【インタビュー】倉木麻衣、ニュー・アルバムでの歌表現とヴォーカル・ルーツ

2021.11.8

取材・文:田代智衣里(Vocal Magazine Web)

まさかヴォイス・トレーニングをやっていて夢が叶うとは思っていなかったので。 

──「ひとりじゃない」も大好きな曲なんです。優しい愛情に包まれて、一人で聴いていると涙が出るような、とても温かい曲でした。《大丈夫って言えるよ》のビブラートが本当に美しい音色で、転調後は強めの発声に発展していくという、1曲の中でもたくさんの味わいがあり、ストーリーが感じられます。こういったディレクションは、どんなふうに考えられていますか? 

倉木 わぁー、すごく嬉しい感想。ありがとうございます。そうなんですよ、まさに「ひとりじゃない」。本当にありったけの優しさとか思いやりをテーマにしていて。大変な時、疲れちゃった時とかってやっぱり、ネガティブになりがちで、孤独になって、いろんな場所でそれぞれ戦っている。でもその中で、“みんな頑張ってるんだよ”っていうことをお届けしたいなと思って作ったんです。歌の部分に関しては、ビブラートが楽器のように聴こえるようなイメージで、優しいソフトな歌い方にして、寄り添うような感じで歌いました。 

──そういった歌唱イメージは、レコーディングの前から決めているのですか?

倉木 歌詞ができた時点で「あ、こう歌おう」って想像しながら家であらかじめ歌ってみるんです。でも、実際にレコーディング・スタジオに行って歌うとまた環境が変わるので、家で歌っていたものとはちょっと違うんですよね。なので、スタジオではしっかり通して歌ったあと、一回それをフィードバックとして聴くんです。それで「あ、やっぱりここはこう歌おう」って消化して、それからまたレコーディングして……。それでもしっくりこない場合は、もう一回レコーディングしようって作っていくタイプなので……。そうやって自分の中で、歌を作り上げていきますね。 

──優しいビブラートは、温かい笑顔で歌っているのが想像できる、“笑顔が聴こえる”ような歌声でした。このような表現をしたいという読者に向けて、コツや練習方法を教えていただけませんか……? 

倉木 ありがとうございます。自分から湧き出る優しい気持ちで、気持ちよく歌ってもらいたいなと思います。私の真似をして歌うとかではなく、みなさんそれぞれの思うやさしい気持ちで歌ってもらえたら、きっとこの楽曲の良さが出ると思うんです。 あと私は、ビブラートがけっこう好きなタイプなので(笑)。

もともとマイケル・ジャクソンのビブラートがすごく好きで “このビブラートはどうやったら歌えるんだろう?”って、そういう気持ちから学生の時は同じように練習してみたりしていましたね。それで、“自分なりに近いものができた!”という楽しみもありながら、歌がどんどん好きになっていきました。マイケル・ジャクソンの歌声やスピリットにとても共感、感動して、自分も歌手になりたいって強く思いました。そう、(ビブラートの影響は)マイケル・ジャクソンかな。 

──ありがとうございます。 他にも、歌唱の影響を受けたアーティストはいましたか? 

倉木 マライア・キャリーさん。学生の頃はほとんど洋楽を聴いていたので。当時通っていた学校の中では、私くらいしか洋楽を聴いてなくて、ちょっと寂しさを感じていた時期でもあったんです(笑)。でも、おじいちゃんがマライア・キャリーを大好きで聴いていて、そこから自分も歌声にすごく感動して聴くようになっていきました。“こうやって声色を変えて、いろんな声で歌えたらすごく楽しいだろうな”とか、素敵だなという憧れがあって。彼女と同じように歌を練習してみたりしながら……。そんな時期もありましたね。 

──当時、海外のヴォイス・トレーニング法を調べたり、歌い方を意識されたことはあったのでしょうか。 

倉木 自分が好きなフィーリングというか、それが歌い方に出ていたのかなと思います。そのまま、感じるままに歌ってたので。たぶん、その時いろんな洋楽を聴いて、すごくはまって、“こういう歌い方をしたい!”っていうのがあったんだと思います。

──デビュー前の学生時代に、ヴォイス・トレーニングはしていましたか? 

倉木 デビュー前にビーイング音楽振興会に通っていました。そこでオーディションがあり、プロデューサーが歌を聴いてくださったんですよね。いきなり“デビューしないか?”って話をいただけたので、自分としてもちょっとびっくりして。まさかヴォイス・トレーニングをやっていて夢が叶うとは思っていなかったので。 

──そうだったんですね。 ヴォイス・トレーニングを始めてから、歌の変化は感じましたか? 

倉木 そうですね。それまで出せなかった声を楽に出せるところはあったかなと思います。ヴォイス・トレーニングをすることによって、自分の個性が失われてしまうんじゃないかって言う人もいらっしゃるので、“あえてやらないで自己流で歌います”っていう人もいると思うんですけど。

私も最初はヴォイス・トレーニングはやらなくてもいいんじゃないかって思っていたんですが、やっぱりある程度年齢を重ねて、声を大事に保っていくためにはヴォイス・トレーニングが大切だなと感じたので、定期的に先生にやり方を教えていただいています。トレーニングにはいろんなやり方があるので、まず“自分に合っている、これなら続けられそうだな”っていうところを選ぶのもいいのかなと思います。自分がつらくなり過ぎたら、歌を嫌いになっちゃうと思うので。楽しみながらやれるのが一番いいかなと思います。 

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