【インタビュー】横山 剣(クレイジーケンバンド)が初登場! 結成25周年を迎えての意欲作『樹影』制作話と、唯一無二のヴォーカルスタイルを深堀りして訊く!

取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)
ライブ写真:©️本多亨光

いい声が出てる、出てないというよりも、その“情感”を出したい

──今回18曲が収録されていますが、「Almond」、「ドバイ」、「莎拉 – Sarah」とリズミカルでありながら、サビはストリングスをフィーチャーしたナンバーが数曲あります。僕はこういうアレンジを聴くと、かつて昭和の時代によく流れていた航空会社のCMを思い出してしまうんですよ。サビにゆったりとしたストリングスが必ず入っていて……。

横山 そうそう。《城達也です》のナレーションでお馴染み『JET STREAM』(TOKYO FMの名物番組)はよく聴いてましたから(テーマ曲は「ミスター・ロンリー」)。あとはキャセイパシフィック航空で離着陸のときに流れてくるバリー・ホワイト「愛のテーマ」とかね。フィラデルフィア・ソウル的なものや、ジム・ウェッブ、バート・バカラックとかフランシス・レイとかミシェル・ルグラン、ラロ・シフリン……。もう必ずストリングスが入ってるんですよ、困ったことに(笑)。

いわゆるバンドコンボっていうスタイルではできない音ばっかり頭の中で鳴っちゃってるので、それが非常に困ったなということでね。11人のメンバーですら足りない(笑)。

──レコーディングでは、例えば異国の風景などを想像しながら歌っているのですか?

横山 そうですね。何かそういう景色が浮かんでいるわけです。それで、“この景色にこの(自分の)声は合わないな”と思ったら、バンドに男性ヴォーカルのGT、女性ヴォーカルのAyeshaがいますので、ちょっと歌ってもらうとか。シャウトをベースの(洞口)信也くんにやってもらうとかします。声素材がすごく多いバンドなので。

──「夕だち」は速めのボサノヴァです。夏の短い恋を見事に表現されていますが、この曲はリズムにきちっと言葉が入ってきている感じがありますね。どのあたりに注意して歌っていますか?

横山 ボサノヴァって、耳には心地いいんだけど、パーカッシブに歌を乗っけていくには、“この位置に(アクセントやリズムが)入って来ないとグルーヴしていかない”みたいな、すごくシビアなところがありますね。メンバーが言うには、ボッサは譜面上では表現できないところがあるようです。そこを掴んでいくのが難しいところでもあり、楽しいところでもありますけど。

──歌もルーズなようでいて、ルーズじゃない?

横山 あんまりルーズだとギアが入らないですもんね。かと言ってハシっちゃいけないっていう……もうどうすればいいの?って感じ。小野リサさんが涼しい顔をして歌いつつ、ギターを弾く指は忙しく動いてるって、“何事よ!”って思うんですけどね(笑)。そういう意味でボサノヴァって、すごく大変な音楽かなとは思います。

──「強羅」はオシャレで現代的なトラックが印象に残るのですが、そこからどうして少し古めかしい響きのある強羅の旅館で、束の間の逢瀬を楽しむ男女の物語になったんでしょう?

横山 「強羅」ってタイトルで曲にしたいという思いは20年以上前からあったんですが、やっとそれに見合うトラックをparkくんが作ってきてくれまして。そのトラック上にメロディを乗っけました。また、ちょっとデュエットにしたいなと思ったので、そこの歌詞をAyeshaが作ってできあがった感じです。

もうトラックが自分の中で強羅っぽい(笑)。ちょっとジャジーなんだけど、ちょっとネオソウル的な。昔の強羅じゃなくて今の強羅ですね。玉砂利があるかどうかちょっとわかんないけどあるとして、そこに高級アメ車のキャデラックCT6で乗りつける、みたいな。そういう絵が浮かんだんで、そのままを歌詞にしただけなんです。

──セルフライナーノーツには、“5分でメロディと歌詞の原案が押し出された”と記載されています。

横山 はい、そういうことです。昔からお忍びっていうと熱海とか強羅ってイメージがあるんですけど、中でも強羅は“上質なお忍び”みたいな。

──なるほど。だから、オシャレなトラックが合うわけですね。熱海だとちょっと違うかなと……。

横山 そっすねぇ、熱海は熱海で違った趣がある。歌詞の中で《JazzはToo Muchだぜ》って言ってるのは、そういう(お忍びで使われる)旅館にあらかじめジャジーなCDが置いてあったりとかするんだけど、“あれをかけるのはちょっと恥ずかしいな”っていう感じを入れてるんです。“もうちょっと引いたほうがいいかな”って、そういう微調整も入ってます。

──「ウェイホユ?」は、メロディや歌い方で他の曲と少しばかり違う印象を受けました。いい感じのアジアの短編映画を観たあとの感じというか……。

横山 この曲の仮歌を入れるとき偶然鼻声になっていたんです。普通は鼻声だったらやめるんですけど、この曲はそのぐらいのほうがいい塩梅かなと思って。後日、本歌のレコーディングもやったんですけど、なんかやっぱり感情が入りすぎちゃってダメで。ちょっとボソッと歌ったほうが、なんか切なくなるっていうのがわかったので仮歌をそのまま使うことにしました。僕は歌をうまいとかヘタとか、いい声が出てる、出てないというよりも、その“情感”を出せたらと思ってるんです。

──「The Roots」はジャパニーズ・ソウルというか、いわゆる演歌のような節回しが特徴的です。メロディが完成した瞬間は“おおおおおおお!”と思ったけど、そのときはお蔵入りになり、それが今回復活して収録されたとのこと。

横山 2年前の『NOW』ってアルバムのときにメロディも詞も曲もできて、そのときのアレンジで一回デモ音源は完成したんですけど、何かもうひとつ歌詞とか曲調にばかり耳が行っちゃうなと。やっぱりサウンドもありきだし、このアレンジだとバランス悪いなってことでお蔵入り、ボツにしたんです。

でも、そのときparkくんがすごくガッカリして、“なんであの曲を入れなかったんですか”って言われたんで、“いや、ちょっとなんかイマイチなんだよね”と答えたら、parkくんがアレンジさせてくださいって言ってくれて。今回アレンジしてもらったら、自分がやりたかった以上のものになって、ちょっと特別な曲になりました。

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