取材・文:田代智衣里(Vocal Magazine Web)
撮影:西槇太一
自分が歌いたいと思っている気持ちに正直になってもいいのかなって
──歌とダンスのバランスに関しては、考え方が変化するタイミングはありましたか?
鞘師 モーニング娘。に入ったときはダンス大好きっ子だったので、ダンスと歌は別ものだと考えて踊ってたんです。でも途中から、歌手としてダンスを踊る場合は“リズムや歌詞をダンスが補っているんだ”という考え方に変化したんですよね。
昔は、ダンスが大好きだから見てほしい!って思ってたんですけど、“作品として魅せるにはそうじゃないんだ”ってグループに入ってから気がつきました。そこから歌のリズムや楽曲の音を自分の身体で表現するにはどうしたらいいのかを考えるようになりました。
──歌手としてのダンスパフォーマンスを意識してからは、ダンスの表現も変わりましたか?
鞘師 質感が本当に変わったと思います。私は留学もしたので、ダンスだけでもやれるパフォーマンスがあったら今後もやっていきたいんですけど、そこでも表現力がすごく大事だと思っています。そういった意味では、歌もやっていることがダンサーとしての自分の強みかなと思います。
──ダンスと語学がメインの留学をする中で、歌う時間はありましたか?
鞘師 歌の分析はしていたんですけど、“歌っていいのかな……”と考えたり、すごくネガティブなモードに入っていました。歌手として復帰することにまだ前向きではなかった時期でした。
──そんな中でも、歌の分析もしていたんですね。
鞘師 歌うのは好きだったんです。だけど、また自分が復帰したときに、歌をやります!って胸を張って言えるかはわからない時期だった。やっぱり、自分の歌に対してすごくコンプレックスが強かったので。正直今もあるんですけど、当時はすごくモチベーションが低い時期でしたね。
──ダンスや語学力が進化していく中で、歌に対するコンプレックスが少し変化することはあったのでしょうか?
鞘師 そこは正直、相乗効果は全然なかったですね。ダンスも厳密に言えば同じなんですけど、歌はすごく気持ちが影響されやすいと思うんです。だから、何か自分の生活とか人生の中で吹っ切れることがないと、また人前でも歌いたいって思えるきっかけがなかったんじゃないかなって。私はそれを人との関わりとか、楽曲を制作していく中でだんだん克服していきました。
──ソロ活動を再開するときに事務所に所属した際には、まず“歌いたい、踊りたい”と伝えたんですよね。もう一度歌いたいと思えるまで、心を動かしたのはどんなことでしたか?
鞘師 休業している間、今までの環境から離れて独りぼっちだと感じることが多かったんです。そのとき、ファンの方がお手紙をくれたり、インターネット上にメッセージを書いてくれたり。私のパフォーマンスを観て試験を頑張れたとか、仕事がうまくいったとか……いろんな方の言葉を見たり、聞いたりしたことですね。
私は人の言葉を素直に受け取れないところがあるんです。ファンの方に“歌が好きだよ”とか“パフォーマンスが好きだよ”と言われても、みんな優しいからそう言ってくれてるんじゃないか、実はいっぱい不満があるのに私に言わないで、良いことばかり言ってくれてるんじゃないか……とか、考えがちだったんです。
──『1st Live&Documentary DAYBREAK』に収録されているライブ本編のMCでも、“タイミングが少しずれていたらこの場があったかわからない”と話していたのが印象的でした。
鞘師 4〜5年ぐらい表立って活動してなかったんですけど、その間もファンの方がメッセージを届けてくれました。歌やパフォーマンスが好きだと言ってくれているのは本当にありがたいことなのに、なんで私はこんなにも素直に受け取ろうとしないんだろう……?って急にハッとして、冷静になったことがあったんです。
“こんなに幸せ者なのになぁ”って思えるようになったんですよね。そうやって本当に思ってもらえてるんだったら、自分が歌いたいと思っている気持ちに正直になってもいいのかなって。