【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第36回:“弱く閉じる? 強く開く?” 声門閉鎖の「位置と強度」で完全無欠なコントロールを!

2024.10.9

声帯動作の完全なコントロールを目指して

 tOmozoです。前回まで声の2つの響き=「共鳴きょうめい」と「倍音ばいおん」シリーズをお届けしてきました。今回は倍音シリーズの延長線で、声門閉鎖せいもんへいさの「位置と強度」問題について解説します。声帯のパワー=「声門閉鎖圧せいもんへいさあつ」はただ“強い“”弱い”だけでは正確なコントロールはできません。
 前回に引き続き「ベルヌーイ効果」や「喉ちんこの引き合い」による倍音生成がこれにどう関わってくるのかにも触れますが、そのほか「喉締のどじめ声」の改善や「ウィスパーボイス/ファルセット」のコントロールに困っている方は必読です( `ー´)ノ。


声帯の「位置と強度」いろいろ

 厳密に言うと“声帯が閉じている=強い声門閉鎖”ではありません。”弱~く閉じている“こともあれば”開き気味だけどしっかり固定されている“状況もあり得ます。

声帯の「位置」と「強度」

 まずは分かりやすいであろう”強く閉じている“”弱く開いている“バランスから、声帯の「位置と強度」について見ていきましょう。

①「閉じ」「強」と②「開き」「弱」

 まずは音声サンプルをご確認ください。

①声帯が”強く閉じている“ ②声帯が”弱く開いている“

 ①前者は”強く閉じている“状態で、”位置「閉」強度「強」“のバランスです。声の分類=声区はチェストボイスです。声帯の位置は閉じているので、吸い寄せられる作用=ベルヌーイ効果が強く働きやすくなります。声帯の”ハリ“も強いので力強い発声になります。(この”ハリ“を作っているのは「喉ちんこの引き合い」で、この作業が豊かな倍音生成を叶えます。関連記事は割愛します。)

 ②後者は吐息だけの発声で、”弱く開いている“状態、”位置「開」強度「弱」“のバランスです。声帯は息だけを通そうとするので、いわば「全開」になります。吐く息=呼気が声帯を通り抜けても、声帯が離れた位置で”ハリ“も無く休んでいるためにベルヌーイ効果の影響は受けません。呼気は抵抗無く流れていきます。

声帯の「位置」と「強度」

 次は一見矛盾しているように見える、”弱く閉じている“”強く開いている“バランスです。

③「閉じ」「弱め」と④「開き」「強め」

 次の音声サンプルは、先述の①②のバランスと良く聴き比べてみてください。

③声帯は”閉じているのに弱い“ ④声帯は”開いているのに強い“

 ③前者は、声帯は閉じているので区分上はチェストボイスに分類されるかと思いますが、”柔らかい“音色が特徴的です。声帯のハリは作っていますが弱めです。呼気圧も弱いので、ベルヌーイ効果も抑えられています。息漏れも極力抑えているので声帯が開き気味になるウィスパーボイスではありません。
 ということはやはり声帯は”閉じているのに弱い“のです。”位置「閉」強度「弱め」“のバランスがこの発声で、倍音成分は多くありません。

 ④後者は、②と同様に吐息だけの発声です。でも②と比べて呼気の摩擦音が大きいのが特徴です。声は鳴っていないのでベルヌーイ効果もゼロ、倍音もゼロですが、強いエネルギーを感じます。
 ②では抵抗無く息を”サラッと“流していましたが、④では声帯で抵抗を多く作っています。声帯は離したままで”ガチっと“張ります。すると呼気の流れと硬くなった声帯で喧嘩が起こって摩擦が増えるような形になります。”位置「開」強度「強め」“のバランスがこの発声です。

声帯の「位置」と「強度」

 このように、同じ声帯の「位置」でも「強度」が変わることによって、発声には大きな違いが現れます。この2つをコントロールできれば、自由自在な発声が手に入りますよ。

 上記は分かりやすい4パターンで説明しましたが、この声帯の「位置」と「強度」のパターンを、実際の発声を考慮しつつ洗い出すと、以下のようにたくさんのバランスが考えられます。


声帯の「位置と張度」いろいろカタログ

 今回は「強度」として説明しましたが、正確なニュアンスを掴むには「声帯のハリ」だと捉えるべきなので「張度ちょうど」と置き換えます。これに加え、吐く息の強さ=「呼気圧こきあつ」も大きく関わってきます。

声門閉鎖圧は「位置」と「張度」に分かれる

1.息だけのバランスパターン3つ
(1)無意識な吐息:位置「開」張度「弱」
(2)摩擦を強めた吐息:位置「開」張度「中」呼気「高め」
(3)失敗例→力んだ吐息:位置「開→半へ」張度「強」

2.息混ぜ発声でのバランスパターン4つ
(1)通常の声量:位置「半」張度「中」
(2)声量UPには:張度「強め」+呼気「高め」で位置「半開/半閉」のまま
(3)失敗例①:呼気「高」張度「弱」で位置「開きすぎ」へ
(4)失敗例②:張度「強」呼気「低」で位置「閉じすぎ」へ

3.声帯が閉じ気味でのバランスパターン5つ
(1)充分な声量:位置「閉」張度「強め」呼気「高め」
(2)抑えた声量:位置「閉」張度「弱め」呼気「低」
(3)不十分な声量:張度「中」呼気「高め」で位置「閉→半へ」
(4)過剰な声量:張度「強すぎ」呼気「高すぎ」で位置「閉じすぎへ」
(5)ドライな音色:位置「閉」張度「強め」呼気「低」

 これらに関しては筆者運営のブログにて音声付きで解説していますので、極めたい方は以下の記事をご参照ください。

声門閉鎖の「位置と張度」のパターン12個を解説【VMW版-補足】


次回予告

 「声門閉鎖圧」のパワーは、今回のテーマにしていた「声帯の位置と張度」に分かれるように、「呼気圧」のパワーは「呼気の量と速度」に分かれることになります。

声門閉鎖圧と呼気圧は細分される


 ということで次回は、吐く息のパワー=呼気圧を「呼気の量」「呼気の速度」に分けて声門閉鎖のコントロールを詳しく見ていきましょう(‘ω’)ノ。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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