【インタビュー】浜田麻里 最新アルバム『Soar』をリリース。デビュー40周年を迎えてなお進化し続けるヴォーカルの秘密にさまざまな角度から迫る!

取材・文:舟見 佳子

歌って録りながらエンジニアリングまで、全部ひとりでやっているんです

──今作もこれまで同様に、ヴォーカルはプライベートスタジオで録ったそうですが、麻里さんのスタジオはどんな環境ですか?

浜田 自宅の一室を改造してレコーディングスタジオにしています。ドラムは録れないですけど、システムは全部プロ仕様なので一応何でもできますね。

──機材はどんなものを使われているんですか?

浜田 レコーディングのシステムはProToolsです。歌って録りながらエンジニアリングまで、全部をひとりでやっているんです。これは90年代のヨンパチ(PCM-3348)とアナログコンソールの時代からずっとで、2マイク立てて自分で録っていましたね。

──マイクは何をお使いですか?

浜田 AKGです。コンデンサーマイクはC414がメインですね。曲によってたまに使うのは、チューブマイクのC12VRです。

──AKGはどこがお好きなんですか?

浜田 レンジの幅が広くて普通に録れる、わりとノーマルなところです。チューブマイクのC12はアメリカでビンテージを何本か持ってきてもらって音のチェックをしたんですけど、結局VRっていう復刻版を選ばせていただきました。C12をメインにしていた時代もあるんですけど、今はC414のほうが圧倒的に多くなりましたね。

──コーラスアレンジはどういう感じでイメージが浮かぶのですか?

浜田 楽器を録っていき、ある程度完パケた時点で曲をより良くするために、自分の声を使って補っていく、より盛り上げるようなフレーズを考える感じですね。私の場合、コーラスは歌というよりも歌とシンセの間と言いますか、そういう役割かなと思いますね。

──音程やメロディを考えていくときは、キーボードで考えるんですか?

浜田 いや、楽器は何も使わないです。実際に歌ってみて当てていく感じですね。頭の中にコードが鮮明に浮かんでいるので、楽器は必要ないですね。

──“ここはダブル(※同じヴォーカルラインを重ねて歌うこと)にしよう”とか、そういう判断も曲作りと同時進行で進めていく感じですか?

浜田 そうですね。曲の傾向と、どんなイメージのリードヴォーカルにしようかなっていうので、だいたい録る前に決めますけど。場合によってはシングルで録ってみて、やっぱり微妙なコーラス感で広がりを出したいときはダブルにしますね。

──麻里さんほどの方だと、ダブルで歌うときもリードとほとんど同じようにも歌えると思うのですが、あえて意識する点はありますか?

浜田 確かに初期の数枚は、エンジニアに「ぴったり合いすぎてダブルにならない」といつも言われてました(笑)。今は普通にリードと同じ感覚で歌うと、ちょうどいいダブルになりますね。昔より声もちょっと膨らんだからかもしれないです。自分のやり方としては(プレイバックの左右PANのバランスとして)リードをこのくらい(時計の10時の角度)まで寄せて薄く聴きつつ、ダブルのパートを歌います。

──どちらもセンターに寄せないイメージですか?

浜田 いいえ、録る声はセンターなんですけど、先に録音済みのリードヴォーカルを10時の位置にする感じなんです。そうすると自然でちょうどいいズレ具合のダブルが録れるんですよね。

──ほかにヴォーカルの録り方で、こだわった点があれば聞かせてください。

浜田 レベル感の部分は枚数を重ねるたびに少しずつうまくなっているかなと思います。やっぱり歌とマイクとの位置もあるので、アタック感とか息の吹きなどがすべて関わってくるんです。録り方もうまくなってきているし、きれいなレベルで録ることでミックスもしやすくなってきています。少しトーンが下がれば、それをコンプレッサーなどで上げたり。私の場合は声が強すぎるっていうところが多くて、あとから下げたりするわけですけど、自然な形でそのままいけるような雰囲気になってきてるので。録り音としてはよりクリアで、ノイジーじゃないというか。ひと言で言えばきれいに録れてる感じにはなってきたかなと思います。

──コンプレッサーはアナログの実機ですか? それともプラグインですか?

浜田 ビンテージのNEVEのコンプレッサーを使ってます。その辺のこだわりはありますね。プリアンプとコンプはOLD NEVEです。

──1曲に対して何回くらい歌うものですか?

浜田 セクションごとに基本は1回、それで納得できれば1回だけですし、できなければ納得できるまで歌います。それにダブルをするってことで2回しか歌ってないところも多いです。コーラスは1回ですが、パフォーマンス的にイマイチだと思ったらすぐ録り直すので、何回っていう感覚で数えたことはないんですけど。自分が思った形になるまで録り直し、録り直し、録り直しです。

──パンチイン的なやり方とか、一度録ったフレーズをペーストするとかではなく?

浜田 ここ数作は基本的にはしてないですね。シンセのような“ウー、アー”系のストレートなコーラスについては多少送ったり(注:データを貼り付けること)もしますけど。歌詞やメロディを変えたりすることも多いので、そのたびに録ることが圧倒的に多いです。アメリカ人とずっと仕事をしてきたんですけど、彼らはあまりいわゆる切り貼りをしないんですよね。例えば同じ歌詞であっても、もう一度そこは録るということが多いです。

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