【インタビュー】松浦航大、モノマネとオリジナリティの狭間で葛藤して作り上げた1stアルバム『I am a Singer』を語る。“モノマネは僕のシンガーとしての技術の一部なんです”

取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)

「フィラメント」の“本家”はモノマネのほう

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──ところで、「カメレオンヒーロー (produced by 川崎鷹也)」も、その前の「アホウドリ」もミュージックビデオに松浦さんが登場していませんよね。これらは、楽曲先行のイメージ戦略だったのかなと感じたのですが。

松浦 そうですね。なんか……試してみたかったと言ったらアレですけど、良くも悪くもやっぱりイメージもあるし……。

──テレビに出てますからね。

松浦 本当はそれまで“自分がMVに出たほうがいいかな”と思っていたんですけど。なんか髪が青くてわかりやすいぶん、(自分が)出ちゃうとモノマネ的な部分を求められて、心理的に聴いてもらえなかったら嫌だなっていうのも、懸念の一個としては脳みそにあるので。その内の実験のひとつではあります。

──続いて「カミカザリ」ですが、こちらは?

松浦 実はこの曲も「アホウドリ」同様にTikTok企画からスタートしているんです。リファレンスという部分で今思うと米津さんだったら「春雷」が一番近いんじゃないですかね。

──読者の方はぜひ聴き比べて楽しんでもらえたらいいですね。そして「すっぴんハート」です。この曲はトラックにメロディを乗せたとのことですが、ファルセットだけの部分を作ったり、サビ裏にコーラスでフェイクを入れていたりと、それこそ“複数のヴォーカルがいるファンクバンド”みたいなイメージですよね。

松浦 なんかファンキーな曲を作りたいなっていうので作ったんですが、どこかで聴いたことがあるような曲、何の驚きもない曲が好きじゃないし、自分として出したくないなと。それで一気に裏声へ行っちゃおうって(笑)。

──インタビューの最初に、ファンク/ソウルミュージックが好きだという話があって、ここと繋がってくるんですね。

松浦 はい、まさに(笑)。

──そして9月リリースの「Mr.キャプテン」がアルバムでは1曲目に収録されています。最も新しいシングルということもあってか、“前進するぞ”っていうモードが伝わる感じの楽曲だなと感じました。やっぱり現在の心境に一番近い曲っていう感じですか?

松浦 う〜ん。これは、そうではないかもしれないです。前にちょっとこういう(歌詞の)ことを思った時期があって。誰かを率いていく立場……例えば学校の先生でも親でもそうですけど。ちゃんと良い方向に導こうと思ったときに、好かれることがすべてじゃないというか。《飴玉みたいな言葉じゃ導けない/嫌われる覚悟も必要だ》という歌詞があるんですけど、飴玉をもらえたら嬉しいし美味しい。だけどピーマンとかも食べなきゃダメじゃないですか、子供は。栄養素が必要だし。

……なんて言えばいいかな……。“優しいとか正しい方向に導くとか、そういうのって嫌われることもあるよね。だけど、そんな頑張っている姿を応援したいよ”みたいな。ざっくり言うとそういう曲ですね。

──新曲の「ないものねだり」、「ブラックジャック」についても聞かせてください。この2曲だけではないのですが、楽曲制作やアレンジで小川ハルさんとの作業がとても多いです。

松浦 小川ハルはアレンジもずっとしてくれていたし、ライブのサポートもしてくれています。彼だからわかる僕のイメージや形っていうのもあるだろうなと思って、「ないものねだり」を書いてもらいました。「ブラックジャック」は僕の家で夜中までコーヒー飲みながら一緒に作りました。曲に関してはトラックがハルで、メロディが僕です。けっこう僕は歌詞が取っ散らかっちゃって、それを集めるのに時間かかるんですが、それをうまいことハルのエッセンスでまとめてもらえましたね。

──アルバムの最後を締めくくるのが「フィラメント feat.松尾優」です。ピアニストの松尾優さんをフィーチャリングして、ストリングスも入れたアルバム唯一のバラードとなりました。この曲は、松浦さんのYouTubeチャンネルで、2022年5月に、『一人26役のモノマネ』で紡ぐという、『We are the World』風の壮大なミュージックビデオとして発表された曲です。モノマネでもやる、オリジナルでもやる、という両面の楽曲となりました。その点について特別な意識がありますか?

松浦 意識はありますね。この曲に関しての“本家”はモノマネのほうだと自分では思っています。“本家”って変な言い方になっちゃうんですけど(笑)。最初にミュージックビデオとして出しましたが、権利的な問題もあってモノマネバージョンだと自分の曲として配信できないんです。自分の声だけで歌う「フィラメント」も聴いてみたいというお声もたくさんいただいたので、このアルバムに入れました。

──逆輸入みたいですね(笑)。“まずモノマネありき”というアイデアだったわけですが、それを松浦さんが“自分の声”だけで表現し直すというのが面白いです。

松浦 モノマネを通ったからこそ言えるのですが、モノマネは僕のシンガーとしての技術の一部なんです。よく「二刀流」と言われてたりするんですが、自分の中のモノマネの部分を出しているだけというか……。サッカー選手で言ったら、サッカーとドリブルの二刀流ってないじゃないですか。そういう感覚なんですよね。

──今の松浦さんを象徴する曲をラストに持ってきたことで、ビシッとアルバムが締まった感じがします。では最後に、コンサートについても聞かせてください。モノマネサイドでは、荒牧陽子さんやビューティーこくぶさん、よよよちゃん、とそれぞれ一緒に回るライブを定期的に行なっていらっしゃいます。まずはモノマネライブの見どころを教えてください。

松浦 本当にいろんなパフォーマンスをやっているんですよ。ただモノマネするだけじゃなく、演出も込みで楽しんでもらえると思います。それこそボイパをやったり、いろいろな見せ方を研究しているつもりではあるので、エンターテインメントな感じで楽しんでもらえたらいいのかなって思います。

──ソロシンガーとしては、来年1月から2月にかけてコンサートツアーが発表されています。こちらはどんな形のコンサートになりそうでしょうか?

松浦 ワンマンでは自分の曲だけでなく、モノマネを取り入れながらやったりするライブが多いんです。もちろん今回もそうなんですが、アルバムを引っ提げてということで、ようやく自分の曲たちをたくさん連れて行けるツアーになりました。そういう意味で『The Time Has Come』っていうタイトルにしたんです。

──“時が来た”と。

松浦 そうです。橋本真也さんみたいな。「時は来た!(それだけだ!)」って。
※注:プロレスラーの故・橋本真也が残した名言

──(笑)。

松浦 でもこう……“進撃のときが来たな”っていう、そんなイメージのツアーです。あと今回は、各地でゲストを呼びます。新しい風を自分のツアーに吹かせようかなと考えました。現在、東京はシークレットですが、それ以外の4箇所は11月25日の一般発売時に発表です。

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