【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第48回:チェストボイスは「頬骨鳴らし」で音域拡大!【解説編】

2025.01.8

“悪い地声”になりやすい換声点付近

 tOmozoです。「声区シリーズ」、今回はチェストボイスで「換声点かんせいてん」まで音域を拡大させる練習メニューの【解説編】となります(‘ω’)ノ。

換声点とは?

 まず「換声点かんせいてん」とは地声から裏声に切り替わりやすい/切り替えたくなる高さのことで、大体の発声トラブルが生まれるのがこの地点です。
 平均的には、成人男性では高いミ(E4)、成人女性では高いラ(A4)あたりにあります。もちろん個人差がありますので、自分の換声点がどこにあるかを見極めながら、今回は無理のない範囲で/つまり換声点を無理に越えないように取り組んでみてください。
 換声点に関する詳しい解説と換声点を突破する練習はミックスボイスに取り組む回にやります。その効果を実感するためにはむしろ今回は失敗しておいた方が良いとも言えますので、今回だけで何とかしようとしなくてOKです(‘ω’)ノ。

 前回は”出しやすい地声の高さ“で基本的な地声発声の組み立てをする練習メニューを紹介しました。

基本のアイテムと組立順序

(1)「マストの共鳴」の用意
(2)「ウィスパー」で声帯を離し脱力
(3)「共鳴」と「エッジ」で呼気バランス調整
(4)「鼻音」or「吸気」を作って準備完了
(5)「喉ちんこの引き合い」で倍音生成
(6)「喉仏下げ」で音色・バランス調整
(7)「腹圧」と「重心上げ NEW!」をしつつ高音域へ


音域拡大と追加調整

 安全に発声を組み立てる発想としては、“まずは声帯から遠いところに力を入れてみる”のが吉です。声帯から遠い位置をいじることになるため“副作用”が起こりづらく、アクティブな作業ながらも安全なアプローチです。

……

(7)「腹圧」と「重心上げ NEW!」をしつつ高音域へ

 これまでの連載の言葉を使うと「腹圧」は「お腹に力を入れる」ことで、「重心上げ」は「こめかみ上げ」の作業になります。

【歌声を上下から挟む・包む】
【歌声を上下から挟む・包む】

声は下から支え、上から吊る

 この2つに関しては以下の記事で詳しく解説していますが、これらは“発声が重力によって落ちやすくなるのを持ち上げて、発声の通過点/重心を高く保ってくれる”ような効果を持っています。“悪い地声”は往々にしてこの「発声の重心」が低い状態であると言えます。

関連記事:第19回:声は下から支え、上から吊る【“抜ける”歌声の改善法 part2・3/9】

「重心上げ」に集約!

 この連載が進むにつれ、これまでにいろいろな発声調整アイテムが出てきました。ここでそれらを発声の重心を持ち上げてくれるアイテムに“まるっと”まとめてしまいたいと思います。上記の「こめかみ上げ」に加えて用意するべき感覚は「頬骨を鳴らす」というものです。この2つには以下にまとめた作業が内包される形になり、重心上げの手っ取り早いアイテムになってくれます。

「こめかみ上げ」&「頬骨鳴らし」の効果

「喉ちんこ上げ」:パワフルでクリアな発声の基本動作。
「鼻に当てる」:倍音生成する作業とその歌声を鼻先に押し込む感覚。
「鼻に溜める」:共鳴生成の基本「マストの共鳴」は歌声を“フワッと”持ち上げる。
「鼻にかける」:鼻音生成の動作「喉ちんこ下げ」の感覚も多少含んでいる。
「喉ちんこの引き合い」:「喉ちんこ上げ/下げ」を含むということはこれも内包される。

 イラストにまとめます。

【発声の「重心上げ」にベクトル2本】
【発声の「重心上げ」にベクトル2本】

「骨振動」を「鼻に当てる」

 倍音生成をすると実際に物理現象として「骨振動こつしんどう」が強く起こりますが、通常はその感覚は上顎から鼻先に感じることができ、これを「鼻に当てる」と呼んでいます。

「頬骨を鳴らす」へ

 その振動の感覚を「頬骨ほおぼねの高さ/目元の高さまで鳴らす」意識を持つことによって、発声の重心を高く保ち、力強くも“悪い地声”が出てこないように調整することできます。動作としては小鼻のあたりから目元に力を入れようとします。そうすると「こめかみ上げ」の作業とも「筋連動きんれんどう」が生まれ、「発声の重心上げ」が強固なものになります。
 この重心の高さはチェストボイス発声において本当に重要な要素です!振動の感覚が鼻の下で留まるか頬骨まで上がるかによって音色的にも身体感覚的にも相当の差が生まれますよ。

「倍音」も「共鳴」も「鼻音」も頬骨に集める

 そして頬骨周辺には「マストの共鳴」の重心も、ミックスボイスで重要となる「鼻音を通すルート」も重なってくるため、「頬骨を鳴らす」という意識でチェストボイス発声の基本が一か所に集約できる形となります。

「発声の重心上げ」のエクササイズ

 上記ポイントを抑えながら、換声点付近まで音程をなめらかにスライド/ポルタメントさせて上げていきます。

①チェストボイスで換声点までスライド

高い音は「声量上げ」でなく「重心上げ」を

 この時「音を高くするにつれて声量を上げたくなる」と思います。“声が足りないから声量アップしたい”人はそれでもOKですが、“悪い地声”になる人は各所の過剰なパワーが原因ですので、なるべく歌い出しのパワーをキープするように調整します。やるべきはあくまで「発声の重心上げ」です。

「頭のてっぺんに声を当てる」

 よく学校教育で言われる「頭のてっぺんに声を当てる」は、以上で説明した仕組みをかなり感覚的にした指導方法の1つです。これは発声のベクトルを1本だけ用意するような作業です。

【頭のてっぺんに当てる】
【頭のてっぺんに当てる】

 でもこれでは前後のバランス調整ができないために、筆者は「頬骨鳴らし」で前方に1本、「こめかみ上げ」で後方に1本、合わせてベクトル2本を用意し、生徒さん自身でバランス調整が可能になるように指導しています。
 これを細部まで言語化できるのが筆者の強みではありますが、僕自身も生徒さんに「頭に力を入れて歌ってください!」と伝えることもあります(笑)。

……

(8)「鎖骨上のせり出し NEW!」でバランス維持

 次回にも登場しますのでここでは簡単に紹介して終わります。「鎖骨上さこつうえのせり出し」と呼んでいる発声動作もアクティブな状態をキープした調整アイテムです。広い声道確保を図りつつ、声門閉鎖圧せいもんへいさあつ呼気圧こきあつを強めにセットし、過剰閉鎖かじょうへいさを防ぐために若干のウィスパーの感覚も添える、ような形になります。

①「鎖骨上のせり出し」の基本発声で各母音

 これは“悪い地声”に対して「毒をもって毒を制す」ようなアプローチになります。

【鎖骨上のせり出し】
【鎖骨上のせり出し】


次回予告

 ということで次回は「鎖骨上さこつうえのせり出し」について詳しく解説しながら、筆者が“悪い地声”とも呼んでいる「喉締のどじめ声」や「張り上げ声」が出てこないようにチェストボイスの練習をする回としたいと思います(‘ω’)ノ。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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