取材・文:田代智衣里(Vocal Magazine Web)
子供にはもう戻れないので、経験した先にまた純粋な世界があるといい
──アルバムのコンセプトはどのようにできていったのですか?
秦 2021年の秋ぐらいに、このアルバムに向けた本格的な制作を始めていました。でもコンセプトは最初に決めないで、とにかくやってみたい曲のデモをまず作ってみたんです。その中から“次はこういう方向で作りたい”って気持ちがちゃんと表われているものが数曲出てきて。それが「Trick me」とか「イカロス」だったんですけど、そこを軸に作っていきました。
──1曲目の「Paint Like a Child」はアルバムのタイトルでもありますが、こちらはいつ頃制作したのですか?
秦 アルバム制作の中盤ぐらいだったと思うんですけど、「Trick me」、「イカロス」にくわえて「サイダー」、「残影」などタイアップに向けて作った曲もあって。アルバムの軸みたいなものが決まっていく中で、「イカロス」はアルバムを象徴する曲になる気がしていたんです。だけどもう1曲、オープニングにふさわしい象徴的な曲を作りたいなと。「イカロス」がバラードなので、ちょっとビートがあるものでできたらいいなと思って作ったんです。
僕は大体メロディを作って、アレンジを作って、最後に歌詞を書くんですが、この曲の歌詞を書いている時期にアルバムのタイトルを先に決める段階に入ったんです。それで「Paint Like a Child」って言葉をタイトルにしたときに、曲調的にサビのハマりも良かったし、象徴的な曲でもあるので、タイトルチューンにしようと思いました。
──自由さや遊び心もアルバムのコンセプトになっていますが、「Paint Like a Child」という言葉にはどんなふうに辿り着いたのでしょうか。
秦 とにかく今やりたい音楽を作っていただけなんですよね。新しい自分を見せたいというよりは、“その瞬間に音楽を本当に自分の中で解き放って、楽しんで表現しきる”ことのほうがやりたいことだったんです。
それを言葉にするときに、ずっと好きな言葉だったピカソの「Paint Like a Child」が合うなって。そこからアルバムタイトルにしましたし、自分が向かっていることに言葉を付けるとしたらこういうことなのかなって感じましたね。
──これまでにも“子供心”を意識することはありましたか?
秦 経験すると、いろんなことを知っていくじゃないですか。自分の中で経験値も増えていくし、スタイルとかいろんなことができあがっていくんですけど。いろんなことを経たうえでのすごくピュアな表現というか、音楽に対して自由に自分を解き放つ表現ができたらいいなって感覚があったんですよね。それがすごくシンプルだし、味わい深いものだとも思うんです。
表現って“シンプルで奥深い”ことがすごく理想的だなと自分は思っていて、それとすごく近しい感覚というか。子供が描く絵みたいな、本当に思うままにそこに自分がやりたいことをぶつけている感覚はすごくいいなと思いました。子供にはもう戻れないので、自分がいっぱい経験した先に、またそういう純粋な世界があるといいなぁ……と。それをピカソが言っていたので、その言葉がすごく素敵だなと思いましたね。