【インタビュー】さかいゆうが語る、歌声の個性と『CITY POP LOVERS』。“「SPARKLE」は何百テイクも歌いました”

取材・文:田代智衣里(Vocal Magazine Web)

できることじゃなくて、できないことが個性を作る

──ピアノはとにかくカバーすることから始めたとお話されていましたが、歌も同じですか?

さかい どの楽器も芸事もすべて、最初は自分より全員うまいから、自分よりうまい人と一緒にやるのが一番うまくなるんですよね。自分より英語がしゃべれない人としゃべっても英語が伸びないのと一緒で、自分よりうまい人が周りにいないなら、自分よりうまい人をコピーする。

好き勝手やるのも大事ですけど、技術を手に入れようと思ったら、自分にはないものを忠実にコピーするところからスタートする。1年もやっていれば、自分がどこに才能があるのかなんとなくわかるから。それで10年ずっと練習しても全然できないところが、その人の個性だと思いますね。できることじゃなくて、できないことが個性を作るので。

──忠実にカバーすることで、自分の個性もわかってくるんですね。

さかい (山下)達郎さんも、もっとシャウターなJB(ジェームス・ブラウン)みたいな声に憧れてたけど、JBみたいに歌えないから山下達郎があるんですよね。JBみたいに歌えてたら、シティポップをやってないかもしれないですから。

できないことをできるようにすることに、みんな時間を費やしてると思うんです。練習は大事だし、なかなかカッティングがうまくならなかったら、自分が本当にギターのカッティングが好きなら絶対に諦めずに10年経ってもトレーニングするべきだけど、一生懸命費やしているうちに他のところが伸びてくる。その伸びたところと、10年やってもなかなかできないところが個性ですよね。

──できないところも強みになる?

さかい そもそも(声の)出力がある人に憧れを持ったとしても、大きい声が出せないならそれがその人なので。それならささやくように歌うことで、もともと出力がある人にはできない世界観を作れる。

──歌にはさまざまなスタイルがありますね。

さかい 今の自分だったら、ヴォイストレーナーっていう関わり方じゃないけど、(歌いたい人に)関われると思う。なぜならずっと自分をプロデュースすることをやってきたから、それがよーくわかるんです。その人の曲を2曲ぐらい歌ってもらって、“君、ここはやらなくていいよ。ここが素晴らしいから”って。

“この曲ちょっと歌ってみて”って言って、何も教えずにその授業は終わるかもしれないですね。勝手にその人が拾っていってくれて、“あ、ここだったんだな”みたいな。

みんな、できないことをできるようにするのにものすごく忙しく過ごすから、なんか難しいですよね。でも、できないことをできるようにする作業を経ないとプロにはなれないから、このさじ加減が難しい。

──そのバランス感覚も自分で掴んでいく必要があると。

さかい それが誰に教えられることもなくできている人は、早くデビューするんですよ。自分の声に合ったいい曲も作るんです。それを才能とかって言うんだろうけど、できる人はわざわざ明かさないから。人にそれを言うと、説教になっちゃうでしょ。

しかも、その人のメニューはその人でしか作れない。だから音楽を教えるってすごく難しい仕事だと思います。音楽学校は僕も通ったことがあるし、合ってる人もいるし、あっていいと思うんだけど。それに、音楽学校で教えられることもあるんですよね。

教えられること、教えられないこと、言うべきこと、絶対に言っちゃダメなこと、そして言うタイミングを見極められている人は、いい先生なんだと思いますね。

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