【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第24回:-続-「喉ちんこの引き合い」/倍音生成=「鼻を鳴らす」【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅲ/9】

2024.07.17

力強い歌声へ! ~ 第22・23回の続編です

 tOmozoです。第17回:歌声が「抜ける」原因と力強く鍛えるボイトレ9選の1つとしてのどちんこ(軟口蓋なんこうがい)の引き合い」を紹介しています。ボイトレ界に浸透していない重要なメニューなので3回に分けていますが今回はその3回目です。第22回では『声のツヤ出し=倍音ばいおん生成』のエクササイズメニューを一通り紹介。第23回では模型を使った動画で「喉ちんこの引き合い」の動作を詳しく解説しました。第24回となる今回は、このシリーズのエクササイズメニューになっている『ん~ぎー!/ng~giー!』のコツの補足と、これに関わる「鼻に〇〇る」などの発声動作の用語まとめをします(‘ω’)ノ。

第23回で解説:「喉ちんこの引き合い」をすると倍音が多く生成される

『ん~ぎー!/ng~giー!』=「鼻を鳴らす」

倍音生成のコツ6つ

 第22・23回とエクササイズメニューにしてきた『ん~ぎー!/ng~giー!』について、発音のパートを分けながら細かくコツを解説していき、今回の結論「鼻を鳴らす」までを紹介します。

(1)『ん~』は力強く「喉ちんこを下げる/鼻にかける」

 まず、口を開けた状態での『ん~』は「ngえぬじーハミング」といい、舌の奥と喉ちんこ(軟口蓋なんこうがい)がくっ付くことで『ん~』の鼻音びおんになります。ポイントは”しっかり喉ちんこを下げること“ですが、位置よりも”下げる力“の方が重要です。この”鼻先に向かって『ん~』を強く押し当てる“ような作業を「鼻にかける」と表現しています。これにより結果として声門閉鎖せいもんへいさは強くなります。

①OK◎:完全な『ん~』の発音 ②NG✕:『ん』に『あ』が混ざる

 もし薄っすらでも『あ~』の音が聴こえたら”喉ちんこと舌の奥が離れ気味“ということですので、頭の中で『ん』をしっかり念じてください。動作のイメージは第23回の発声模型を使った動画で確認できます。

(2)『ん~』から『ぎ』は瞬間移動

 『ん~/ng~』から『ぎ/gi』の発音は、ゆっくり推移させず、瞬間的に『ぎ/gi』を発音するようにしてください。つまり“喉ちんこを上げる動作を力強く素早く”ということです。パワーとスピード両方重要です。

①OK◎:『ん~』から『ぎ』まで瞬間移動 ②NG✕:『ん~』から『ぎ』までゆっくり

(3)『ぎー!』は鼻にかけつつもクリアに

 『ぎー!/giー!』と発音する時間は、もちろん「喉ちんこを上げる」作業をしますが、「喉ちんこを下げる/鼻にかける」強い力の中で「喉ちんこを上げる」ことで、より倍音を含んだ煌びやかで明瞭な発声にできます。この瞬間「喉ちんこの引き合い」になります。”もこもこ“な鼻音びおんにならないよう”クリアな発声“を目指してください。この練習では“痛々しいくらいに鋭い声”を狙います。でも上手く行っている時、実際にはノドのどこにも痛みを感じません。クリアにするコツとして、

①こめかみを上げる(斜め後ろ方向に)

②奥歯に隙間を開けるイメージで発音する

 ……を試してみてください。やってみて鼻音のままにしかならなければ、喉ちんこを上げる作業が上手くいっていないということです。

①OK◎:クリアな『ぎー!/giー!』 ②NG✕:こもった鼻音気味の発音

 筆者は、この「喉ちんこの引き合い」をして倍音生成する作業を「鼻を鳴らす」、その音声を鼻先に送り届ける作業を「鼻に当てる」とも呼んでいます。

(4)まず喉仏や舌は上げて練習する

 「倍音生成」の練習をする時には、”声のツヤ“を分かりやすく感じるために「気道きどう声道せいどう」は狭くして練習すると良いです。つまり「喉仏のどぼとけ」を上げるということですが、これを補助するために「舌」も全体的に上げてしまってOKです。こうすると倍音は”ジェット噴射“される形になり、より”鋭い金属音“のような成分が聴き取りやすくなります。以下の動作を試してみてください。

①舌の中間部を上の歯にくっける

②上の歯の高さ分の隙間を上顎に作る

③上顎と舌の隙間で”ジェット噴射“する

 実際の歌唱では鋭すぎる音色/声色は敬遠されるので、サンプルの音声ように「喉仏の位置を下げた状態≒共鳴きょうめい量が多い状態」で倍音生成できるように段階を踏んで練習していきます。

①共鳴量「少」で練習 ②共鳴量「中」で練習 ③共鳴量「多」で練習

 喉仏の位置が下がると「共鳴きょうめい」が増える傾向になりますが、音声サンプル③のように共鳴が多い中で倍音生成するのは難しい発声作業になります。理由は①身体の仕組み上動作が難しくなるのと、②倍音を鋭く生成できたとしても共鳴のまろやかな成分が混ざり合うと相対的にマイルドに聴こえてしまうからです。

(5)声帯には力を入れない!声帯ではなく「鼻を鳴らす」

 何度も言っていますが、特に「ノドめ声」になりやすいパワー過多な人は『声帯せいたいに力を入れてはいけない』と思っていた方が良いです。声が生まれるのは「声帯」なのですが、操縦桿は「のどちんこ(軟口蓋なんこうがい)」にあります。まずもって力を入れるべきなのは「喉ちんこ」です(喉ちんこに力を入れるためにまず「鼻にかける」作業をします)。”声が抜ける“症状が出るパワー不足な人も、『喉ちんこでパワーが足りなかったら声帯で補う』と思っていると安全にボイトレできますよ。

 この意識を持たせるためにレッスンで使っている言葉が「声帯を鳴らす」のではなくて「鼻を鳴らす」です。「喉ちんこを鳴らす」と思っていても間違いではないんですが、倍音生成においてまず大事なのは粘着力を担当する「鼻にかける」作業なので「鼻」をキーワードにしています。これを以下で説明します。

(6)なぜ「鼻」?~ガムテープとセロテープ~

 例えば、貼ってあるガムテープを剥がす時に”ベリベリ“っと音がしますよね?これが「倍音」の音のイメージと似ています。これがセロテープならどうでしょう?こんなに音は鳴らないはずです。以下の動画の「8:00」頃から実際にテープを使って説明しています。

 強い粘着力があるからこそ、引き剥がす力も更に必要になり、結果強い音が鳴ります。”強く「喉ちんこを下げる/鼻にかける」からこそ、「喉ちんこを上げる」力も更に必要になり、強い「喉ちんこの引き合い」ができる。その結果多くの「倍音」が生まれる“のです。

だから「鼻を鳴らす」

 だから倍音生成の作業に関しては、「声帯を鳴らす」でもなく「喉ちんこを鳴らす」でもなく、”ベリベリ“っと「鼻を鳴らす」と思っていた方が求める効果が出やすくなるということです。(今回触れていない「鼻に溜める(第21回)」はもう1つの響きである「共鳴きょうめい」生成のための動作で、「鼻に通す」は暖かい音色の「ウィスパーボイス」のための動作なので、倍音生成には不要な作業と思っていてOKです。)


次回予告

 長くなりました_(:3 」∠)_。が、これこそが”ボイトレの正解である“と自信を持って提唱します。次回は寄り道から戻り、第25回は(7)の”声を集める“作業をお届けします(‘ω’)ノ。

声が抜ける発声改善トレーニング一覧
(1)声帯を閉じる筋力UP:第18回
(2)お腹に力を入れる:第19回
(3)こめかみを上げる:第19回
(4)鼻にかける:第20回
(5)鼻にためる:第21回
(6)喉ちんこの引き合い:第22回
 追加①⇒「喉ちんこの引き合い」を模型で説明:第23
 追加②⇒倍音生成=「鼻を鳴らす」:第24回(今回)
(7)子音の圧縮/表情筋の稼働=声を集める:第25回を予定
(8)腹式呼吸(腹圧UP+呼気圧UP)=声量UP
(9)大胆に発声作業をする

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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