半﨑美子

【インタビュー】半﨑美子、『うた弁4 you』のこだわりと歌に向き合う独自のスタイルを語る。“誰かの悲しみは、ほかの誰かの悲しみを治癒する力を持っている”

2023.09.1

取材・文:後藤寛子

ここ3、4年でもまったく違うくらい、確実に変化してきた

──これからもショッピングモールのライブは続けていきたいと。

半﨑 ずっと続けていきたいです。むしろ“まだショッピングモールでライブやってて偉いですね”みたいに言われたとき、すごくショックを受けたんですよ。“私の生きがいなのに”と思って。デビューしたから卒業するとか、そういう感覚ではないです。ライブは30分ですけど、その後2時間3時間かけてさせていただくサイン会までセットになって、自分にとっての救いになっています。

──ショッピングモールでの経験から、歌が変化したり、影響を受けた部分はありますか?

半﨑 モールで歌うようになってから、楽曲の制作や曲自体も変わりましたし、歌声もたぶん変わったと思います。サイン会などでいろいろな方の想いを受け取るにつれ、自分の声質が変わっていったのは間違いなくて。昔の歌を聴き直すと、声の厚みが違うんですよね。ふくよかになったというか、曲によっていろんな声が出せるようになったような気がします。昔はどの歌を歌っても同じ声だったと思うんですけど、自然と色が付けられるようになった。モールの2階や3階、吹き抜けの先にいるたったひとりに届けたいと思って歌うと、コンサートホールで歌っている時とは違う声のトーンとか出し方があるのかもしれないですね。あえて変えようとしたわけじゃないんですが、ここ3、4年でもまったく違うくらい、確実に変化してきました。だから、環境に左右されず歌を届けるという、本当にシンプルなところ……それこそアカペラでも届けられるかどうかが、最終的にはすごく大事だと思います。

──逆にホールなどでのコンサートでは、ショッピングモールとは身体や喉の使い方は変わりますか?

半﨑 コンサートは2時間半くらいあって、ショッピングモールよりも時間的に長く歌うので、やっぱり違ってはきますね。本番というよりも、その前に当日リハーサルをやるじゃないですか。照明や映像やバンドメンバーの確認だったりするので“半﨑さんは声出さなくていいですよ”と言われても、冷静にペース配分できるタイプじゃないので、全力で歌っちゃうんですよ。喉の状態をキープしておかなきゃいけないのに、リハーサルでも感極まって泣きながら歌ったりするから。いつもマネージャーさんに“ちょっと声出しすぎ”と言われて、気づくことがけっこうあります(笑)。最近、ペース配分をちゃんと考えないといけないなってようやく思い始めました。

──歌いながら泣いてしまうことはよくあるんですか?

半﨑 モールとかは特に、お客様の表情がよく見えるじゃないですか。コンサート会場はわりと暗めですけど、いつもお客様の顔は隅々まで見るので、泣いている方やうつむいて目頭を押さえている方、さまざまな表情が見えると、私も泣けてきてしまって。

──でも、泣くと喉が詰まってしまいませんか?

半﨑 たしかに “泣きながらどうやって歌ってるんですか?”って聞かれることもありますね。昔は泣くと喉が詰まって歌えなくなることもあったんですけど、今はどんなに涙が流れても普通に歌えるようになりました。それも何か意識したり練習したわけじゃないんですけど、不思議と。

──すごいですね!

半﨑 サイン会でもお客様と一緒に涙することも多いんですけど、サイン会は、私にとって単なる楽しい会話ではなくて、対話なんですよね。想いを分かち合ったり、心を通わせたり、みなさんがそれぞれの背負っている問題を打ち明けてくださったり。私自身がそれに何か返答することはないので、ただ受け取って、一緒に涙することしかできないんですけど。そういう対話を重ねて、みなさんから受け取った声が自分の中に降り積もって、それが折に触れて歌になる。それも、こういう想いを歌にしようと決めているわけではなくて、自然と生まれてくるんです。

──これからも半﨑さんの音楽の軸には、そういう想いのやりとりがあり続けると。

半﨑 はい。だからこそ、できるだけ身軽にいろんなところに歌いに行きたいです。こちらから歌を届けに行きながらも、受け取りに行くような気持ちで活動を続けていきたいと思っています。


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リリース情報

半﨑美子『うた弁4 you』
8月2日発売
配信サイト
https://lnk.to/utaben4u

通常盤(CD only)/CRCP-40667
定価:2,500円(税込)

通常盤(CD only)

特別盤(CD+DVD)/CRCP-40666
5,500円(税込)*ツアーブックレット付き

特別盤(CD+DVD)

【CD収録曲】※特別盤・通常盤 収録内容共通
一通目:途
二通目:雪の消印
三通目:この文字が乾く前に
四通目:大家さんと私のブルース~困った時はお互い様~
五通目:リンドウ
六通目:涙の記憶
七通目:星を伝って
追 伸:地球へ with Anointed mass choir

【DVD収録内容】※特別盤のみ
半崎美子『うた弁3』発売記念集大成ツアー2022
〜地球の歩み方〜5周まわって立ち止まる〜 @中野サンプラザ

01. 帰途
02. 空の青
03. 色彩
04. タンチョウの夢
05. 蜉蝣のうた
06. お弁当ばこのうた~あなたへのお手紙~
07. 母へ
08. 桔梗の咲く頃
09. 地球へ
10. ロゼット~たんぽぽの詩~
11. 赤色のヒーロー
12. 道の上で
13. サクラ~卒業できなかった君へ~
14. 足並み
15. 明日へ向かう人
EN1. あとがき
EN2. 布石


プロフィール

半﨑美子
北海道出身のシンガーソングライター。大学在学中に音楽に目覚め、中退し上京。パン屋さんに住み込みで働きながら曲を書き続け、一度も事務所やレーベルに所属することなく個人で全国のショッピングモールを回り、歌を届けた。そこで出会った人々の人生に触れ、涙に触れて生まれた歌は数々のメディアに取り上げられ、“ショッピングモールの歌姫”と話題に。17年の下積みを経て、2017年4月にメジャーデビュー。NHK みんなのうた「お弁当ばこのうた~あなたへのお手紙~」や「サクラ~卒業できなかった君へ~」を収録した『うた弁』がロングヒット。同年11月、第50回日本有線大賞新人賞を初受賞。2018年3月、MBS/TBS『情熱大陸』では半崎美子の生き方や学校訪問の様子が放送され大反響。11月4日には東京国際フォーラムホールAでの集大成コンサートを成功させた。天童よしみへの楽曲提供で話題となった「大阪恋時雨」は、『第70回NHK紅白歌合戦』でも歌われた。北海道初の公立夜間中学校の校歌の制作や、「明日への序奏」、「地球へ」が教育芸術社より発売の小・中学生の音楽教材に掲載されるなど、楽曲提供や学校公演など活動は多岐にわたる。2022年4月、初の楽曲提供曲、森山直太郎の書き下ろしによる5周年記念シングル「蜉蝣のうた」を、同年8月、アルバム『うた弁3』を発売。自分の歌が自分自身よりも長生きすることを願い、小学校の音楽の教科書に「地球へ」の掲載が決定。

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