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【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
目次
軟口蓋を中心とした筋連動
tOmozoです。「声区シリーズ」は「声区融合」「ミックスボイス」にへ突入していて、これを叶えるために重要な「鼻音」について扱っています。
鼻音=軟口蓋が降りた音
鼻音とはいわゆる「鼻にかかった音/鼻声」で軟口蓋(喉ちんこ)が降りた/降り気味の状態の音です。鼻音に関する基本情報と、ミックスボイスに対する効果については、第51回にて解説しましたのでご参照ください。
軟口蓋を“降ろした”「鼻音」自体が必要なのではなく、軟口蓋を“降ろそうとする”「鼻音生成の動作」が重要であることについては第52回にて解説しています。
鼻音生成が発声のカギになる理由
今回は「鼻音」を作るための「軟口蓋」がミックスボイスを始め、なぜ発声全体に影響を及ぼすのかを「筋連動」をキーワードにして解説します(‘ω’)ノ。
こんなに繋がっている発声の筋肉
まず、発声に関わる筋肉の多さ!をご覧ください。
![【こんなにある!喉頭周りの筋肉群】](https://vocalmagazine.jp/wp-content/uploads/2025/02/tomozo52_01_kinniku-koutou-mawari-r1.jpg)
特に「声帯」が入っている「喉頭軟骨(喉仏)」回りの筋肉はかなり複雑に絡み合っていて、どこかが突っ張ったら繋がっている筋肉全部に影響に及ぶのはイメージできるかと思います。
発声は最終的には感覚で処置するものです。重要な筋肉の位置・動作イメージ・役割は覚える必要がありますが、各筋肉の名称まで覚えなくても問題はありません。
発声に重要な筋肉だけを抜粋・追加すると以下のようになります。
![【発声に重要な筋肉群】](https://vocalmagazine.jp/wp-content/uploads/2025/02/tomozo52_02_kinniku-kougai-r1.jpg)
・軟口蓋を上げる筋肉(口蓋筋)
・軟口蓋を下げる筋肉(口蓋筋)
・喉頭を上げる筋肉(外喉頭筋)
・喉頭を下げる筋肉(外喉頭筋)
・声帯を開閉させる筋肉(内喉頭筋)
・声帯を引き延ばす筋肉(内喉頭筋)
そうすると「軟口蓋を下げる筋肉」が中心にあるのが分かります。今まで紹介した発声アイテムで言い換えれば「鼻にかける筋肉」です。声帯の動作はこれら筋肉の筋連動の影響をダイレクトに受けます。
軟口蓋下げの筋肉が中心になる理由
声帯を正しく稼働させるために特に重要な筋肉は、口蓋筋のうち「軟口蓋を下げる筋肉」だと言うことができますが、その理由は以下のようなものです。
(1)声帯が入った喉頭と直接繋がっている
(2)「軟口蓋下げ」「喉頭上げ」の2つの役割を担っている
(3)心理的に鼻音が避けられやすく要素として抜け落ちやすい
「軟口蓋を下げる筋肉」は裏返せば「喉頭を上げる筋肉」です。筋肉は正常に作動すると「収縮」=縮みます。この筋肉は縮めば軟口蓋を下げ、喉頭を上げながら中央に寄ろうとします。「鼻音を作る/鼻にかける」と喉仏が上がりやすくなるのはこのためです。発声に関わる筋肉のうち、一番の可動域となっていて、唯一2つの役割を持っているのがこの筋肉です。
「喉頭を下げる筋肉」も喉頭と直接繋がっていますが、これは鎖骨と繋がっており鎖骨側は固定されていて、役割は「喉頭下げ」のみです。「軟口蓋を上げる筋肉」は頭上の耳管などの器官と繋がっていますが、発声での役割は「軟口蓋上げ」のみです。(「耳管開放症」の方は影響があります)
軟口蓋を中心とした筋連動
「軟口蓋上げの筋肉」が収縮している時に「軟口蓋下げ/喉頭上げの筋肉」を収縮させると引き合いの状態が生じます。これがいつも言っている「軟口蓋の引き合い」です。それから「喉頭下げの筋肉」が収縮している時に「軟口蓋下げ/喉頭上げの筋肉」を収縮させると、ここでも同じように引き合いの状態が生じます。
![【「引き合い/筋連動」の関係性】](https://vocalmagazine.jp/wp-content/uploads/2025/02/tomozo52_03_kinniku-hikiai-r1.jpg)
ただし、後者の「喉頭を上下させる筋肉」に関することで言えば、明るい声・深い声の調整箇所となる「喉頭位置」は発声においてオプションです。その意味で考えても、重要度は「軟口蓋を上下させる筋肉」の方にあると言えるでしょう。
このように「軟口蓋を下げる」=「鼻にかける」=「鼻音生成」の筋肉は、発声の筋連動の中心となっています。
鼻音なだけで天然ミックスボイス
ここで上記の「鼻音生成」の感覚がミックスボイスの重要なカギになることを、実体験で証明したいと思います。
これまで教えた生徒さんの中に数名いましたが、天然でミックスボイスになっている人のうち、トータルで見れば”不完全で未熟“な印象の発声でも、地声裏声の境目を無くす声区融合自体は問題なくクリアできているケースが見られます。この場合、発声の成分の中で一番多く表れているのが漏れなく「鼻音」の成分です。
発声の成分とは、これまで解説してきた「倍音の響き」「共鳴の響き」「吐息成分」で、滑舌の良さの印象にも繋がる部分です。『トータルで見れば”不完全で未熟“な印象』というのは、倍音のキラキラ感が無く、共鳴のウェット感が無く、吐息による「音抜け感」も無く、活舌も良くない印象ということです。でもちゃんと地声感も裏声感もあるミックスボイスと呼べるものになっています。筋連動もしっかり見えて安定もしています。
これらの成分が最低限量で揃っていて、鼻音の分量が勝っているとこういった発声バランスになります。このケースを複数見ていると、鼻音生成の感覚がミックスボイスに必要な筋連動を誘発し、成立させる最低限の条件になっているということが推察できます。
こういった方はあとは音色磨きをするだけです。鼻音成分が強いということは「軟口蓋上げの筋肉」が弱いということですので、倍音生成や共鳴生成の練習で改善できます。人によってバランスは本当に様々です。
ミックスボイスに対する鼻音の効力がお分かりいただけたでしょうか?
次回予告
発声に必要な筋肉は、”ハリ“が必要な筋肉と、リラックスが必要な筋肉に分かれます。次回は「筋連動」に関連して、このタイミングで「筋肉の作用」について触れ、「声の裏返り」の解決に向けた解説をしたいと思います(‘ω’)ノ。
![【筋肉の作用に関する用語整理】](https://vocalmagazine.jp/wp-content/uploads/2025/02/tomozo52_02_kinniku-yougo.jpg)
本コラムの執筆者
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tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
本コラムの記事一覧
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第1回 連載スタートにあたって
2024.02.7
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第2回「理論と感覚」の「考え方」
2024.02.14
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第3回【歌で大事なのは?】理論vs感覚~感覚が理論を越えるとき~
2024.02.21
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第4回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part1/5 -音高変化編-
2024.02.28
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第5回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part2/5 -音色変化編-
2024.03.6
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第6回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part3/5 -音量・グルーヴ変化編-
2024.03.13
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第7回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part4/5 -グルーヴ変化編-
2024.03.20
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第8回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part5/5 -リズムとテンポ変化、応用表現編-
2024.03.27
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第9回 これまでの連載内容まとめと補足記事紹介〜本連載の概要、歌における理論/感覚の考え方、歌い方の種類を紹介〜
2024.04.3
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第10回 歌声が詰まる原因6パターン【ボイトレ】
2024.04.10
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第11回:「喉詰め声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part1/6】
2024.04.17
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第12回:「喉上げ声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part2/6】
2024.04.24
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第13回:「息・鼻が詰まる感覚」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part3/6】
2024.05.1
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第14回:「鼻にかかった声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part4/6】
2024.05.8
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第15回:重要回「声が張り付く」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part5/6】
2024.05.15
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第16回:子音の発音は味方にも敵にもなる【歌声が詰まる原因 part6/6】
2024.05.22
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第17回:歌声が「抜ける」原因と力強く鍛えるボイトレ9選
2024.05.29
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第18回:声帯を閉じる筋力UP【“抜ける“歌声の改善法 part1/9】
2024.06.5
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第19回:声は下から支え、上から吊る【“抜ける”歌声の改善法 part2・3/9】
2024.06.12
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第20回:「鼻にかける」で粘り気のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part4/9】
2024.06.19
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第21回:「鼻にためる」で密度のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part5/9】
2024.06.26
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第22回:重要回「喉ちんこの引き合い」でツヤのある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part6/9】
2024.07.3
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第23回:-続-「喉ちんこの引き合い」を模型で説明【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅱ/9】
2024.07.10
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第24回:-続-「喉ちんこの引き合い」/倍音生成=「鼻を鳴らす」【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅲ/9】
2024.07.17
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第25回:子音の圧縮や表情筋の稼働で「声を集める」【“抜ける”歌声の改善法 part7/9】
2024.07.24
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第26回:声量アップに腹式呼吸!【“抜ける”歌声の改善法 part8&9 /9】
2024.07.31
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第27回:2つの声の響き「共鳴」と「倍音」をマスター!
2024.08.7
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第28回:「共鳴」とは?基本の作り方を解説!
2024.08.14
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第29回:「共鳴」をヘッドボイスで極める!共鳴量による感覚の違いを可視化
2024.08.21
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第30回:「共鳴」をチェストボイスに応用!最低限必要な『マストの共鳴』とは?
2024.08.28
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第31回:『マストの共鳴』でミックスボイスの下地が整う!「鼻に○○る」などとの関係も
2024.09.4
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第32回:ファルセットやウィスパーボイス作りにも「共鳴」の響きが必要!
2024.09.11
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第33回:声の「倍音」は作れる!声門閉鎖の上位互換「喉ちんこの引き合い」を解説
2024.09.18
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第34回:声門閉鎖だけでは「倍音」は作れない……「喉ちんこの引き合い」で倍音生成ができる証明!
2024.09.25
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第35回:息と声帯と倍音の関係を「ホームの白線の外側に立つ」で考える
2024.10.2
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第36回:“弱く閉じる? 強く開く?” 声門閉鎖の「位置と強度」で完全無欠なコントロールを!
2024.10.9
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第37回:呼気圧の「量と速度」で完全無欠な声帯コントロールを!
2024.10.16
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第38回:ミックスボイスへと繋がる!「共鳴」と「倍音」まとめ
2024.10.23
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第39回:料理に例える歌声の“成分”まとめ!声区の作り分けに向けて
2024.10.30
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第40回:○○ボイス〜「声区」発声の分類を一挙紹介!
2024.11.6
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第41回:ヘッドボイスとは“共鳴声”である【解説編】
2024.11.13
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第42回:ヘッドボイスの練習メニュー【実践編】
2024.11.20
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第43回:ファルセット・ウィスパーとは“息混ぜ声”である【解説編】
2024.11.27
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第44回:息混ぜ声①ウィスパーボイスの練習メニュー【実践編】
2024.12.4
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第45回:息混ぜ声②ファルセットの練習メニュー【実践編】
2024.12.11
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第46回:チェストボイスとは“倍音声”である【解説編】
2024.12.18
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第47回:チェストボイスの練習メニュー【実践編】
2024.12.25
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第48回:チェストボイスは「頬骨鳴らし」で音域拡大!【解説編】
2025.01.8
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第49回:「鎖骨上のせり出し」でチェストボイスを最短ルートで習得!【実践編】
2025.01.15
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第50回:諸悪の根源”悪い地声“の種類と対処法まとめ~ミックスボイスへ~
2025.01.22
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第51回:ミックスボイス習得 〜「鼻音のライン取り」にトライ!
2025.01.29
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第52回:鼻音を“敵”にしない!「軟口蓋の位置と張度問題」
2025.02.5
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第53回:鼻音で天然ミックスボイス!~軟口蓋からの筋連動のお話~
2025.02.12