【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第61回:強い声には呼気速度UP! ザラつき感が生むパワー ~ハードミックスの完成へ③~

”息“の2大役割を解説

 tOmozoです。「声区シリーズ」は「声区融合せいくゆうごう」「ミックスボイス」の佳境に突入しました。ミックスボイスのうち「ハードミックス」について、『強いけど裏声にしかならない……』というお悩みの解決方法を、まずは第58回にて一挙に紹介しました(‘ω’)ノ。

裏声→地声アイテム一覧

(1)鼻音でモワっと→ネチっと:第59回
(2)倍音でキラキラさせる:第59回
(3)速い呼気で声帯をなびかせる:今回
(4)エッジボイスで乾かし焦がす:前回
(5)筋連動による声門閉鎖で補強する


 今回は(3)速い呼気こきについての詳細解説になります。


息は「吐息」と「呼気」に分ける

 発声に必要不可欠な”息“ですが、2つの役割を持たせると的確なコントロールが可能です。

①裏声成分としての「吐息といき(感)」
②地声成分としての「呼気こき(圧)」

 これまでの連載でどちらも触れてきましたが、ここで両者を比較しつつ整理していきましょう。①は実際の息漏れとして感じれる部分なので口唇こうしん周辺で認識できます。②は身体感覚で一種の負荷感として感じられる部分なので声帯せいたい周辺で認識できます。感覚を「ゾーン分け」すると以下のようになります。

【発声における“息”の役割2つ】
【発声における“息”の役割2つ】

 前回は「抵抗圧ていこうあつを高め、エッジボイスの“絞り感”で地声らしく」を紹介しましたが、今回は「呼気圧こきあつを高め、ウィスパーボイスの“ザラつき感”で地声らしく」仕上げる方法になります。


ハードの材料に「吐息感→摩擦感」

ヘッドボイスは強い裏声にしかならない

 まず、裏声発声が上手になるとハードミックスが難しくなるケースが多々あります。特にヘッドボイスが上手になった人あるあるなんですが、ヘッドの特徴である呼気速度こきそくどの遅さが声帯の振動数(と思っていてOKです)を落としてしまい、裏声発声から抜け出せなくなる症状です。

 この時の感覚は“ヘッドの成分であるウェットな「共鳴きょうめいの響き」のせいで、引っかかりがなく”ツルっと滑る”ようなイメージです。解決策は3つで、1つは声区融合に不可欠な「鼻音びおん」、1つは前回解説した「エッジボイス」で、もう1つは「ウィスパー&ファルセット」から導きます。

【「共鳴」の滑り止めになる成分3つ】
【「共鳴」の滑り止めになる成分3つ】

 ウィスパーボイス&ファルセットが個性に持つ「息感」は、条件によっては地声らしさの材料にすることができます。息の流れによって誘発される「ベルヌーイ効果」を生むからです。

声帯を鳴らす”息“=呼気

 声帯は呼気の流れによる「ベルヌーイ効果」によって作動しますので、呼気スピードを上げると声帯が吸い寄せられ、結果地声寄りにすることができます。ヘッドボイスは呼気の流れがゆっくりと停滞しぎみになるため、ウィスパー&ファルセットが持つ息の流れ/呼気圧とはこの意味においては反対の材料となります。

 でも、ウィスパー&ファルセットのままでは裏声寄りになってしまいます。これを地声アイテムにするには更に“条件”が必要です。この2つの主成分は実際に”漏れた息“である吐息といき感」であって、今回必要になるのは”声帯を鳴らす息“である呼気圧こきあつです。

声帯は寄せて息を流す

 呼気を流した時に声帯が離れていれば裏声寄りになり、声帯が寄っていれば地声寄りになります。声帯が“ある程度”離れていればベルヌーイ効果は弱まりますのでウィスパー&ファルセットのままにしかなりません。声帯を“ある程度”寄せた状態で呼気を流すのが重要です。このテーマにおける地声らしさの条件は「”ある程度の“声門閉鎖+呼気圧」です。では“ある程度”とはどの程度で、どうやって用意するのがいいでしょうか?

声門閉鎖はどれくらい?

 ベルヌーイ効果に必要な声門閉鎖は、弱いか強いかで言ったら強いですが、意図的な「閉鎖圧へいさあつ」は“悪い地声”を呼びますので、まず「呼気圧こきあつ」の反対パワーである抵抗圧ていこうあつを用意します。前回初めて紹介しましたが、抵抗圧を上げれば声門閉鎖圧も上がるため、意図的な閉鎖圧の前にまずは抵抗圧!です。

呼気圧の反対「抵抗圧」

【発声の基本原理】
【発声の基本原理】

 抵抗圧の用意は色々な意識や動作によって叶いますが、このケースにおけるお勧めアイテムは、「鼻づまりのフリ」や「嚥下えんげのフリ」です。モノを飲み込む動作により息は止まり、声帯は勝手に閉じます(ラッキー!)。この時生まれる声門閉鎖が一番自然で強いものになります。これらを意識しつつウィスパーするだけで声帯が地声としての振る舞いをしてくれるようになります。

 その結果サウンドには“ザラつき感”や“摩擦感”が生まれます。

摩擦感を出す

 飲み込むフリをキープしつつウィスパーしてみてください。声帯が寄りつつも息が漏れていこうとするため、文字通り摩擦が起こってサウンドにも“ザラつき感”を感じることができます。

①ウィスパー ②ウィスパー+摩擦感 ③ヘッドボイス ④ファルセット ⑤ファルセット+摩擦感

 このザラつき感がヘッドボイスの滑り止めとなり、ハードミックスのアイテムになってくれます。この摩擦感は冒頭の「ゾーン分け」の通り、声帯周辺で感じるものです。

”多く“ではなく”速く“

 抵抗圧やそれによる閉鎖圧が弱くなる、もしくは呼気“量”を増やそうとすると、声帯が開いて息を不必要に漏らしてしまいます。すると摩擦感が無くなり、“サラっ”とした裏声寄りのバランス、つまりウィスパー&ファルセットに戻ります。「ゾーン分け」の体感も実際に口唇周辺で感じる「吐息感」の方が強くなります。

【呼気は地声・裏声両方のアイテム】
【呼気は地声・裏声両方のアイテム】

まとめ

 以上をまとめると、このテーマにおけるハードミックスに必要な条件は、「ある程度の声門圧へいさあつ呼気圧こきあつ」の認識をアップグレードさせ、「強めの抵抗圧ていこうあつ呼気速度こきそくどとなります。「声帯の位置と張度」問題、「呼気の量と速度」問題は表裏一体なので、迷わないようにしましょう。
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次回予告

 前回のエッジボイスでも、今回のウィスパー&ファルセットによる摩擦感も、結局は「抵抗圧」が重要な存在となります。ということで次回は「抵抗圧」の詳細解説をします(‘ω’)ノ。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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