【インタビュー】横山 剣(クレイジーケンバンド)が初登場! 結成25周年を迎えての意欲作『樹影』制作話と、唯一無二のヴォーカルスタイルを深堀りして訊く!

取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)
ライブ写真:©️本多亨光

ヴォーカルに関しては“自分に向いてることしかやらない”

──25年という月日の中で、剣さんのヴォーカルスタイルは、どんな変化がありました?

横山 自分はあまり高いキーではないので、他の人が歌ったら低いキーでも、自分だと目一杯シャウトして聴こえる。それは悪いようで得でもあるんです。ただ(キーの)ピークが早く来ちゃうので、キーが低めなのがサウンドに悪い影響を及ぼすこともあって。そのキーの音だとギターやベースが良い音で鳴らないとか、そういうときもあるんですよ。そこで、高い部分を担うヴォーカルを増やしたんです(菅原愛子、スモーキー・テツニ、Ayesha)。

ヴォーカルに関しては“自分に向いてることしかやらない”ところがあって、どんな良い曲ができても“自分だったらこの曲はダメだ”みたいなときは、迷わず違う人に歌ってもらいます。

──自身のスタイルを変えるのではなく、複数のヴォーカリストでバンドの幅を広げたわけですね。

横山 そういうことですね。自分の歌い方の根幹にあるのは日本の演歌とか民謡、それからソウルミュージック……。要はこぶしを使う唱法にすごく興奮を覚えて影響されたんです。CKBはサウンド的にいろんなものがあるんですけど、どれも歌い方は同じように歌えるので(ヴォーカルスタイルは)1本なんです。自分のまま、なんでも歌っちゃう。

矢沢永吉さんは、すごくソフィスティケートされた、それこそシティポップのど真ん中を行くようなAOR的なサウンドをずっとやってるのに、(YAZAWA色の)歌でそれをブチ壊すっていう痛快さがありますよね。そのワイルドな歌い方でメロウな曲をやる感じが僕は大好きなんです。ジェームス・ブラウンも「セックス・マシーン」みたいな曲ばかりじゃなくメロウな曲もけっこうあるんだけど、そのメロウな曲を悲鳴のように歌う。そういう感じに影響を受けたんだと思いますね。

──スタイルを持っていて、ブレないヴォーカリストがお好きなんですね。

横山 そう。何をやっても“その人印!”みたいな。ユーミンさん(松任谷由実)や山下達郎さんも独自の歌い回しですよね。僕がいいなと思うヴォーカリストって、何を歌っても“その人ブランド”になるような人。良い意味でどんなジャンルを歌っても同じに聴こえるっていうのが逆にいいなと思いました。

──そういう意味では、剣さんの太くて渋い声も唯一無二だと思います。発声時に意識していることはありますか?

横山 やっぱり喉が温まってくると声がよく出てくるので、例えば車で横浜から中野サンプラザに移動する間に音楽をかけて、そこである程度温めてから会場でリハーサルをやると声をつぶさないんです。それをサボってリハーサルで使い切ったら本番がグダグダってこともあったので、そうならないよう本番にちょうど良くなるような調整をします。

──ライブリハの“前段階としてのリハ”を車の中で?

横山 そうですね。車で言うと暖気運転(注:機械を始動した直後に低負荷での運転を一定時間行なうこと)。このバンドになってから“暖気が必要なのかな”って考えるようになりました。それまではもうワーッてやればいいと思ってたんですけど、だんだんそうもいかなくなってきたっていうね。

──ツアーなど旅先ではどうされていますか?

横山 楽屋だとみんなが楽しくしゃべってるのを邪魔しちゃ悪いんで、あんまりやらないんですけど、ホールの廊下とか、ホテルの部屋とか歩きながら多少声を出します。布団に向かってバーッと声を出すのが一番ミュートされるから、誰にも迷惑かからないんです(涙)。

──常に気をつかってライブに挑んでらっしゃるんですね。

横山 はい。ま、やらないときもありますけど、やると間違いないです。すごく結果に現われやすい。それからフライドチキンを食べて、ちょっと油分を入れると喉の滑りが良くなりますね。あとは香港で買ってきた喉の薬があるんです。香港の歌手とか舞台女優さん、俳優さんが愛用しているんですけど、それをお湯で溶かして飲むとけっこう違いますよ。それからバリ島でしか売ってない薬も効きますね。

ほかにも、山王病院ボイスセンターを辞めて独立したこまざわ耳鼻咽喉科の駒沢先生のところに行くと、魔法の処方をしてくれます。

──先生には定期的に診てもらっているんですか?

横山 調子が悪いときだけですね。

──今までにヴォイストレーニングをやったことはありますか?

横山 昔、35年以上前に一回だけやったことはあります。

──CKBの前ですね。そのときは、なぜやろうと思ったのですか?

横山 スウィート・ソウル系のコーラスグループが好きなんですけど、自分はファルセットが芳しくないので、できるようになりたいなと思ってやったんですけど、全然ダメでした。だったら万能になるより、自分の声のキャラを極めようと思いました。

──剣さんのお好きなアメ車は排気量があってトルクがでかいじゃないですか。お声も同じ感じがするんですよ。

横山 あぁ、なんかアメ車的なエンジン音とかってすごく意識しますね。僕は休みのときはサーキットに行ってカーレースをやるんですけど、排気音みたいなものはサウンドとして気持ちいいので、声もそういうドラゴンみたいなイメージはあるかもしれません。例えば矢沢永吉さん、山下達郎さん、松崎しげるさん、あとは西城秀樹さんなどの、あのちぎれるような歌声。ああいうのはたまらないですよね。

──その方々も剣さんも、実はまだトルクに余裕がある中で声を演出できているからか、聴いていても安心できます。

横山 そうですよね。自分ではまだ若干波があるので、今日はイマイチかなってときもあるんですけど。

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