と直接繋がっていますが、これは鎖骨と繋がっており鎖骨側は固定されていて、役割は「喉頭下げ」のみです。「軟口蓋を上げる筋肉」は頭上の耳管などの器官と繋がっていますが、発声での役割は「軟口蓋上げ」のみです。(「耳管開放症」の方は影響があります

軟口蓋を中心とした筋連動

 「軟口蓋上げの筋肉」が収縮している時に「軟口蓋下げ/喉頭上げの筋肉」を収縮させると引き合いの状態が生じます。これがいつも言っている「軟口蓋の引き合い」です。それから「喉頭下げの筋肉」が収縮している時に「軟口蓋下げ/喉頭上げの筋肉」を収縮させると、ここでも同じように引き合いの状態が生じます。

【「引き合い/筋連動」の関係性】
【「引き合い/筋連動」の関係性】

 ただし、後者の「喉頭を上下させる筋肉」に関することで言えば、明るい声・深い声の調整箇所となる「喉頭位置」は発声においてオプションです。その意味で考えても、重要度は「軟口蓋を上下させる筋肉」の方にあると言えるでしょう。

 このように「軟口蓋を下げる」=「鼻にかける」=「鼻音生成」の筋肉は、発声の筋連動の中心となっています。


鼻音なだけで天然ミックスボイス

 ここで上記の「鼻音生成」の感覚がミックスボイスの重要なカギになることを、実体験で証明したいと思います。

 これまで教えた生徒さんの中に数名いましたが、天然でミックスボイスになっている人のうち、トータルで見れば”不完全で未熟“な印象の発声でも、地声裏声の境目を無くす声区融合せいくゆうごう自体は問題なくクリアできているケースが見られます。この場合、発声の成分の中で一番多く表れているのが漏れなく「鼻音」の成分です。

 発声の成分とは、これまで解説してきた「倍音ばいおんの響き」「共鳴きょうめいの響き」「吐息といき成分」で、滑舌の良さの印象にも繋がる部分です。『トータルで見れば”不完全で未熟“な印象』というのは、倍音のキラキラ感が無く、共鳴のウェット感が無く、吐息による「音抜おとぬけ感」も無く、活舌も良くない印象ということです。でもちゃんと地声感も裏声感もあるミックスボイスと呼べるものになっています。筋連動もしっかり見えて安定もしています。
 これらの成分が最低限量で揃っていて、鼻音の分量が勝っているとこういった発声バランスになります。このケースを複数見ていると、鼻音生成の感覚がミックスボイスに必要な筋連動を誘発し、成立させる最低限の条件になっているということが推察できます。

 こういった方はあとは音色おんしょく磨きをするだけです。鼻音成分が強いということは「軟口蓋上げの筋肉」が弱いということですので、倍音生成や共鳴生成の練習で改善できます。人によってバランスは本当に様々です。

 ミックスボイスに対する鼻音の効力がお分かりいただけたでしょうか?


次回予告

 発声に必要な筋肉は、”ハリ“が必要な筋肉と、リラックスが必要な筋肉に分かれます。次回は「筋連動」に関連して、このタイミングで「筋肉の作用」について触れ、「声の裏返り」の解決に向けた解説をしたいと思います(‘ω’)ノ。

【筋肉の作用に関する用語整理】
【筋肉の作用に関する用語整理】

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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