【インタビュー】エッジヴォイスと低音を武器に──。PAREDが切り拓く“艶ある男性ヴォーカリストの声”に満ち溢れた1stアルバム!

2022.03.25

取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)

皆さんがそれぞれに思う“夜の雰囲気”を集めたアルバムになりました。

──1stアルバム『Room Night』は、“夜に聴きたくなる曲”というコンセプトとなっています。

PARED はい。このご時世で、一時期本当に家から出なくなってしまって……。実際、“やるぞ!”っていうのは朝かもしれないですけど、正直、“一番助けてほしい時間”って夜だということが自分の中であったんです。寂しいとか、悲しいとか、夜でも友達と会ったりすると楽しいんですけど、コロナ禍で友達とも会えないとか、いろんな想いが募るのは夜が多くて。

そこで、“どういうアルバムにしよう”と考えたときに、僕と同じように“夜が苦しい人”……。例えば仕事が終わって疲れていたり、ひとりでやることがなくて孤独を感じたりという人も多いんじゃないかなと。その人たちに寄り添うような、一緒に同じ夜を過ごす音楽ができたらいいな。そんなアルバムを作れたらベストだろうなって思ったんです。僕の声も低音なので、夜に聴くと落ち着くんじゃないかな? よく寝られるんじゃないかな?と。たぶん……夜って寝たら勝ちなんで(笑)。その雰囲気を感じられるようにタイトルを『Room Night』にしました。

──作家陣の方には、どんなオーダーをしたんですか?

PARED テーマを提示したうえで歌詞や曲を作っていただいたので、皆さんがそれぞれに思う“夜の雰囲気”を集めたアルバムになりました。夜にもいろいろ時間帯があるじゃないですか。例えば夕方18時も夜になるし、ご飯を食べる前だったら19時とか20時とか。午前4時は朝かもしれないですけど、まだ外は暗いので僕からすれば夜……。

いろんな時間帯によっての夜がたくさんあって、例えば「テレフォン・ラブ」だったら、自分ひとりの時間を過ごす午前0時くらい。「堕天」は夕方というか少し早めの夜に近い。「透明なフィルム」はポップな感じだけど、ひとりで散歩するときにも聴けるからまだ灯りはある……終電がなくなるかどうか?くらいのイメージです。

──1曲目「テレフォン・ラブ」については曲中に“語り”が入っていますが、歌と比べて難しさはありましたか?

PARED 歌も正解がないとは言え、やっぱりキーっていうものがあり、ピッチという正解はあるんですけど、“語り”っていうのは作家さんの意図……“どういう想いで、この語りは作られたんだろう”っていう部分の汲み取りが、ちょっとフワッとしてる感じがあって。(音が)低すぎると本当に“落ちてる夜”に聴こえちゃうし。そうかと言って、あまりにも“語り”に振り過ぎると、歌に戻ったときに雰囲気が持ってかれちゃうのかなあとか。難しさは歌も語りも両方あるんですけど、考えるところが少し違いました。

──なるほど。続く「堕天」では巻き舌を使ったりと、曲中で少し歌い方も変えていますね。

PARED 終わりの部分で《誰が/ために/僕は/泣く》と同じリズムが続くところがあるんですけど、このヴォーカルは(コーラスを重ねるのではなく)メイン1本っていう形で個性をしっかり出していきたいなと思ったんで、同じリズムで違うニュアンスを表現できたらいいなと。そこで同じフレーズでも巻き舌だったり、巻き舌じゃない部分を作りました。“あ、この歌詞だから巻き舌にしてるのかな?”っていうように、聴いてる方が歌詞のイメージを読み取れるような歌い方にしたつもりです。

──資料によれば、「ポラリス」は曲を作ったクラムボンのミトさんが、PAREDさんの声に「内に潜むようなフェティシズムを感じました」と発言されてますね。これ、ヴォーカルのレコーディング前には聞いていたんですか?

PARED レコーディングのタイミングでご本人からお聞きしました。ミトさんのいろんな想いを聞いて、あの歌い方になりましたね。内に秘めたというか、ちょっとドロッとした部分を出したというか。

──歌い上げ過ぎないというか、とても抑えた歌い方ですよね。

PARED 表現としては、ちょっと我慢できそうにないんですけど、それでも自分をしっかりと制御できてる人物像というイメージです。

──わかりやすい喩えです。確かに“我慢してる人”ですよね。歌い手としても、それをすごく感じます。4曲目「透明なフィルム」は最も80〜90年代の香りがする、ザ・シティポップという曲で、むせ返るような色気に満ちています。当時のシティポップ系の楽曲を聴く機会はありましたか?

PARED いや、どちらかと言えば聴いてなかったですね。両親の影響で聴いていたのはサザンオールスターズとか、安全地帯とかでした。

──あ、でもそれは広い意味ではシティポップの範疇ですよね。テンションコードも使うし、色気のあるヴォーカリストだし。

PARED 確かにそうですね。ただこれは僕の課題でもあるんですけど、こういうシティポップ感のある曲は、しっかりとリズムにキメていく、音に歌をはめるイメージがすごく強くて。これまで歌ったことがなかったので勉強になった反面、やっぱり新たな挑戦という感じではありました。

──オリジナル楽曲ではラストになる「ナンセンスゲーム」。ボカロPの“ひとしずく×やま△”さんが書いた曲で、ブラスが効いたとてもリズミカルな曲です。すごくいろんなヴォーカル要素が入っていますが、どうやってこの曲を歌いこなそうと考えました?

PARED 歌詞を読んだ感じでは、主人公は社会の歯車に収まりきってはいるけど、ちょっとひねくれ者というか、しっかりと“人間”している。きちんと仕事をしつつ社会に対する不満などをいろいろ持っているという、もう本当に現代人そのものという感じがしたんです。僕も会社員時代に上司からキツイ言葉をもらって、“もう、マジでうぜぇな!”とか頭の中で思ったりしたときもあったんで、そういう感情を思い出しながら……(笑)。せめて“歌の中ぐらい、ちょっと突っかかってやろうかな”としてる人物のイメージです。そのためにレコーディング中に歌詞をよりキツめの言葉に書き換えたり、ヴォーカルも強めで本当に噛みつくような感じで歌ったところあります。

──後半はカバー楽曲ですが、どういう基準で選びましたか?

PARED 基本的に僕の好きな曲ですが、オリジナル曲と同じく夜のイメージで選んでいます。「ブルーバード」(いきものがかり)は夕方のイメージを持つ人が多いと思うんですけど、僕の中ではもう少し遅めの時間。そこで、ちょっと深みのあるインストにすることによって、“今日頑張った! お疲れ様!”という曲に聴こえるといいなと思っています。「シャンティ(SHANTI)」(wotaku)、「メビウス」(柊キライ)などはダーク感があって、世界のどこかで起きている、“僕たちの知らない夜”をイメージして選曲させてもらいました。

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