取材・文:田代智衣里(Vocal Magazine Web)
さかいゆうが、初のカバーアルバム『CITY POP LOVERS』をリリースした。今作はOvall、Kan Sano、Michael Kanekoなど、アーティスト&プロデューサーが集うクリエイターチーム「origami PRODUCTIONS」とのコラボレーション作品で、さかい自身が選曲した70〜80年代のシティポップをカバーしている。
ヴォーカル・マガジン・ウェブでは、さかいゆうが考える歌声の個性と、主に自宅スタジオで行なわれたという『CITY POP LOVERS』のリモートレコーディングについて話を聞いた。
太く聴こえてほしくない歌詞はローカットの声で歌います
──オンライン・ヴォーカル・レッスン『歌スク』のトレーナー伊藤俊輔さんから、ひとつ質問を預かっています。“ミックスヴォイスをハイトーンで出すと一般的には鋭い音色になってしまいますが、さかいさんからはその印象を受けません。それはもともと声が高いからなのでしょうか?”と。
さかい 僕はミックスヴォイスってあんまりわからないんです。全部地声だと思っていますね。
──2015年のラジオ番組で、“歌がうまいとは何か”をお話されていたのを当時何度も聞き返したんですが、そこでチェストヴォイスについては語っていました。
さかい そんなの聞いちゃダメだよ、覚えてないぐらい適当なこと言ってますよ(笑)。チェストヴォイスは僕もけっこう鳴るほうですけど、あんまり大きい声を出さなくてもすごく響いて、マイクがよく声を拾うんですよ。玉置浩二さんが強いところで、歌に立体感を生むんですよね。
僕はポップスではいい声で程よい出力で歌うことを、無意識にずっと研究してるんでしょうね。だから音域もこの20年で自然と、下も上も1音ずつ広がってるような気がします。
──音域が広がったタイミングは明確ではなく段階的に?
さかい メソッドがないから、明確ではないですね。ボイトレをやったことがないんですよ。
──高い音を出すときには、身体のどんな部分が使われているのでしょうか?
さかい 《la la la……》(オフコース「言葉にできない」)って歌うと、 同じ音程でも音がすごく高く聴こえるじゃないですか。これは、ローカットしてるんです。でも、(声の)下の成分も出すと(音程が)低く感じるんですよね。
無意識にやってますけど、あんまり太く聴こえてほしくない歌詞は小田さん(小田和正)みたいにさらりと、そのローカットの声で歌いますね。
──確かにどちらの表現もさかいゆうさんの歌声として印象的ですが、いわゆるそのローを削った透き通った声が、冒頭の質問にあったハイトーンヴォイス?
さかい そう、昔はそれをやりすぎてた。だから今歌うともっと違うテイクになると思いますね。この間久しぶりに「Room」を聴いたら、自分のせっかくある低音を全然使ってなくて。でも平井堅さんはそれが好きらしく、“なんで「Room」が好きなんですか?”って聞いたら、“女々しいから”って(笑)。
だからそういう声が好きな人は、チェット・ベイカーとか小田和正さんとかそっち寄りの声が好きだと思う。《My funny valentine》って、ローカットのヴォーカルで歌うじゃないですか。でも、ローを入れると途端に男性的に聴こえる。(実際に歌って)これ、同じキーだからね。