
【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
目次
エッジボイスに“真空パック”
tOmozoです。今回は前回からの流れで「ラスピーボイス」を扱おうと思いましたが、生徒さんから『エッジボイスが上手く鳴らせないのでもっと情報が欲しいです』とリクエストがあったため、その原因と対処法を深掘りする回にしたいと思います(‘ω’)ノ。
①エッジボイス
②ラスピーボイス
③吸気ノイズ
④がなり
⑤ハスキーボイス
⑥デスボイス
⑦不具合ノイズ
エッジボイス生成のときによく見られる失敗例、「呼気圧足らなすぎ問題」と「閉鎖圧で潰し過ぎ問題」の解決策を“真空パック”で説明し、最後に改善法まとめをします。
この記事は第64回で一挙紹介した「音色シリーズ」のうち(5)雑音量で“ノイジー”を作る、のひとつです(‘ω’)ノ。
“真空パック”で作る抵抗圧
発声の基本原理「圧3点セット」
これまでに、声帯を閉じるパワーの「閉鎖圧」、声帯に息を当てるパワーの「呼気圧」、そして閉鎖圧の代替と呼気圧の相殺になる「抵抗圧」を紹介してきました。抵抗圧はエッジボイス発声のとき、特に重要なカギとなります。
関連記事:第62回:どんな発声にも必須な「抵抗圧」って知ってる? ~ハードミックスの完成へ④~
空気を抜いて真空パック
その抵抗圧を強力に完成させるのが「口腔内の“真空パック”」の考え方です。何をするかと言えば「口腔内や咽頭腔内から“空気を抜く感覚”を置くことで、息の流れが発生しないようにする」作業です。

エッジボイスについての基本情報と作り方は第60回にて、声区融合と音域との関係については第70回にて解説しています。
今回はこれらをある程度理解されている前提でお話を進めます。順を追って見ていきましょう。
「呼気圧足らな過ぎ問題」
エッジボイスの成立条件は「息を減らすこと」と説明してきましたが、ノイズであろうが“音を鳴らす”ということは最低限量の呼気圧は必要です。発声は“加減とバランス”です。呼気圧を減らし過ぎた場合の音声は以下のように“なんとなくエッジは鳴るが音量が出ない”状態になります。
これを改善するのにちょうどいい意識が“真空パック”です。声帯には普通に息を当てるんですが、声帯より上では”無風状態“、“真空状態”にします。
息の扱いは、声帯の下での話なのか、上での話なのかによって大きく変わります。
“息”の役割ふたつ
筆者は声帯に当てる“息”を「呼気(圧)」、口腔から漏れる“息”を「吐息(感)」と、区別して書いています。
関連記事:第43回:ファルセット・ウィスパーとは“息混ぜ声”である【解説編】
エッジで音量が出ない人は、「呼気圧は減らさずに、吐息感を皆無にする」という意識と動作に変えてみてください。これが”無風状態“、“真空状態”の一端を担います。
“真空パック”は抵抗圧で
この”無風状態“や“真空状態”を作るのが「抵抗圧」で、今回の工程はふたつです。
①声帯付近では「息を我慢する」、「息を止める」意識を、口唇付近では「息を漏らさない」、「鼻づまりのフリ」などを意識することで、息漏れを防ぐことができます。鼻腔、口腔、咽頭腔内で空気が動かないようにしてください。これが呼気圧への抵抗力です。

ここからさらに吐息感を減らす感覚が必要です。
②このように2か所で息の流れを止めたら、声帯付近ではさらに「嚥下のフリ」や「吸気発声の感覚」を置きます。飲み込む動作によって口腔内~咽頭腔内の吐息感を、“注射器で抜く”ように減らすことができます。これが無駄な呼気圧の相殺力になります。

これで“真空パック”の完成です(‘ω’)ノ。これらの動作はニュアンスの違いはあるものの、すべて「呼気圧」に対する「抵抗圧」と呼ぶことができます。
アタック練習
“真空パック”ができたところで、呼気圧自体は一定量を用意するために「アタック練習」をします。
サンプル①のように立ち上がりだけは勢いをつけて呼気圧を上げ、直後はエッジになるようにします。慣れたら②のようにアタックからエッジにします。そのとき、以前の発声バランスである③と比較すれば、必要な呼吸圧が掴めることでしょう。
そして④のように、アタックを入れたときに真空状態が崩れて息漏れが発生する場合には、声帯が開いているということですから、息漏れ箇所の見直しが必要になります。
「閉鎖圧で潰し過ぎ問題」
アタックにより強まった「呼気圧」によって「閉鎖圧」が負けてしまえば、声帯が開いて息漏れが発生します。
でも、この対処法として『声門閉鎖/閉鎖圧を強くする!』という意識がNGなのです。ここでもうひとつの失敗例ですが、閉鎖圧でエッジを作ろうとすると、わかりやすくエッジの粒が潰れて消えてしまいます。
この対処法は何なのかと言うと、前述とまったく同じ”真空パック“の用意です。
『閉鎖圧が抜けたら抵抗圧で補う』
先に紹介した抵抗圧の各動作は、呼気圧に対する抵抗力、無駄な呼気圧の相殺力を持っていますが、それと同時に間接的に声門閉鎖を作る「閉鎖圧の代替」の役割も持ちます。どの動作も大なり小なり”無意識的に”、つまり“勝手に”声門閉鎖が起こるのですが、特に「嚥下のフリ」はそれを実感しやすいでしょう。まさに一石二鳥なんです。
これがどんな発声でも重要となるカギであり盲点でもあるのですが、エッジボイス発声のときには特に重要な発声原理となります。エッジボイスやパワフルな発声を手に入れたければ、徹底的に抵抗圧の感覚を身に付けてください。
実質、いろいろな抵抗圧の動作を全部揃えると“真空パック”が可能になるので、ここで今一度第62回をご参照ください。
次回予告
次回ですが、ここに書き切れなかった『エッジボイスのコツや意識まとめ』をやり、エッジボイスについて完結させてしまいたいと思います(‘ω’)ノ。
本コラムの執筆者

tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
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