【インタビュー】倉木麻衣、ニュー・アルバムでの歌表現とヴォーカル・ルーツ

2021.11.8

取材・文:田代智衣里(Vocal Magazine Web)

10月27日にニュー・アルバム『unconditional L♡VE』をリリースした倉木麻衣。タイトルが意味する“無条件の愛”をテーマに、12曲が収録された。

コロナ渦で誰もが何かしらの閉塞感を抱えてきた中で、このアルバムはネガティブな感情を吐き出させ、そのうえで希望に導いてくれるような温かさがある。

ライブやイベントなどの活動も制限されたこの時期を、「自分なりにできることを考える時間に充てることもできた」と話す彼女。配信ライブやTikTok開設など、“今できるファンとの交流”も大切に育てている。

Vocal Magazine Webのスタートを飾る記念すべきインタビューでは『unconditional L♡VE』の収録曲を始めとする、倉木麻衣のヴォーカル・ディレクション、さらにデビュー前に遡るヴォーカリストとしてのルーツに迫った。

ネガティブな感情を洗い流すような楽曲を発信したい。 

──10月27日にリリースされた『unconditional L♡VE』。弱い気持ちに寄り添い、それから希望に向けて前向きに引っ張ってくれるような、温かい愛情を感じました。1曲目の「unconditional L♡VE」では、《自信もないし、嫌われてんだろうし、かっこわるいし、どうせダメって 決まってんだろうし》という歌詞もあり、ネガティブな心の言葉が印象的です。倉木さん自身もネガティブな気持ちになってしまう時はあるのでしょうか? 

倉木 私のメッセージを受け止めていただいて、すごく嬉しいです。そうですね、ネガティブな気持ちに変わってしまう時って日常的にありますよ。例えば私の場合、今日みたいに(笑)。朝起きて“今日は取材の日だから、ちゃんと私の想いを伝えることができるかな”って、ちょっと不安になったりする。その時点でもう、ネガティブなマインドになっていたりとか、ありますね。 

──日常的にも感じることがあるんですね。

倉木 ええ(笑)。あと、今は普通に外に出るだけで、“コロナにかかったらどうしよう”とか、そういう不安も常にありますよね。だからこそ、不安を手放すような作品をアルバムでお届けしたいなと思って。

今回は楽曲もそうですし、歌詞の内容もネガティブ要素をポジティブに変えるような気持ちで書いていて、ストレートな言葉の歌詞をたくさん散りばめています。自分自身にも“前向きに頑張っていこうよ”と言ってるような楽曲もたくさんあるので、ポジティブな想いを共有できたらいいなという気持ちです。 

──『unconditional L♡VE』の制作では、新型コロナウイルスはどのように影響しましたか? 

倉木 当たり前にできていたライブやイベントができなくなり、みんなに会えていたのに会えなくなったとか、そういうところでみんなとの距離がちょっと遠くなってしまうような感じがあって。その距離をどうやって縮めようかっていろいろ模索していました。それで、やっぱり近くに感じられる時間を多く作っていきたいと、配信という形でイベントをさせていただいたりするようになって。そこはコロナの影響があって少しずつ変わってきたかなと思います。 

──コロナ渦になる以前、20周年後のアルバム・コンセプトや活動は、どのような形を描いていたのですか?

倉木 ちょうど2年前が20周年で。そこでひとつの区切りとして、“次にこういうことができたらいいな”とか、いろいろな夢がいっぱいあって。その矢先にこういった状況になってしまったので、一回ストップせざるを得なくなりました。でも、その間に待ってくれてる方がたくさんいらっしゃるので、自分なりに何かできることはないかなって考える時間に充てることもできたし。

また、コロナによって“死”というものをすごく、より身近に実感するようにもなっていますね。 “死”を感じることによって、“今どうあるべきか、どう生きていくべきか”ってすごく考えているので、そういった“今”にフォーカスしています。今はネガティブな気持ちとか、それぞれにストレスもたくさんあって、常に不安な状況の中にいる。だからこそ、音楽によって少しでもみなさんのストレスとか、ネガティブな感情を洗い流していただけるような楽曲を発信したいと思ったんですよね。それで今回できあがったのが『unconditional L♡VE』というアルバムなんです。 

──今回のアルバム・タイトルを直訳すると、“無条件の愛”ですね。 

倉木 とても深いテーマではあるんですけど、相手を思いやる優しい気持ちが、 “無条件の愛”だと思うし、“自分自身の愛”があるからこそ、人を愛したりできると思うんですよね。そういったところを楽曲に込めて、今回は“愛”をテーマにしたアルバムを作りました。たしかに今は手を繋げないけども、みんなと音楽で手を繋いで、温かい気持ちになってもらえたらなって。

──収録されている楽曲は、歌詞とメロディどちらが先にありましたか? 

倉木 今までは曲を選んでから歌詞をつけることが多かったんですが、今回は2曲目の「UNBREAKABLE」という1曲だけ、歌詞を先に書いてから、それに対して曲をつけていただきました。 

──そうだったんですね。 「UNBREAKABLE」は歌詞によって声の表情が変わり、キュートなニュアンスやカッコいい歌唱がそれぞれにあるような印象を受けました。 

倉木 そうなんですよ。けっこう今回のアルバムではこだわって声色を変えています。この楽曲は特にそうかもしれないですね。 アクティブなカッコいいサウンドなので、最初はクール系の声色で歌っていって、リードは声を張って歌おうとか。コーラス部分は逆に少しソフトに歌って、リードに対してクッションになるような歌い方をしています。  

──他の楽曲でも、1曲の中で声色を変えることは多いですか? 

倉木 曲によってですが、多いですね。コーラスをたくさん作って仕上げる楽曲に関しては特にそう。今回では「UNBREAKABLE」とか「ONE LOVE」とか、ちょっとR&Bテイストの楽曲に関してはコーラスもたくさん入れています。 

──コーラスワークはどのように決めているのですか? 

倉木 楽曲のデモをいただく時に、(仮の)ヴォーカルが入ってるもの、入ってないものがあるんですけど、あらかじめヴォーカルが入っていてコーラスまでついている曲は、その世界観も大事にしたいなと思っているので、デモと同じコーラス・ラインを入れていくこともあります。そのうえで、少し自分なりの色をつけていく。“絵に対して絵の具を塗っていくような感覚”というか。ここにもうちょっと足そうとか、考えたりする曲はけっこうありますね。 

──選曲したものには、仮歌詞が入っているものもあれば、仮メロディだけの場合も? 

倉木 そうです、シンセ音だけのガイド・メロディのデモもありますし、ヴォーカルはしっかり歌詞も乗っている楽曲もあります。でも、そういう日本語の歌詞が乗っている楽曲を選曲した場合、もう土台があるから、どうやって歌詞をチェンジしていくか、そこは音の感じで自分の伝えたいメッセージを書いたりして、作っていったりしますね。

──「unconditional L♡VE」のフレーズ《unconditional Love.. unconditional Love..》は、言葉のグルーヴがすごくカッコいいです。こういった部分は、歌詞を乗せていく段階で倉木さん自身が音数を少し変えていくこともあるのですか? 

倉木 「unconditional L♡VE」の場合は、音を聴いて、“もう、この言葉をつけたい!”と思って書いていきました。で、そうなんです! メロディによって言葉を連れてきてくれることもあるんですよ。そういうのもすごく面白いなと思うんですけど、今回のアルバムは言葉を連れてきてくれる楽曲が多かったですね。“この言葉がピッタリはまるんじゃないか?”って書いていったりしていて。「unconditional L♡VE」の《落チ着イテイケヤ》とかも、私には、そう聴こえてるんですよね。もとは英語だったんですけど、自分の頭の中にあるものと、メロディが合体した時に降りてきたって感じです。 

──《落チ着イテイケヤ》の歌詞は、送り仮名がカタカナになっています。 

倉木 平仮名で書くと、歌詞を読んでいただいた時にスルーしてしまう印象があったので、ワンクッションそこで止まることによって、文字通り“落ち着く”んじゃないかと思ってカタカナを使いました。

──この部分では、歌唱面でも工夫したことはありますか? 

倉木 言葉自体に強いメッセージがあるので、歌っている時も自然と自分に《落チ着イテイケヤ》って言い聞かせながら歌っていました。メロディもそこで一瞬リズムがスローテンポになるんですよね。だから歌にピッタリで、全部がマッチングしているかなって。自分的には、“この言葉しかないや”って思って作りました。 

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