【インタビュー】トゲナシトゲアリ 理名(vo)がオリジナルアルバム『棘アリ』をもとに語り尽くす、バンドの歩みと歌の進化

取材・文:鈴木瑞穂(Vocal Magazine Web)

『けいおん!』をはじめ『ぼっち・ざ・ろっく!』など、「音楽と青春」をテーマにしたアニメ作品が話題を集める中、新作アニメ『ガールズバンドクライ』が2024年4月5日より放送開始となった。本作は、アニメ制作会社・東映アニメーション、音楽×クリエイティブカンパニー・agehasprings、レコード会社・ユニバーサルミュージックの三社が手を組みスタートしたプロジェクトだ。

アニメのメインキャスト声優と並行してリアルバンドとして活動するのが、劇中にも登場するガールズバンド、「トゲナシトゲアリ」である。メンバーは井芹仁菜役の理名(vo)、河原木桃香役の夕莉(g)、安和すばる役の美怜(d)、海老塚智役の凪都(k)、ルパ役の朱李(b)の5名で、2021年6月より開催されたオーディション『Girlʼs Rock Audition』で数千人の中から選出された気鋭の顔ぶれとなっている。

公式YouTubeチャンネルには10本以上の楽曲MVが公開されているが、2023年8月公開の「爆ぜて咲く」は1000万回再生を突破するなど、音楽ファンからの注目も熱い。

今回は「トゲナシトゲアリ」からヴォーカルの理名が登場。歌のルーツやオーディション秘話、4月24日発売のオリジナルアルバム『棘アリ』の歌唱表現を掘り下げながら、弱冠16歳の彼女が放つ「才気と歌力」に迫る。【記事の最後に読者プレゼント情報あり】

両親に内緒で「歌ってみた」を上げ始めた

──Vocal Magazine Web初登場ですね。まずは理名さんの歌のルーツから伺えますか。

理名 姉の影響で5歳くらいからピアノを習っていたので、小さい頃からずっと音楽に触れていました。歌に興味を持ったのは小学3年生ぐらいで、祖母にパソコンの使い方を教えてもらってからYouTubeのゲーム実況動画を見漁っていたんですが、そのときに偶然見つけた「千本桜」(WhiteFlame feat. 初音ミク)のMVを観てから歌にハマっていきました。

「千本桜」(WhiteFlame feat. 初音ミク)

──ボカロや「歌ってみた」にルーツをお持ちなんですね。最初はリスナーとして楽しんでいたんですか。

理名 そうですね。YouTubeとか、ニコニコ動画でも観ていました。

──好きなボカロ曲はありますか。

理名 うーん、ありすぎて選べないかもしれない(笑)。……当時よく聴いていたのは、「夜咄ディセイブ」(じん(自然の敵P) feat. IA)や「再教育」(Neru feat. 鏡音リン、鏡音レン)です。「終天のオルコス」(+α/あるふぁきゅん。)、「命のユースティティア」(Neru feat. 鏡音レン)、「ストリーミングハート」(DECO*27 feat. 初音ミク)も聴いていました。

──お好きな系統はありますか。

理名 「しっとり」というよりは、「ギタージャカジャカ」みたいなアップテンポでカッコいい曲のほうが好きです。

──当時「この人みたいに歌えるようになりたい」と憧れていた歌い手さんはいましたか。

理名 96猫さんやあるふぁきゅんさん(+α/あるふぁきゅん。)です。男性だとめいちゃんもすごく聴いていました。96猫さんとあるふぁきゅんさんは「大人の女性!」という感じの声をしていて、力強さや大人っぽさとか、当時の私には出せない声だったんです。あるふぁきゅんさんは声の種類がすごく多くて、曲ごとに歌い分けていたり、そういう部分にも憧れていて。

──「絶対に習得したい」とマネして練習したテクニックはありますか。

理名 歌い方に一番影響を受けたのは緑黄色社会の長屋晴子さんです。声の出し方や語尾の感じは特に影響されていると思います。ボイトレに通っていたときに発表会があって、そこで「Mela!」を披露するために半年間ぐらいひたすら練習しました。

──確かに理名さんの歌からは長屋さんへのリスペクトを感じます。ボイトレは中学の頃に通っていたそうですが、通おうと思ったきっかけはなんでしょうか。

理名 「歌がうまくなりたい」っていう単純な理由です(笑)。

──「歌ってみた」をSNSにアップし始めたのも、同じく中学の頃でしたよね。

理名 はい。小学生の頃からずっと歌い手になりたいと思っていて、でも年齢的にも歌の技術的にもまだまだだったし、母も反対していたんですね。その頃、NaYuu-U ちゃんっていう歌い手の子にすごく憧れていたんです。その子が同い年だと知って「同じ年でこんなにうまく歌えるんだ!」と希望を持ったというか……両親に内緒で「歌ってみた」を上げ始めたんです。とある動画で再生回数が伸びて、嬉しさのあまり母に「観て!」って言っちゃったんですけど、普通に受け入れてくれたので良かったです(笑)。

──再生回数が伸びたのはどの「歌ってみた」だったんですか。

理名 「ド屑」(なきそ)っていう曲で、たしか2作目でした。1作目は「神っぽいな」(ピノキオピー)です。

──どちらも難易度の高い曲ですが、当時はどのくらい練習してからアップしていたんですか。

理名 そのときはそもそも練習という概念がなくて、歌いたい曲を歌いたいときに上げる感じで、すごくやる気があるときは週一くらいのペースでした。

──そのときはどんな録音環境で行っていたんですか。

理名 機材は高いので、スマホアプリの「GarageBand」を使いながら、純正のイヤホンマイクをスマホにつけて、ポップガードを挟んで歌っていました。

──ボカロを歌いこなすにも、「早口言葉」「突き抜ける高音」など難しいテクニックが求められますが、最初から自然と歌えていたんでしょうか。

理名 ……実は今朝、昔の「歌ってみた」をちょっと聴いてきたんです。いやぁ、これがひどくて(笑)。当時はうまくいったと思っていたんですけど、今聴くとホントに恥ずかしいというか、たまに何言ってるかわからないところもあるし……。「トゲナシトゲアリ」のプロジェクトに携わって一年ぐらい経ちますが、歌の成長はすごく大きいなと改めて実感しました。

──当時「将来こんな活動をしていきたい」と思い描いていた姿はありましたか。

理名 憧れていた歌い手さんみたいに歌一本で生きていけたら100点ですけど、そんな簡単に叶うことではないので、趣味の範囲でやれたらいいなと思っていました。あとは友達がライブをしていたので、自分もやってみたいなと思ったり。

──「プロになるぞ!」というよりは、趣味で歌う気持ちだったということですか。

理名 そうですね。でもやっぱり、歌い手活動自体はずっと続けていきたいと思っていました。

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