【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
目次
“悪い地声”になりやすい換声点付近
tOmozoです。「声区シリーズ」、今回はチェストボイスで「換声点」まで音域を拡大させる練習メニューの【解説編】となります(‘ω’)ノ。
換声点とは?
まず「換声点」とは地声から裏声に切り替わりやすい/切り替えたくなる高さのことで、大体の発声トラブルが生まれるのがこの地点です。
平均的には、成人男性では高いミ(E4)、成人女性では高いラ(A4)あたりにあります。もちろん個人差がありますので、自分の換声点がどこにあるかを見極めながら、今回は無理のない範囲で/つまり換声点を無理に越えないように取り組んでみてください。
換声点に関する詳しい解説と換声点を突破する練習はミックスボイスに取り組む回にやります。その効果を実感するためにはむしろ今回は失敗しておいた方が良いとも言えますので、今回だけで何とかしようとしなくてOKです(‘ω’)ノ。
前回は”出しやすい地声の高さ“で基本的な地声発声の組み立てをする練習メニューを紹介しました。
基本のアイテムと組立順序
(1)「マストの共鳴」の用意
(2)「ウィスパー」で声帯を離し脱力
(3)「共鳴」と「エッジ」で呼気バランス調整
(4)「鼻音」or「吸気」を作って準備完了
(5)「喉ちんこの引き合い」で倍音生成
(6)「喉仏下げ」で音色・バランス調整
(7)「腹圧」と「重心上げ NEW!」をしつつ高音域へ
音域拡大と追加調整
安全に発声を組み立てる発想としては、“まずは声帯から遠いところに力を入れてみる”のが吉です。声帯から遠い位置をいじることになるため“副作用”が起こりづらく、アクティブな作業ながらも安全なアプローチです。
……
(7)「腹圧」と「重心上げ NEW!」をしつつ高音域へ
これまでの連載の言葉を使うと「腹圧」は「お腹に力を入れる」ことで、「重心上げ」は「こめかみ上げ」の作業になります。
声は下から支え、上から吊る
この2つに関しては以下の記事で詳しく解説していますが、これらは“発声が重力によって落ちやすくなるのを持ち上げて、発声の通過点/重心を高く保ってくれる”ような効果を持っています。“悪い地声”は往々にしてこの「発声の重心」が低い状態であると言えます。
関連記事:第19回:声は下から支え、上から吊る【“抜ける”歌声の改善法 part2・3/9】
「重心上げ」に集約!
この連載が進むにつれ、これまでにいろいろな発声調整アイテムが出てきました。ここでそれらを発声の重心を持ち上げてくれるアイテムに“まるっと”まとめてしまいたいと思います。上記の「こめかみ上げ」に加えて用意するべき感覚は「頬骨を鳴らす」というものです。この2つには以下にまとめた作業が内包される形になり、重心上げの手っ取り早いアイテムになってくれます。
「こめかみ上げ」&「頬骨鳴らし」の効果
「喉ちんこ上げ」:パワフルでクリアな発声の基本動作。
「鼻に当てる」:倍音生成する作業とその歌声を鼻先に押し込む感覚。
「鼻に溜める」:共鳴生成の基本「マストの共鳴」は歌声を“フワッと”持ち上げる。
「鼻にかける」:鼻音生成の動作「喉ちんこ下げ」の感覚も多少含んでいる。
「喉ちんこの引き合い」:「喉ちんこ上げ/下げ」を含むということはこれも内包される。
イラストにまとめます。
「骨振動」を「鼻に当てる」
倍音生成をすると実際に物理現象として「骨振動」が強く起こりますが、通常はその感覚は上顎から鼻先に感じることができ、これを「鼻に当てる」と呼んでいます。
「頬骨を鳴らす」へ
その振動の感覚を「頬骨の高さ/目元の高さまで鳴らす」意識を持つことによって、発声の重心を高く保ち、力強くも“悪い地声”が出てこないように調整することできます。動作としては小鼻のあたりから目元に力を入れようとします。そうすると「こめかみ上げ」の作業とも「筋連動」が生まれ、「発声の重心上げ」が強固なものになります。
この重心の高さはチェストボイス発声において本当に重要な要素です!振動の感覚が鼻の下で留まるか頬骨まで上がるかによって音色的にも身体感覚的にも相当の差が生まれますよ。
「倍音」も「共鳴」も「鼻音」も頬骨に集める
そして頬骨周辺には「マストの共鳴」の重心も、ミックスボイスで重要となる「鼻音を通すルート」も重なってくるため、「頬骨を鳴らす」という意識でチェストボイス発声の基本が一か所に集約できる形となります。
「発声の重心上げ」のエクササイズ
上記ポイントを抑えながら、換声点付近まで音程をなめらかにスライド/ポルタメントさせて上げていきます。
高い音は「声量上げ」でなく「重心上げ」を
この時「音を高くするにつれて声量を上げたくなる」と思います。“声が足りないから声量アップしたい”人はそれでもOKですが、“悪い地声”になる人は各所の過剰なパワーが原因ですので、なるべく歌い出しのパワーをキープするように調整します。やるべきはあくまで「発声の重心上げ」です。
「頭のてっぺんに声を当てる」
よく学校教育で言われる「頭のてっぺんに声を当てる」は、以上で説明した仕組みをかなり感覚的にした指導方法の1つです。これは発声のベクトルを1本だけ用意するような作業です。
でもこれでは前後のバランス調整ができないために、筆者は「頬骨鳴らし」で前方に1本、「こめかみ上げ」で後方に1本、合わせてベクトル2本を用意し、生徒さん自身でバランス調整が可能になるように指導しています。
これを細部まで言語化できるのが筆者の強みではありますが、僕自身も生徒さんに「頭に力を入れて歌ってください!」と伝えることもあります(笑)。
……
(8)「鎖骨上のせり出し NEW!」でバランス維持
次回にも登場しますのでここでは簡単に紹介して終わります。「鎖骨上のせり出し」と呼んでいる発声動作もアクティブな状態をキープした調整アイテムです。広い声道確保を図りつつ、声門閉鎖圧と呼気圧を強めにセットし、過剰閉鎖を防ぐために若干のウィスパーの感覚も添える、ような形になります。
これは“悪い地声”に対して「毒をもって毒を制す」ようなアプローチになります。
次回予告
ということで次回は「鎖骨上のせり出し」について詳しく解説しながら、筆者が“悪い地声”とも呼んでいる「喉締め声」や「張り上げ声」が出てこないようにチェストボイスの練習をする回としたいと思います(‘ω’)ノ。
本コラムの執筆者
tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
本コラムの記事一覧
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第1回 連載スタートにあたって
2024.02.7
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第2回「理論と感覚」の「考え方」
2024.02.14
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第3回【歌で大事なのは?】理論vs感覚~感覚が理論を越えるとき~
2024.02.21
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第4回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part1/5 -音高変化編-
2024.02.28
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第5回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part2/5 -音色変化編-
2024.03.6
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第6回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part3/5 -音量・グルーヴ変化編-
2024.03.13
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第7回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part4/5 -グルーヴ変化編-
2024.03.20
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第8回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part5/5 -リズムとテンポ変化、応用表現編-
2024.03.27
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第9回 これまでの連載内容まとめと補足記事紹介〜本連載の概要、歌における理論/感覚の考え方、歌い方の種類を紹介〜
2024.04.3
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第10回 歌声が詰まる原因6パターン【ボイトレ】
2024.04.10
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第11回:「喉詰め声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part1/6】
2024.04.17
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第12回:「喉上げ声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part2/6】
2024.04.24
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第13回:「息・鼻が詰まる感覚」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part3/6】
2024.05.1
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第14回:「鼻にかかった声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part4/6】
2024.05.8
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第15回:重要回「声が張り付く」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part5/6】
2024.05.15
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第16回:子音の発音は味方にも敵にもなる【歌声が詰まる原因 part6/6】
2024.05.22
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第17回:歌声が「抜ける」原因と力強く鍛えるボイトレ9選
2024.05.29
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第18回:声帯を閉じる筋力UP【“抜ける“歌声の改善法 part1/9】
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第19回:声は下から支え、上から吊る【“抜ける”歌声の改善法 part2・3/9】
2024.06.12
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第20回:「鼻にかける」で粘り気のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part4/9】
2024.06.19
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第21回:「鼻にためる」で密度のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part5/9】
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第22回:重要回「喉ちんこの引き合い」でツヤのある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part6/9】
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第23回:-続-「喉ちんこの引き合い」を模型で説明【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅱ/9】
2024.07.10
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第24回:-続-「喉ちんこの引き合い」/倍音生成=「鼻を鳴らす」【“抜ける”歌声の改善法 part6-Ⅲ/9】
2024.07.17
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第25回:子音の圧縮や表情筋の稼働で「声を集める」【“抜ける”歌声の改善法 part7/9】
2024.07.24
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第26回:声量アップに腹式呼吸!【“抜ける”歌声の改善法 part8&9 /9】
2024.07.31
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第27回:2つの声の響き「共鳴」と「倍音」をマスター!
2024.08.7
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第28回:「共鳴」とは?基本の作り方を解説!
2024.08.14
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第29回:「共鳴」をヘッドボイスで極める!共鳴量による感覚の違いを可視化
2024.08.21
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第30回:「共鳴」をチェストボイスに応用!最低限必要な『マストの共鳴』とは?
2024.08.28
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第31回:『マストの共鳴』でミックスボイスの下地が整う!「鼻に○○る」などとの関係も
2024.09.4
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第32回:ファルセットやウィスパーボイス作りにも「共鳴」の響きが必要!
2024.09.11
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第33回:声の「倍音」は作れる!声門閉鎖の上位互換「喉ちんこの引き合い」を解説
2024.09.18
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第34回:声門閉鎖だけでは「倍音」は作れない……「喉ちんこの引き合い」で倍音生成ができる証明!
2024.09.25
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第35回:息と声帯と倍音の関係を「ホームの白線の外側に立つ」で考える
2024.10.2
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第36回:“弱く閉じる? 強く開く?” 声門閉鎖の「位置と強度」で完全無欠なコントロールを!
2024.10.9
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第37回:呼気圧の「量と速度」で完全無欠な声帯コントロールを!
2024.10.16
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第38回:ミックスボイスへと繋がる!「共鳴」と「倍音」まとめ
2024.10.23
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第39回:料理に例える歌声の“成分”まとめ!声区の作り分けに向けて
2024.10.30
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第40回:○○ボイス〜「声区」発声の分類を一挙紹介!
2024.11.6
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第41回:ヘッドボイスとは“共鳴声”である【解説編】
2024.11.13
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第42回:ヘッドボイスの練習メニュー【実践編】
2024.11.20
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第43回:ファルセット・ウィスパーとは“息混ぜ声”である【解説編】
2024.11.27
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第44回:息混ぜ声①ウィスパーボイスの練習メニュー【実践編】
2024.12.4
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第45回:息混ぜ声②ファルセットの練習メニュー【実践編】
2024.12.11
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第46回:チェストボイスとは“倍音声”である【解説編】
2024.12.18
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第47回:チェストボイスの練習メニュー【実践編】
2024.12.25
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第48回:チェストボイスは「頬骨鳴らし」で音域拡大!【解説編】
2025.01.8
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第49回:「鎖骨上のせり出し」でチェストボイスを最短ルートで習得!【実践編】
2025.01.15