半﨑美子

【インタビュー】半﨑美子、『うた弁4 you』のこだわりと歌に向き合う独自のスタイルを語る。“誰かの悲しみは、ほかの誰かの悲しみを治癒する力を持っている”

2023.09.1

取材・文:後藤寛子

誰かの悲しみは、ほかの誰かの悲しみを治癒する力を持っている

──アカペラ始まりで言うと、「涙の記憶」もグッと引き込まれました。この曲のほうが、迫力のある歌声で。

半﨑 そうですね。囁くというよりは、わりと広い感じの歌い方になっています。この曲は、雪が溶けて細い川になって流れていって、最後は海に出るようなイメージで歌っているので、歌い方も朗々ととしているかもしれないです。みなさんからお手紙をいただくとき、苦しみや悲しみを伝えてくださる方も多くいらっしゃいますが、誰かの悲しみは、ほかの誰かの悲しみを治癒する力を持っていると感じるんです。悲しみは人それぞれ違うけれども、深いところで繋がっているというか。心の中で泣いて、無理をしてでも日々を生きなければならない中で、これまでいろんなことを乗り越えてきて今生きている証みたいなものが涙に刻まれているのかなって。

「涙の記憶」

──対して、「大家さんと私のブルース~困った時はお互い様~」はかなりパーソナルな物語ですが、実体験ですか?

半﨑 実体験です。私がインディーズの頃から8年間お世話になっていたマンションの大家さんにあてたお手紙で。当時、バイトしながら音楽活動をしていたんですけど、生活が厳しくて家賃が払えなくなりそうで大家さんに相談して、マンション掃除をすることで家賃を下げてもらっていたんです。デビューして、2018年に引っ越したのですが、最後のお別れの日に、空っぽの部屋で大家さんに鍵を返して御礼を伝えたら、もう涙が溢れてきて。そのときに大家さんが“困った時はお互い様”という言葉をかけてくれて。その気持ちを、今度は私が誰かに渡していきたいと思って書いた曲です。

──ブルースとついているだけに、少し艶っぽい歌い方ですよね。

半﨑 そうですね。でも、この曲もあえて変えたわけじゃなく、デモを作ったときに得たアレンジのイメージのおかげで、最初から自然とそういう歌い方になっていました。

「大家さんと私のブルース~困った時はお互い様~」

──曲を作るときはメロディから作るんですか?

半﨑 メロディと歌詞は同時です。歌詞自体がメロディを伴って出てくるというのかな。詞を書きためたりすることはなく、曲の作り方としては、スタジオでピアノに向き合ったときに、思いが溢れたのをボイスメモに録音して、それを聞きながら文字起こしをするんです。そのときに初めて、“ああ、こう歌ってたんだ”とわかる。だから、日々さまざまな方の想いを受け取って、それが私というフィルターを通して歌になって溢れ出てくるというのが私の自己表現なんですよね。自分の想いを歌うことはほぼないかもしれないです。

──なるほど。作ったときからすべてイメージができているから、歌い方に迷いはないと。

半﨑 歌い方に迷うことはないですね。

──では、レコーディング環境でこだわっていることはありますか?

半﨑 うーん……ちゃんと早起きするぐらいですかね。起きてからレコーディングが始まるまで6時間以上は時間を空けたいので。逆算して6時間前には起きて、しゃべらないようにしています。食事に関しても、歌う前は食べないので、逆算して食べておかないと、レコーディングが長引いたときにすごいお腹が空くという(笑)。

──レコーディングは早いほう?

半﨑 曲によりますね。30分くらいで獲れるときもありますし。あまり休憩を挟まず録るほうなんですけど、どちらかと言うと、録音後のセレクトに時間がかかることは多いです。

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