【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」

tOmozo

○○ボイスの駆使で発声マスターになろう

 tOmozoです。今回から本格的に「声区せいくシリーズ」に突入していきます。「○○ボイス」などの発声の分類である「声区」や、その声区同士を繫げたり混ぜたりする「声区融合せいくゆうごう」は、皆さんがボイトレをやる上で一番興味関心のある部分になっていると思います。

 この連載で扱う声区は主に以下になりますが、早速それぞれがどんな特徴を持つのかを簡単に整理していきましょう。

(1)チェストボイス
(2)ヘッドボイス
(3)ウィスパーボイス
(4)ファルセット
(5)エッジボイス
(6)ミックスボイス

【各声区の発声感覚と成分のイメ―ジ】
【各声区の発声感覚と成分のイメ―ジ】

 “発声はバランスだ”と言いますが、声区融合をして完成させる「ミックスボイス」は、特にバランスを取らなければならない”歌声の成分”が多くなります。前回まではその”成分”の視点から各声区にも触れる書き方をしてきましたが、今回からは声区視点からの書き方になります。


各声区の簡単まとめ

 各声区の特徴を『キーポイント』として簡単に紹介します。次回の連載からこの点についても詳しく解説していきます。

【声区表 詳細ver.】
【声区表 詳細ver.】

(1)チェストボイス

 いわゆる「地声」です。筆者は上質なものを「チェストボイス」、発声トラブルを引き起こしている・または引き起こしそうな状態のものを「悪い地声」と呼んだりします。

チェストボイス→ミックスボイス(ハードミックス)へ

キーポイント

・チェストボイスらしさを作る成分は?「倍音の響き」
・「声門閉鎖が強い声」と思っていると問題が起こりやすい

(2)ヘッドボイス

 「ヘッドボイス」は裏声に分類されるものの1つで、いわゆる“響く裏声”です。これまでも“オオカミの遠吠えの鳴きマネ”で紹介しました。ウェットで広がりのある響きを持つのが特徴です。「発声を極めるならまずヘッドボイスを極めるべき」と言えるほど重要な“成分”を多く含んでいます。

ヘッドボイス→チェストボイス(柔らかチェスト)へ

キーポイント

・ヘッドボイスらしさを作る成分は?「共鳴の響き」
・ヘッドボイスを完成させる発声動作は?「鼻に溜める」

(3)ファルセット

 「ファルセット」は裏声に分類されるものの1つで、“吐息成分が多い裏声”です。昔(クラシックが主流の時代)では、未鍛錬で声門閉鎖が弱いために起こる“息漏れ声”のことを指しましたが、現在のポップスでは“息漏らし声”として積極的に使われています。

キーポイント

・吐息成分を上手く混ぜるコツは?「息を温める、湿らせる」

ウィスパーボイス→ファルセットへ

(4)ウィスパーボイス

 「ウィスパーボイス」はファルセットの地声版と思っていてOKです。これも吐息感を“味”にするための積極的な発声として捉えてください。一般的にはウィスパーボイスは声区表には組み込まれませんが、筆者はボイトレの理解がより進むために組み込んで説明しています。

キーポイント

・ウィスパーボイスとファルセットの声区が繋がりやすい

(5)エッジボイス

 “ジリジリ”“ブチブチ”といったサウンドの発声です。エッジボイスは地声の成分なので、裏声を地声寄りに整えたい時などに役立ちます。これもシンプルな声区表には含まれないことが多いでしょう。声区表はたくさんのバージョンがあります。これに関する関連記事は末尾に案内しています。

エッジボイス

キーポイント

・エッジボイスが鳴る条件は?「喉ちんこの引き合い」と「呼気を減らす」こと。

(6)ミックスボイス

 一番声高こわだかに言われている「ミックスボイス」は、裏声を地声のように力強く発声する「ハードミックス」になりますが、その逆の地声を裏声寄りに柔らかく発声する「ソフトミックス」のアプローチも多くの人にとって重要なものになります。

①硬めチェスト→ハードミックス ②柔らかチェスト→ソフトミックス

 声区融合の練習としてよく使われるアプローチは「チェストボイス⇔ヘッドボイス」の移動になりますが、これはこの2声区間の融合が一番難しいからです。なのでこの境目を「ミックスボイス」にして橋渡しをさせる発声処理がしばしば求められています。

キーポイント

・ミックスボイスの素になる発声動作は?「鼻にかける」など。


その他の○○ボイス

 他にも○○ボイスと名前が付く発声があります。

スーパーヘッドボイス

 ヘッドボイスの超高音域発声を「スーパーヘッドボイス」と呼ぶことがあります。

ホイッスルボイス

 ファルセットの超高音域発声を「ホイッスルボイス」と呼ぶことがあります。

 上記2つは確かに声区表に分類されることがありますが、音域に明確な線引きがあるわけでもなく、発声方法が特別変わるわけでもないため、この連載では割愛します。

ハスキーボイス

 「ハスキーボイス」は声区に分類されるものではなく……つまり“発声をどう作るか”ではなく、“もともとの音色おんしょく声色こわいろがどんなものか”を指す言葉です。ザラ感・かすれ感が魅力の声色です。逆に、かすれの無いツルっとしっとりした声色を指す言葉は無いので、筆者はこれを「シルキーボイス」と呼んでいます。作り込むことができる「擬似ハスキーボイス」もありますが、これらについては「音色シリーズ」で解説する予定です。

疑似ハスキー

「声区表」はたくさんある

 声区の分類には色々な考え方があり、発声の状況や音楽ジャンル、指導者によっても色々な分類が使われます。これに関するウンチクは筆者運営のブログで解説していますので興味があればご参照ください。

関連記事:○○ボイスの分類「声区表」がたくさんある例と理由と使い方


次回予告

 次回から各声区の特徴と作り方を詳しく解説していきます(‘ω’)ノ。「発声を極めるならまずヘッドボイスを極めるべき」ということで、まずはヘッドボイスからいきましょう。

本コラムの執筆者

tOmozo

岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。

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