【連載】「理論・感覚・考え方も磨くヴォーカルトレーニング」
tOmozo
第43回:ファルセット・ウィスパーとは“息混ぜ声”である【解説編】
2024.11.27
目次
“息混ぜ声”は声を作り、歌を彩る
tOmozoです。「声区シリーズ」、ヘッドボイスに続いて紹介するのは「ファルセット」と「ウィスパーボイス」の【解説編】です。2つとも“吐息”が主成分になる発声です。ファルセットは裏声でありウィスパー(ボイス)は地声ですが、両者はほど同等に扱うことができるため、まとめて紹介します(‘ω’)ノ。
息混ぜ声の基本情報
1.2つの音色は同じく「吐息感」
ファルセット、ウィスパーともに「吐息/呼気」の成分が音色の個性になります。
この音色/声色のイメージは“優しさ”“爽やかさ”“儚さ”などで、パワフルな歌声とは反対の魅力を持つ、と言えます。
2.”息漏れ声“の市民権
この2つの声区について歴史的な背景を簡単に触れておきます。
(1)ファルセットは未発達の裏声
「ファルセット」とは息混じりの裏声のことですが、かつては“未発達であるがゆえに意図しない息漏れが発生する裏声”という風にネガティブな捉え方で使われていました。これは第一に声量が必要となるクラシック界の発声スタイルに由来します。
(2)ポップス発声にウィスパーも登場
舞台から生身で歌声を届けなければならないクラシックとは違い、それ以外のポップス音楽ではマイクを使います。これにより、声量が出づらいファルセットやウィスパーボイスでも市民権を得ることができ、今では1つの音色として積極的に歌唱に取り入れられています。
(3)“息漏れ声”は“息混ぜ声”に
とはいえ”意図しない息漏れ“は問題です。ファルセットもウィスパーも”息漏れ声“ではなく”息漏らし声“”息混ぜ声“として捉え、積極的にコントロールして使いましょう
歴史的背景に関してのもう少し詳しい解説はこちらをご参照ください。
⇒関連記事:“息漏れ声“ファルセットとウィスパーボイスの市民権
3.息混ぜ声習得のメリット
次はファルセットやウィスパーを発声できるようになることで、ボイトレ全体にどういうメリットがあるのか見ていきましょう。
(1)“押し引き”の“引き”に
“吐息感”を個性に持つこの2つの声区は、1曲を通してずっとその音色をキープして歌っても良いですが、楽曲が持つ強弱に合わせて使い分けるとより効果的で自然な抑揚になります。”押し“てアピールする時には力強いチェスト(ボイス)やヘッド(ボイス)に、“引く”ことで聴き手の気持ちを誘うときにはウィスパーやファルセットにするのは鉄板の表現になります。
⇒関連記事:第5回【目と耳で理解!】歌い方の種類と印象をまとめて紹介!part2/5 -音色変化編-
(2)喉詰め声の解消に
チェストやヘッド発声において、声門閉鎖が強すぎて声が詰まる「喉詰め声」や「硬くて悪い地声」の中和剤になります。声帯は息を混ぜようとすることで開く方に作用しますので、力みによって閉じ過ぎる作用とのバランスを取ってくれます。
⇒関連記事:第11回:「喉詰め声」の治し方を徹底解説!【歌声が詰まる原因 part1/6】
(3)裏声発声の開拓に
裏声発声のための筋肉を稼働させるのに、息混ぜ声が影響を与えます。
(4)声区融合の浸透材にも
「硬くて悪い地声」の中和剤になるように、“地声を裏声寄りに傾ける”作用があり、声区融合を図る時に効果的な材料になります。現にウィスパーからファルセットへの声区移動はかなり容易に可能です。
(5)逆に地声らしさも補強できる
この2つの声区の主成分は「呼気」であり、これまでは裏声らしさを作る“薄め材”としての機能を説明してきましたが、反対に地声らしさを作る材料にもなります。声帯の活発な動きを作るのは呼気の流れによる「ベルヌーイ効果」です。
⇒関連記事:第35回:息と声帯と倍音の関係を「ホームの白線の外側に立つ」で考える
息混ぜ声の条件と作り方
“息混ぜ声”と言っているように、ウィスパーとファルセットの条件は「呼気が多く含まれていること」です。言ってみれば“息を混ぜるだけ”なんですが、吐息を多く混ぜた発声はバランスを崩しやすいのも事実で、対処にはやはりコツがあります。息混ぜ発声のときに起こり得る問題は大体以下のようなポイントになります。
息混ぜ発声で良く現れる課題
(1)呼気量が足りない
(2)呼気速度が速すぎる
(3)気道が狭くて“張り付く”
(4)“吐息感”が出ない
(5)漏らす分だけ抵抗が必要になる
この点の改善方法については、次回の【実践編】にて実際の練習メニューとともに解説をしていきます。共鳴やヘッドボイス、呼気を温める/湿らせる、などの材料が役に立ちます。
息混ぜボイスと声区
息混ぜボイスと声区融合
吐息成分は“薄め材”として「地声を裏声らしく発声するミックスボイス/ソフトミックス」の1つの材料になります。なのでウィスパーとファルセット同士は簡単に繋げることができるし、他の声区間との融合にも役立ちます。
そしてベルヌーイ効果による地声らしさを作る役割もあるということは、「裏声を地声らしく発声するミックスボイス/ハードミックス」の足掛かりになるということです。
この点についても次回の練習メニューに組み込みますのでお楽しみに(‘ω’)ノ。
次回予告
それでは次回、息混ぜ声の練習メニュー【実践編】でお会いしましょう(‘ω’)ノ。
本コラムの執筆者
tOmozo
岩手県田野畑村出身。独学で中学1年の時にピアノ演奏、高校時代から作曲を始める。北海道教育大学大学院音楽教育専修修了。在学時から札幌の自宅で音楽教室を開く。2016年より岩手県盛岡市にてNoteOn音楽指導部を立ち上げ、ヴォイストレーニングだけでなく、ピアノ、作曲などのレッスンを行なっており、各SNSでは演奏やレッスンのコンテンツを投稿している。芸能プロダクションでのトレーナー経験があるだけでなく、作曲、編曲の仕事もしており、TV番組やCMソングなども担当。
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