【インタビュー】さかいゆうが語る、歌声の個性と『CITY POP LOVERS』。“「SPARKLE」は何百テイクも歌いました”

取材・文:田代智衣里(Vocal Magazine Web)

「薔薇とローズ」や「ジャスミン」を歌ってるさかいゆうが「SPARKLE」を歌ってる日もあった

──ヴォーカルのレコーディングは何テイクぐらい歌いましたか?

さかい 曲によりますけど、けっこう丁寧にやりましたね。パンチインなくつるっと歌った曲も何曲かあるんですけど。今回時間はたくさんあったので、自分の中の“ここはこうやって歌われたい”ってものをゆっくり時間をかけて作れました。終わりの時間が決まってて、あと2時間しかありませんってことがないので、それが今までのレコーディングとは違うところです。いい悪いじゃなくて、そのときの状況を受け入れるのも大事だと思うので。

──1日に録るのは何曲ですか?

さかい 1日に1曲しかやらないです。2曲歌うことはほぼないですね。

──1曲を何日かまたいで録ることもありましたか?

さかい 大抵の曲はコーラスも含めて1日で全部録りましたけど、中には別の日に録り直す曲もありましたね。よっぽど用意周到に準備していれば1日2曲もいけるんですけど、コーラスが重なってくると喉がへたっちゃうんです。やっぱりライブよりレコーディングのほうが、集中力含めすごく消耗するんですよね。

──1日のレコーディング時間は、自宅スタジオのほうが長くなるものですか?

さかい レコーディング自体は僕はすごく早いんです。1時間かからないぐらいでメインを録るんですけど、なんかくたびれちゃうんですよね。その1曲を経た声になるので声色も変わってくるし、なんかフレッシュな声じゃない。だから、1日休んでまた次の曲を録るようにしますね。

──レコーディングで一番時間がかかったのはどの曲でしたか?

さかい 「SPARKLE」かな。つるっと歌ったのは100テイクぐらいで、Bメロだけ同じ箇所で40テイクとか。それが段々増えていくので、通算何百テイクになってましたね。

──それは合計何日ぐらいかかったんですか?

さかい 結局5〜6回臨んでるんじゃないかな。最初は達郎さんみたいに歌ってみたり。「SPARKLE」は一番カバーしたくなかった曲だから、やっぱり思い入れというか、自分の中の「SPARKLE」像があるので、いつものさかいゆうが歌っても全然面白くなくて。自分の中の山下達郎みたいなものが出てこないと足りないんですよね。

「薔薇とローズ」や「ジャスミン」を歌ってるさかいゆうが「SPARKLE」を歌ってる日もあったんですけど、なんか足りないなって。「ストーリー」を歌ってるさかいゆうだと、あのエンディングの伸ばすところが出てこないから整合性がないなあと。

──客観的な視点で何度も録り直していったんですね。

さかい 僕にはいつも“さかいゆう”っていうプロデューサーがいて、そいつが一番主なんだけど、自分という肉体はプレイヤーだから“さかいゆう”っていうシンガーになるんです。主がヴォーカリストたちを雇って歌ってるっていう意識なので、その主が許してくれなかったですね。

ヴォーカリストのさかいゆうが、“今日うまく歌えたからこれでいいじゃん”って言っても、プロデューサーのさかいゆうが“あんまり面白くないなー”って。それで“あ、これだ!”っていうのは、最後に完成したこのテイクです。

──少し経って聴き返したときに、また録り直したいと思うことはありますか?

さかい もちろんありますよ。それはどの曲も全部そう。これはキース・ジャレットの言葉ですけど、時間が経つと作品が自動的に世の中からパッて消える。これが一番健全だって。よーくわかりますね、精神衛生上はね。

ただ、リリースしたらもう、お金を払ってその音楽に出会ってくれた人のものだから。それは芸術作品である側面プラス、その人の思い出が帯びるじゃないですか。だからもうなくせない。それは、思い出込みの料金だと思うから。我々が、“もう昔の歌なんか聴いてられねえよ”って文句言うのはいいけど、もう録っちゃったわけだから、別人だと思って聴いてます。

だって、その時代それぞれで歌い方って違うじゃないですか。玉置浩二さんも安全地帯、80年代、90年代の頃から徐々に変わって今のスタイルがある。達郎さんもデビュー前、シュガー・ベイブの頃、デビューしたあとの80年代、40代、50代でそれぞれ歌い方が変わってきているし、それは受け入れるしかないですよね。戻ってリテイクしてやり直したい気持ちはありますよ。でも、だったら新しい曲を作ります。

──最後に、ヴォーカル・マガジン・ウェブの読者へメッセージをお願いします。

さかい 歌うことは自分でも知らなかった自分の発見だったりするので、ぜひ楽しんで。歌がうまいとかヘタとか、けっこうどうでもいい話ですからね。時代と波長が合わなくても、プロになれなくても、その人が歌う歌というのはその人の発見の連続なので。僕もそうだし、どうか自分の好きな歌を歌ってほしいなって思います。


リリース情報

さかいゆう & origami PRODUCTIONS
『CITY POP LOVERS』

2022年11月30日リリース
配信・CD購入・アナログ盤予約:https://virginmusic.lnk.to/CITYPOPLOVERS

●初回生産限定盤 CD+DVD
4,950円(税込)
特典DVD:2022年8月6日に故郷 高知県土佐清水市で開催した「酔鯨酒造 presents さかいゆう sings Whale Song」ライブ映像(約60分収録)

●通常盤 CD
3,300円(税込)

<CD収録曲>
01. SPARKLE
さかいゆう feat. Ovall, Kan Sano, Michael Kaneko, Hiro-a-key
作詞:吉田美奈子 作曲:山下達郎(原曲:山下達郎)
プロデューサー:さかいゆう

02. 砂の女
さかいゆう feat. 関口シンゴ
作詞:松本隆 作曲:鈴木茂(原曲:鈴木茂)
プロデューサー:関口シンゴ

03. ゴロワーズを吸ったことがあるかい
さかいゆう feat. Ovall
作詞曲:かまやつひろし(原曲:かまやつひろし)
プロデューサー:Ovall

04. 真夜中のドア〜stay with me
さかいゆう feat. Shingo Suzuki
作詞:三浦徳子 作曲:林哲司(原曲:松原みき)
プロデューサー:Shingo Suzuki

05. プラスティック・ラブ
さかいゆう feat. Kan Sano
作詞曲:竹内まりや(原曲:竹内まりや)
プロデューサー:Kan Sano

06. ピンク・シャドウ
さかいゆう feat. Michael Kaneko
作詞曲:岩沢二弓、岩沢幸矢(原曲:ブレッド&バター)
プロデューサー:Michael Kaneko

07. 夢で逢えたら
さかいゆう feat. Nenashi
作詞曲:大瀧詠一(原曲:大滝詠一)
プロデューサー:Nenashi

08. やさしさに包まれたなら
さかいゆう feat. mabanua
作詞曲:荒井由実(原曲:荒井由実)
プロデューサー:mabanua

09. オリビアを聴きながら [Bonus Track]
さかいゆう feat. さらさ
作詞曲:尾崎亜美(原曲:杏里)
プロデューサー:さかいゆう

10. 夏のクラクション [Bonus Track]
さかいゆう
作詞:売野雅勇 作曲:筒美京平(原曲:稲垣潤一)
プロデューサー:さかいゆう

●アナログ盤(LP)
2023年1月25日(水)発売
3,850円(税込)


ライブ情報

4年越しの野音ライブ開催
2023年4月8日(土)
開場16:00 / 開演17:00(20:15終演予定)
※雨天決行・荒天中止

会場:東京・日比谷野外大音楽堂
ゲスト:Ovall, Michael Kaneko, Nenashi a.k.a Hiro-a-key, Shingo Suzuki, mabanua, 関口シンゴ, さらさ
チケット:全席指定 7,000円(税込)※小学生以上有料
さかいゆう公式サイト:http://www.office-augusta.com/sakaiyu/


プロフィール

さかいゆう
高知県土佐清水市出身。唯一無二の歌声と、SOUL・R&B・JAZZ・ゴスペル・ROCKなど幅広い音楽的バックグラウンドをポップスへと昇華させる、オリジナリティ溢れるサウンドが魅力のシンガーソングライター。高校卒業後、18歳のときに突如音楽に目覚め、20歳で上京。22歳で単身LAに渡り、独学でピアノを始める。2009年「ストーリー」でメジャーデビュー。自身の楽曲だけでなく、小泉今日子、坂本真綾、SMAP、Sexy Zone、Da-iCE、DISH//、土岐麻子、新妻聖子、薬師丸ひろ子、和田アキ子、など多くのアーティストに楽曲提供を行なっている。2018年から世界中を旅しながら、John Scofield(g)、Ray Parker Jr.(g)、Bluey from Incognito(g)、Stuart Zender(b ex.Jamiroquai)、Terrace Martin(sax)、Nicholas Payton(tp)、Renato Neto(k)など世界的なプレイヤーとのレコーディングを実現。2021年5月12日に8枚目のオリジナルアルバム『愛の出番 + thanks to』をリリース。2022年6月22日、「Whale Song」(酔鯨酒造50周年記念ムービーテーマソング)を始め、故郷・高知にまつわる楽曲を集めた『Whale Song EP』をリリースし、iTunes R&Bチャートにて1位を獲得(連続1位獲得記録を更新中)。8月には故郷・土佐清水市で凱旋ライブとなる『酔鯨酒造 presents さかいゆう sings Whale Song』を開催した。

関連リンク

オフィシャルサイト:http://www.office-augusta.com/sakaiyu/
YouTube さかいゆう 公式チャンネル:https://www.youtube.com/c/sakaiyu/
Twitter:https://twitter.com/Sakai_Official
Instagram:https://www.instagram.com/sakai_yu0920/
Facebook:https://ja-jp.facebook.com/YuSakaiOfficial/

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