【インタビュー】高橋 優 新曲「spotlight」制作背景を語る。 “この曲が聴いてくれる人のスポットライトになればいいな”と。『秋田CARAVAN MUSIC FES 2023』への想いも!

取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)

デモ音源ではフィンガースナップを8回くらい重ねた

──イントロから間奏、Aメロやアウトロなど、フィンガースナップが鳴らされていて、ジャケット写真、アーティスト写真でもポーズを取られていますね。

高橋 誰とでもセッションできる曲を書きたいなと思っていたんです。誰とでもっていうのは楽器とか持ってない人でも指を楽器にするというか……。僕、子供がすごく好きなんで、真似してほしいなって。小学校くらいのときに、“これできる?”とか、やった記憶ないですか?

──ありますね。ちっとも鳴らなかったですけど(笑)。

高橋 なかなかできなくて、できる人カッコいいみたいな(笑)。そういう経験のところまで思い出しながら作りました。ライブでフィンガースナップをみんなでやるのは難しいかもしれないですけど、そもそもの“音楽って楽しい!”っていう感じがビジュアルとかアートワークに出たらいいなっていうのは、この曲で僕がスタッフだったり演奏してくれる人たちにリクエストしたことだったんですよ。

──曲作りのどのあたりで、フィンガースナップを入れようと?

高橋 めっちゃ最初のデモの段階から入れてました。イメージとしては、例えば今のこのお話している場所が、友達同士のご飯会だとして、“え、音楽やってんだ? 何かやってよ!”って言われたときに、“じゃあやってみるね”って、デーデケ デデデデ、パチンパチン!(イントロのギターフレーズを口ずさんで指を鳴らす)ってやったら楽しそうじゃないですか。そんなイメージで……まあそのとき僕はひとりでしたけど(笑)。

そんなノリで歌う人が周りを楽しくしてるイメージを持ちながらやっていたら、最初からフィンガースナップがあって。それを録音したんですけど、やっぱりひとりのこの音って全然音として成立してない気がして、編曲のDaichiさん(鈴木“Daichi”秀行)に渡したデモ音源では、フィンガースナップだけで8テイクくらい重ねたものを送りました。

──楽曲自体はどのセクションから作っていきましたか?

高橋 イントロから順番にアコギと歌で作っていきました。で、サビのパターンを4つくらい考えて、その4パターンから自分の中で良いと思うものを選んで作っていった感じでしたね。歌詞は完全にメロを作ったあとだったと思います。

──曲中に何回も韻を踏んでいる箇所が出てきますが、自分として苦労したり、逆にうまくいったなと思ったところは? 自分でうまくいったっていうのはちょっと言いづらいかもしれないですけど(笑)。

高橋 そこ難しいですよね(笑)。うまくいってないっていうのはヘンだし。うまくいったっていうよりは、今回は楽しかったですね、曲を書いていて。ノリを大切にしたっていうか。言葉も、“歌ってて楽しそうな感じ”っていうのをわりとイメージして書きました。この言葉のほうがワクワクするかな?とか。そういう意味では、あんまり難しくはなかったかもしれないですね。もちろん自分としてはうまくいったと思っていますけど。

──基本的には今おっしゃられたようなハートフルかつピースフルな言葉が並ぶ中で、ふと引っかかってくるのが《悲しみと憎しみに身を委ねていたよ 君という名の幸せをさしおいて》というフレーズです。ここでちょっとだけ影が浮かんでくる歌詞ですね。

高橋 そんなことのほうが多いんですよね、僕の場合は。皆さんどうなんでしょうね。何か嫌なことがあると、嫌なことのほうにやっぱり簡単にフォーカスが当たる気がするし、そういうときってもう良いことそっちのけで、“自分ツイてないのかも”とか、“自分の人生ヤバい、超最悪かも”とか、けっこう簡単にそっちにシフトチェンジしちゃう部分がある気がしていて。

で、そういうときって、あんなに“大好き!”とか言ってたり、サイコーって思ってる人たちのことは、全部そっちのけじゃないですか。超独りよがりになって悲しい気持ちとか辛い気持ちの話をするんですけど……。でも、そっちのほうが多い気がするっていうか。デビュー当時からわりとそういうことを無視して明るいほうだけのことを書けないっていうか……。

──どうしてもこのぐらいのワードを入れざるを得ないというか、それが高橋さんのリアリティなんですね。

高橋 それこそスポットライトで言うと、光が当たってる部分っていうのは暗い部分があるから光がすごい貴重なものになるじゃないですか。必ずしも悲しみとか憎しみっていうことを敵対視してるわけでもなく、それもすごく自然なヒトの気持ちだっていう風に僕は思っていて。歌詞を書く際にも、何か投げやりになってるときに、悲しそうな顔してこっち見てる人のことを想像した気がしますね。

自分が意地悪になってて得するのって結局自分じゃないですか。まあ得もしないんですけど、誰かのことを言いくるめてやったり、マウント取ってやったぞ!とかって、その場限りちょっと強くなったような気持ちになるけど、そういうときって、だいたい一緒に遊んでた友達は喜んでなかったり、親や家族は別にそういう自分を見ていたいわけじゃなかったりする。そういうシーンって日常にわりとあるけれど、今は忘れてる人が多い気がするんですよね。マウントを取っちゃわなきゃいけないっていうことに、みんな躍起になってるっていうか。

そういうことに躍起になってる人たちって、大切な人がただ笑顔になってる瞬間のことを一瞬忘れてるのかなって。まあ、僕もしかりです。ムカつくことなんて山ほどあるし。だけど、そういう自分だから歌える部分っていうのを探していくと、《死にたいくらい辛い》とか、そういう言葉が自然と出てくるんですよね。特に“ここで暗いのを入れざるを得ない”とかっていう気持ちは全然なくて、自然にこの曲の中で必要な要素と思って書いた感じですかね。

──この辺りがやっぱり高橋 優たるゆえんだと感じました。で、聴いて実際に歌ってみると、高橋さんとしてはかなり素直なメロディラインで、一回で大体のメロディが覚えやすい気がしました。

高橋 今回はDメロとか、あえてなくて。そんなに深く考えてないですけど、やっぱり根底にあるのが老若男女問わず、ちょっと肩を揺らしたり、それこそスナップしたり手拍子したり、口ずさみやすかったりとか、そういうのは意識した気がしますね。

──なるほど。だからメロディの譜割も1コーラス目と2コーラス目もわりと一定に近かったりというのもあるんですかね。お子さんでも歌える感じっていうのはわかります。

高橋 うん。でも人によりそうだなと思いますね、そこの感想って。この記事を読んで聴いても、“やっぱり高橋 優の曲、難しい!”とか言う人もいそうだし(笑)。どっちに転ぶかは聴いてくれた方の印象によるような気がするんですけど。まあでも僕の中では、最近はいちおう口ずさみやすさを毎回意識してるつもりなんですけどね(笑)。

──AメロやBメロのパートでは、どんなところを意識して歌いましたか?

高橋 アコギのブレイクのときにスナップが入るっていうだけなんですけど、実は1Aではちゃんとブレイクしてるけど、2Aではアコギがブレイクしてなかったりして。そういうちっちゃな、本当に細かい誰も気づかなそうなところの面白いことは、いろいろやってるんですよね。

あと、Daichiさんから上がってきたアレンジの第1校、第2校くらいまでは、けっこうバンドサウンドだったんですよ。しっかりエレキギターの音が鳴ってたり。でも今回はフォーキーにしたくて、キャンプファイヤーを囲んだり、音楽室でギター1本でやっているようなイメージ……僕自身はどっちもあまりやったことないシチュエーションなんですけど(笑)。ライブでもバンドで“うぉー!”ってやるよりは、本当に高橋 優がギター1本持って、“やってみるか、じゃあみんなで!”っていう感じの曲になればいいなと思ってAメロ、Bメロはやってますね。サビでけっこう広がるんですけど。

──そのサビの中では、《出会えたから》のところで1音だけ声を強く張る高めの音使いがあります。ちょっと高い声が出る男性ならば地声でもギリギリ行けるかもしれません。ここ、ファルセットというチョイスもあったりしましたか?

高橋 なんとなく、この曲はファルセットはいらないかなと思いましたね。地声で歌おうっていう、もうそれの一択でした。サビで注意したのは、“音数が増えたい。サビ感を出したい”っていうのは絶対あったんですけど、今回は楽器で音数を増やすことをあまりしたくなくて。それでコーラスを重ねたんですよね。そこで彩りが増えるというか、一気にパーンって音圧が広がる感じにしたいと。上ハモ、下ハモ、“hoo”とかを重ねてもらっています。そこら辺もちょっと“温もり”というか、メロがシンプルでDメロのようなフックがない話に通じるかもしれないんですけど、一番この曲に合ってるアプローチのような気がしたんです。

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