
【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
目次
最後の仕上げ「エッジボイス」を解説
tOmozoです。「声区シリーズ」は「声区融合」「ミックスボイス」の佳境に突入しました。ミックスボイスのうち「ハードミックス」について、『強いけど裏声にしかならない……』というお悩みの解決方法を、前々回は一挙に紹介し、前回は(1)鼻音と(2)倍音についての詳細解説をしました(‘ω’)ノ。
裏声→地声アイテム一覧
(1)鼻音でモワっと→ネチっと
(2)倍音でキラキラさせる
(3)速い呼気で声帯をなびかせる
(4)エッジボイスで乾かし焦がす
(5)筋連動による声門閉鎖で補強する
今回は(3)速い呼気と(4)エッジボイスについての詳細解説の予定でしたが、(4)についてのみとします。
エッジボイスとは?
エッジボイスとは、“ジリジリ”“ブチブチ”としたノイズの一種で、一般的には最低音域の発声で現れるものです。
エッジボイスの役割
①音色としてのアクセントに
②発声バランスを整える材料に
エッジボイスの使い道は2つあります。1つは歌唱中の音色のアクセント=表現における“味”として良く使われます。もう1つは発声の調整剤としての役割です。
エッジボイス=あぶり〇〇

エッジボイスは例えるなら”バーナーで焦げ目を付ける“ような効果があります。焦げ目が付いたことによって見た目や味が変化することは、エッジボイスが音楽的な味付けになることに似ています。
それから、表面を焦がしたことによってカリカリの層ができて内側の食材が閉じ込められることは、エッジボイスが過剰な呼気圧などの抑止力になることに似ています。
エッジボイスの作り方
(1)呼気を減らす
エッジボイスの1つの条件が、呼気量が少ないことです。声帯に当たる息が減ると、声帯が空回りをするような形でエッジボイスを生みます。呼気を減らせばいいので、最初は肺から呼気が無くなるまでロングトーンを続け、自然に呼気が無くなるのを待ちます。そうすると少し狙いとは違うサウンドになる可能性はありますが、エッジボイスが勝手に出てきてくれます。コツは呼気以外のエネルギーは落とさないようにすることです。そのエネルギーが②になります。
(2)強い声門閉鎖⇒抵抗圧!
これはボイトレ全体におけるキモなんですが、「強い声=強い声門閉鎖」という数式は結果としては合っていますが、この強い声門閉鎖を作り出すのは強い「抵抗圧」であるべきということです。

エッジボイスも派手な音なので勘違いされやすいですが、大事なのは抵抗圧の方です。この「抵抗圧」については別の機会に詳しく解説し、今回はエッジボイスに特に関わるアイテムを2つ紹介します。
エッジボイスを作る抵抗圧①
エッジボイスを生むパワーで一番効果があるのは「軟口蓋(喉ちんこ)上げ」です。軟口蓋を最大限上げることによって息は止まり、結果として声門閉鎖も勝手に必要量が作られます。そして息が止まる、ということは(1)呼気を減らす、の条件も自動的に整うのです。軟口蓋の上げ方は以下の記事をご参照ください。
関連記事:第14回:「鼻にかかった声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part4/6】
エッジボイスを作る抵抗圧②
そしてもう1つは①軟口蓋上げ、と大きく関わる動作になる「吸気発声」です。
軟口蓋上げがしっかりできるようになったら、あとは実際に吸う動作でもって発声をします。徐々に空気を減らしながら声帯(正確には「仮声帯」)を寄せていくと「吸うエッジボイス」を作れます。通常の「吐くエッジボイス」を作るために「吸うエッジボイス」を用意する、という関係性になりますが、慣れると両者はほぼ同じ感覚で出すことができます。
吸気発声は抵抗圧を最大限高めてくれるアイテムです。これによって声帯位置は勝手に閉じ、声帯張度が勝手に上がります。するとエッジボイスはしっかり”ブチブチ“と鳴ってくれます。意図的に声門閉鎖を強めると、エッジボイスは潰れてしまい上手く鳴りません。
吸気発声についても後日詳しく解説しましょう。
エッジボイスと声区融合
エッジボイスは「声帯張度」が高く、「呼気量」が少ないことが条件になります。ということは以下のようなケースで役に立ちます。
(1)「地声の張り上げ」を改善したい時
”悪い地声“の1つ「張り上げ声」は、過剰な呼気圧が原因の1つとなるため、エッジボイスを常に鳴らそうとする感覚で歌うことで自然と収まります。
(2)裏声が力強いミックスボイスにならない時
呼気量の多さや声帯張度の弱さによって、ハードミックスにならないことは良くあります。つまりはファルセットやヘッドボイスから抜け出せないということです。ちゃんと強いけど裏声のまま…の状態に陥ったら(そこまで整えれるようになったら)エッジボイスが地声らしさの突破口になってくれます。

このようにエッジボイスも単なる音色のアクセントだけでなく、声区を調整する“成分”にすることができますよ(‘ω’)ノ。
次回予告
次回は今回見送った(3)呼気の速さについて、これまでの情報も整理しながら詳細解説したいと思います(‘ω’)ノ。
本コラムの執筆者

tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
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