【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

第42回:ヘッドボイスの練習メニュー【実践編】

ヘッドボイスにまつわる練習

 tOmozoです。「声区せいくシリーズ」、前回は「共鳴きょうめい」を主成分に持つ「ヘッドボイス」について【解説編】をお届けしました。今回はヘッドボイスにまつわる発声練習メニューを紹介する【実践編】になります(‘ω’)ノ。

【声区ーヘッドボイス】
【声区ーヘッドボイス】

1.ヘッドボイスを作るための練習
2.ヘッドボイスを応用する練習
3.ヘッドボイスで声区融合の練習

 の三本立てです。


1.ヘッドボイスを作るための練習

(1)“散らすvs溜める”の練習

①sa~ha~で漏らす ②taッpaッ ③ba(n)ba(n) ④ヘッドボイス

 ヘッドボイスの完成には、共鳴きょうめいを“溜める”作業が一番重要です。声の”溜まりvs散り“で見ると、ヘッドボイスの対極にあるのはファルセットと言えます。あえて反対の性格を持つ発声アイテムを比較すると感覚の違いを体感しやすくなります。溜める場所は「鼻腔びくう」です。「鼻にためる」練習についての詳しい解説は以下をご参照ください。
第21回:「鼻にためる」で密度のある歌声に【“抜ける”歌声の改善法 part5/9】

【共鳴の作り方「鼻にためる」】
【共鳴の作り方「鼻にためる」】

(2)“深く・暗く”の練習

①深くヘッドボイス ②あえて浅く練習

ケースA:共鳴は響かせるための空間である「共鳴腔きょうめいくう」が広いほど”深く”“暗く”なります。共鳴腔の拡大には「喉仏下げ」をします。これを誘発するために低音域に潜ってから高音域にスライドさせます。「喉仏下げ」の練習についての詳しい解説は以下をご参照ください。
第12回:「喉上げ声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part2/6】

①声門閉鎖が強くて”詰まる“ ②出だしをウィスパーで

ケースB:注意して欲しいのは“太い”をイメージすると地声成分が強くなり過ぎてヘッドボイスの音域まで上がれなくなる可能性が出てくるので、この場合はウィスパー気味からスタートした方が良いでしょう。

(3)“響きぎっちり”の練習

①理想の響き ②”抜け“ている発声 ③喉ちんこの引き合い「ng~nga-」

ケースA:②の「喉仏下げ」で共鳴腔が広がると、“広がっているけど密度の薄い状態”に陥りやすくなります。この場合は筆者提唱の「喉ちんこの引き合い」をします。事実、上手く行くと「喉ちんこ(軟口蓋なんこうがい)」が張った感覚を得ることができます。
関連記事:「喉ちんこの引き合い」記事まとめ

①「喉ちんこの引き合い」で芯が入り地声寄りに ②”あくび“で中和

ケースB:「喉ちんこの引き合い」をするとその人によっては共鳴よりも声の芯(つまり地声成分)の方が補強されてしまうケースがあります。この場合は既にパワーアップしつつ軟口蓋が下がり気味の状態ですので、脱力を意識して「喉ちんこ上げ」をします。関連記事内で紹介している「あくびの再現」などが有効です。
第14回:「鼻にかかった声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part4/6】


2.ヘッドボイスを応用する練習

(1)滑らかな歌い方に最適

①「フォール」で音階を下行 ②「ライズ」で音階を上行

 滑らかに繫げて歌うようなフレージングにはヘッドボイスでの練習が有効です。他の声区ではやりづらい理由がそれぞれありますがここでは割愛します。音と音の間を、音高を滑らかに下げる「フォール」と滑らかに上げる「ライズ」で繫げます。

(2)“切る”歌い方にも

①切れて”散り“やすい発音のフレーズ ②共鳴の感覚で”埋める“

 逆に音を切るような歌い方の時には、“声が散る”“声が細くなる”“重心も音程もブレる”状態に陥りやすくなるので、そんな時にはヘッドボイスが持つウェットな共鳴の感覚で“鼻先に声を埋める”と良いです。発声の重心である鼻先から頬骨に声を集めやすいのがヘッドボイスです。


3.ヘッドボイスと声区融合への練習

(1)ヘッドボイスで音域拡大

①上下運動で緊張を緩和しながら高音練習

 裏声での音域を拡大させる場合、まずはヘッドボイスが上手にできることが最初の課題になります。理由は長くなるので割愛しますが、フライパンに油を引くような作業と言えます。現状で出しやすい高さ+αの音域まではヘッドボイスが効果てきめんです。それ以上は他の声区にもヒントがあります。

(2)ヘッドボイスで声区融合

①地声と裏声がキッパリ分かれるパターン ②ヘッドボイスで滑らせる

 声区融合をする時、「地声と裏声の音域を滑らかに繫げる」という場面において比較的簡単な方法が、「極力全ての音域をヘッドボイスで歌う」というものです。出だしは「チェストボイス」でスタートしたとしても、共鳴たっぷりにしてすぐにヘッドボイス寄りに補正していきます。

【悪い地声の中和剤になる裏声成分3つ】

 するとウェットな共鳴の響きが“硬くて乾いた悪い地声”の成分を抑える形になり、“ツルっと”“トゥルっと”裏声に導いてくれます。上手く行けば“声帯の稼働感”を、チェストボイスではアクティブに、ヘッドボイスではノンアクティブに感じることができます。


次回予告

 声区融合に関しては声区の数だけアプローチがあります。今回はヘッドボイスを用いた“裏声寄りに整える”融合の方法を紹介しました。各声区それぞれで融合の方法を紹介していきますのでお楽しみに(‘ω’)ノ。
 次回はもう1つの裏声「ファルセット」についての【解説編】をお届けする予定です。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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